わさび×テクノロジーで、“日本のわさび”を世界に。「わさび栽培技術」を継承し昇華させるアグリテックベンチャー・NEXTAGEの挑戦
2025年4月24日(木)12時0分 PR TIMES STORY
農業経験がない所から、「わさびの屋内工場での栽培」に取り組もうと決意した経緯と、いま見据えている次なる挑戦について、中村氏に話を聞きました。
いつもの場所での光景が、わさび業界の課題を知るきっかけに
——代表がわさびに興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか。
当時の様子を話す、NEXTAGE代表の中村拓也氏
あらためて考えてみると、原点は母親だったのでしょう。能や歌舞伎など、日本文化に触れさせてくれる母親で、日本食を食べに連れて行ってもらうこともあったんです。そこで擦って使うわさびを見て、「家ではチューブわさびを使っているけれど、本来のわさびはああいうものなんだな」と知りました。ただ、そこでわさび愛に目覚めたという話ではなく、当時は「知った」程度でしたね。
そこから今につながるのは、頭をリセットする時に訪れる軽井沢の湧水地での気付きがきっかけです。その場所の近くにわさび田がありました。何度か足を運ぶなか、雨により土砂が被ってしまい、2、3年経ってもそのままというわさび田の現状を目の当たりにし、「これ、どうなるんだろう」「このままだとわさびがなくなってしまうのでは」と思ったんです。
そこで調べてみたところ、わさび農家が激減していることを知りました。話を聞きに行ったわさび農家の方から、気候変動により暑いなかで作業をしなければならない大変さ、栽培の難しさを痛感したんです。そこで「屋内で栽培できるようにできないだろうか」と考えたのが、わさびの自動栽培という事業に挑戦することになったきっかけです。
——その当時、「植物工場」を取り巻く状況はどのようなものでしたか?
2018年頃は葉野菜が中心で、調べてみると「初期投資がかかりすぎる」とか「事業性を担保できない」とかネガティブな話ばかりが出てきました。
——そんな現実を知っても「わさびを植物工場で屋内栽培する」挑戦をしようと思えたのはなぜですか?
まず、植物工場でやるべき作物があると考え、わさびはまさにそうした植物だと思ったんです。わさび農家の方から、わさびは栽培が難しく、収穫期間が1年〜2年ほどと長いという話も聞いていましたし、文献を読んでみても栽培の難しさが技術伝承の壁になっていることがわかりました。そのため、植物工場での栽培技術を確立し、収穫期間を短くできたら、事業性を担保できるだけの価値になるのではと仮説を立てたんです。実際、この仮説は合っていました。
また、工場で育てられるようになれば、場所を問わずに栽培できるのも利点のひとつだとも思いました。わさびは冷涼で澄んだ湧水の流れる中山間地と、栽培場所も限られる植物です。植物工場で栽培できるようになれば、この「場所依存」をなくせます。そのため、「どこでも」がキーワードになりました。
——わさび農家の方からすると競合になると思われる挑戦だったのではないでしょうか。
確かに、そう思われた節はあっただろうと思います。しかし、私は最初からわさび農家と競合する気はなく、連携モデルも念頭に置いて始めたんですよ。私が実現したかったのは、わさび農家が減ったことで少なくなった生産量を回復すること、場所を問わずに栽培できるような仕組みを作ることで、わさび栽培に関わる人を増やすことなんです。
PDCAを回しづらい環境でも、先入観の無い柔軟なアプローチで事業を形に
——NEXTAGEが開発したわさび栽培モジュールについてご紹介いただけますか?
当社のわさび栽培モジュールは、40ftサイズの断熱コンテナの中にわさびの水耕栽培に必要な設備を格納したものです。小さめのモジュールにしたのは、「究極の地産地消を目指したい」という想いが理由でした。
わさび田での栽培は場所を選ぶので、栽培場所を問わない植物工場にすることで、栽培関わる人を増やしたいと思ったんですよね。そうなると、大型工場よりも小型のほうが適しているでしょう。そうした発想から、栽培モジュールを思いつきました。
ただ、これは結果的に栽培技術の確立面においても正解でしたね。我々が目指したのは最適化された栽培技術の開発だったのですが、規模が大きくなればなるほど、気温や水温など、条件を保持するハードルが上がります。まず小さい空間の中で栽培技術の確立に向き合えたことが、今の我々の資産になってくれていると思います。
——現在は徐々に取引が増えてきているかと思いますが、ここに至るまで何が大変でしたか?
「ただ屋内で栽培できるようにする」ではなく、「屋内で栽培することで、露地栽培よりも収穫までに要する期間を半分にする」ことを最優先事項に置いたのですが、そのために満たすべき条件を知るために、イチから勉強していったのが大変でしたね。それは光なのか、空気なのか、水なのか。どれをどう変えれば促成栽培が可能になるのか、ひとつひとつ紐解きながら試行錯誤する必要がありました。
また、PDCAを回すことの大変さも課題でしたね。30日で栽培できるものならば一定のスピードで回せますが、形になるまで1年は要するので、多くのPDCAが回らないんです。であれば、レビューできる仕組みを考えなければならない。あらゆる壁にぶち当たりながら取り組みを進めていきました。
促成栽培できる方法を見つけ出した次は、適したハードウェア作りに取り掛かりました。これもまったくどういったものが良いのかわからないわけです。ひとつのモジュールでできるだけたくさん栽培したいわけですが、詰め込みすぎると干渉し合って適切に成長できなくなってしまいます。高さはどれぐらいがいいのか、決められた面積の中でどれぐらいの株数を入れるのがいいのか、区分けはどうするのか、事業性の担保を考えたときの適正量はどれぐらいで、それを満たせる数を作れるのかなど、パートナーと話しながら最適化を進めていきました。
なお、これが工場栽培の良さなのですが、栽培方法は「デジタルレシピ」なんですね。そのため、もっと良いレシピが見つかれば、提供後も変更することができます。当社のオフィスには実際にわさび栽培モジュールがあるのですが、ここでさらなる改善ができないかを日々実験しているんですよ。
——想定していた大変さと実際に取り組んでみての体感とにギャップはありましたか?
ありました。正直、そこまで難しいとは思っていなかったんですよ。最初は「2年で事業化する」と書いていたくらいで。でも、結果は6年かかっていますからね。
——断念したくなったりはしませんでしたか?
開発がなかなか思うように進まず、心が折れそうな瞬間は数えきれないほどありました。そこを乗り越えられた要因のひとつは、「わさびだ!」と周囲に言い始めたことで知人や友人から寄せられた「海外でのわさびニーズ」だったのかもしれません。「まずは日本で」ではありましたが、日本食ブームが広がるなか、海外で日本のわさびを欲している人たちがいることを知り、「ここでへこたれてはいられない」と思うと、諦める選択肢はなかったですね。
——黎明期は、ずっと代表ひとりだったのでしょうか。
いえ、2025年3月に取締役に就任した佐久間が早期から仲間になってくれました。元同僚で、デジタルマーケティングに長けた人物の彼に栽培技術責任者を担ってもらったんです。当初は、対外アピールをしたい私の想いと、一足飛びにアピールできるところまではいけない世界にいる彼の想いとがぶつかり合うことがあったのですが、2、3年かけて足並みを揃えられるようになったかなと思います。
彼に栽培技術責任者を任せることに決めたのは、彼の「栽培技術もデジタルマーケティングと似ていて、結局はプロセスを連続させていくことで、ゴールにたどり着くものだと思いますよ」と言われた言葉でしたね。「この濃度の養液を入れたらこうなった」と、「こうしたらこうなった」の成功例を組み合わせていく作業は、デジタルマーケティングのアプローチと同じだと。私にはそのアプローチは全然わからないのですが、彼のその言葉には非常に納得感があり、「任せよう」と思ったんです。
——1人目の仲間に、わさびや農業に詳しい人を入れようとは思わなかったんですか?
思わなかったです。知っていると、先入観から入ってしまうのではと思ったので、あえて最初のメンバーに専門家を入れることはしませんでした。ただ、専門家のパートナーはいます。特に大学研究者の方には当初からお世話になりました。
——わさび農家の方々との関係性はいかがでしょうか?
最初は難しかったですね。先ほどもお話したように、農家側からすると競合にしか思えないところがあったでしょうから。そのため、足しげく通う、連絡を入れて反応を待つといった具合に、営業の基本をやるしかありませんでした。
あとは実績作りですね。コツコツ実績を作り、できたら発信する。その繰り返しで、農家さんからのアプローチが増えました。今では、訪れた農家さんから「聞いたことがあります」と言っていただけたり、わさび加工メーカーさんと親しくさせていただいたりしています。パートナーはすべて相手側からのアプローチでご縁をいただけたものです。
日本食好きな海外の方にも「日本の本物のわさび」を食べてほしい
——先ほど「海外」というワードが出てきました。あらためて、海外でのわさびのニーズ、課題をご説明ください。
「わさび作りに挑戦したい」と口にし始めたことで、知人や友人から「タイで日本食レストランに行ったらわさびがあったよ」とか、「海外でわさびを食べたけど美味しくなかった」など、いろいろな情報が寄せられるようになったことが、「海外でもわさびって使われているんだ」の気付きになりました。
そこで海外の日本食レストランの数を調べてみたところ、国によってはかなり大きく伸びていることがわかったんです。そうしたところにアプローチをしてみたらどんな反応があるんだろうと思いましたね。
私自身が最初に行ってみたのは東南アジアの日本食レストランです。そこで話を聞いてみたところ、「本当は日本で使っているような本物のわさびを使いたい」など、海外のわさびに満足していない声が集まってきたんです。
——海外のわさびは日本のものとは異なるんですね。
私も食べましたが、風味も辛さもなく、「見た目だけわさび」というものがありました。そもそも、日本においてもチューブわさびは本物のわさびとは異なるものが多いです。せっかく日本食に関心を持ち、わさびを使いたいと思ってくれた海外の方たちに、日本のわさびを伝えたいと思いましたし、その義務があると思いましたね。
ヨーロッパやアメリカでは、「輸入すると高いうえ、鮮度が担保されていない」「現地栽培した日本のわさびがあると嬉しい」という声がありました。あくまでも私の肌間隔ではありますが、確実にマーケットがあるだろうと思えたんです。
「まずは日本。でも、いつかは海外にわさび栽培モジュールを輸出し、現地栽培を可能としたい」。この構想は、NEXTAGEを立ち上げた当初から私の中にあったものでした。
本物のわさびを届けるため、そして海外の需要に応えるため、新たに「大規模工場」での栽培に挑戦
——NEXTAGEは「究極の地産地消」をキーワードに、どこでも栽培できる小型のモジュールを展開してきましたが、新たに大規模な植物工場でのわさび栽培にも取り組むことになりました。この方向転換についてお聞かせください。
ここは誤解してほしくないのですが、何も方向転換をしたわけではないんです。これまで通り、いろいろな地域でわさびを栽培していただき、その地で食べていただく地産地消を進めていく考え方に変わりはありません。
それは海外でも同じです。ただ、海外の場合、わさび栽培モジュールを輸出するだけではニーズに十分に応えられないと思ったんです。
海外といえども、いろいろな国・地域があり、そのなかには物流のハブとなれる地域もあります。そうした地域に対しては、大規模工場で栽培したわさびを輸出することで量を担保できます。一方、輸出しやすい地域から離れている地域の場合は、鮮度を保つ意味でも、現地でモバイル農業できるわさび栽培モジュールのほうが適しているでしょう。あとは「地産のものを買いたい」というニーズがある地域も、わさび栽培モジュールでの地産地消が喜ばれるはずです。
個人的には、地産地消できるわさび栽培モジュールを進めたい想いがあります。ただ、日本のわさびニーズがあるところすべてに、その需要に応えられるだけのモジュールを配置するのは時間がかかることですから、大型工場で栽培して輸出するスタイルと組み合わせることで、需要に応えられる体制を築きたいと考えたというのが、「大規模植物工場」の理由なんです。
——進捗はいかがですか?
お声がけをいただき、パートナーとなってくださった企業が出てきてくださったことで、2025年4月に着手しました。3年後には大規模栽培が実現し、海外への輸出も本格的に始められるのではと思っています。
実は、このパートナーさんにはうれしい裏話があります。助成金で資金を得ようと思っていたところ、最後のところで申請が通らず、謝罪の連絡をした当社に対し、「何を言っているんですか。申請に落ちたからといってやめましょうと言うつもりはありませんよ」と言ってくださったんです。助成金をいただけるかどうかに関係なく、一緒に挑戦してくださるつもりだった言葉を受け、心が震えました。
わさびを届けるだけではなく、「わさびの食文化」の提案、魅力発信にも取り組みたい
——栽培モジュール、そして大規模な植物工場の取り組み。大小、国内外と事業が広がっている当社ですが、今後についてはどんな展望を描いているのでしょうか。
直近の目標は、「生産者を増やし、いろいろな場所でわさびを栽培できるようにすること」です。そのためにも、栽培技術のデジタルレシピを練り込んでいきたいですね。また、まずはわさびの栽培レシピ作りに注力してはいますが、ゆくゆくはこのレシピを根菜の工場栽培にも応用させられるのではないかと考えています。根菜はまだ工場栽培の例がほとんどないので、その可能性にわくわくしますね。
また、消費者の方にわさびの食文化をお伝えしていきたいとも思っています。日本人ですら、今はわさびを擦って食べたことのある人は少ないでしょうし、葉わさびや花わさびなど擦って食べる部位以外のわさびを食べたことのある人もあまりいないでしょう。そもそも、葉茎を目にする機会すらほとんどないでしょうから。
国内外に向けてわさびの良さを伝えるためには、ブランディングが大事です。まずは日本人に向けて、「わさびって、こういう風に食べるとおいしいんだよ」「こんな食べ方があるんだよ」と伝えながらブランディングを行い、その経験を活かして海外の方たちにも日本の食文化を支えるわさびについて発信していきたい。作って売るだけではなく、わさびの食文化を広めていくことも、我々の責務だと思っています。
わさびを使った新レシピ作りの様子
しらすとわかめの葉わさびおにぎり
さらに、食材としてのわさびだけではなく、わさびの持つ成分にも可能性やニーズがあると思っています。促成栽培の次は、含有成分のコントロールができるデジタルレシピ作りにも挑戦したいですね。レシピを調整すれば、成長スピードの管理も品質管理も簡単にできる。そんな未来を実現したいです。
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