「鍵開け2000円~」は釣り広告…自宅の鍵を無くした男性が「24時間トラブル対応」業者から請求された金額
2025年4月29日(火)17時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/penyushkin
写真=iStock.com/penyushkin
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■ネットでは“安さ”をうたっていた
トイレが詰まった、鍵が開かない、水道漏れがひどい——生活のことにまつわる緊急事態は突然にやってくる。すぐに業者を検索して何とかしてほしい。そんな焦りにつけ込んで、法外な値段を請求する“レスキュー商法”と呼ばれる悪質な行為が近年報告されている。
東京都在住の石井治郎さん(仮名、30代)はある日、鍵を紛失したことに気がついた。石井さんには妻と子どもがいるが、あいにく帰省中ですぐに戻らない。時刻は午後8時、冷たい雨が降っていた。家の前で立ち尽くしていても仕方がないので、スマホを取り出して検索を試みた。
「ネットで検索すると、鍵開けを標榜する業者はたくさん見つかりました。早く家に入りたいので、そのなかで検索の上の方にきた業者のホームページを見てみました。すると、鍵開けは2000円台からやっているようでした。さすがにそんな安い金額でやってもらえるとは思っていませんでしたが、『まぁ2万円くらいあれば開けてもらえるかな』と考えていました」
十数分すると、作業員が到着した。若い男で、鍵の確認作業をすると、意外なことを口にしたという。
■契約書を見て、金額に驚いた
「その男は、『お客さんはわからないかもしれないけれど、かなり特殊な鍵なので非常に難しい作業になります』と言いました。続けて、『3万3000円です』と。さらに、ピッキングが通用しない鍵だとして、『ドアののぞき穴から特殊な工具を入れます』と説明しました。この説明には納得がいきませんでした。というのは、我が家はアパートですし、鍵もよく見かけるタイプの製品です。こういうのもおかしいですが、防犯対策が完璧な家には思えないんです」
ホームページでの表記金額からすると3万3000円という請求には驚かざるを得ない。だがさらに驚くことは続いた。
「値段を聞いて『ホテルに泊まったほうが安いじゃん』とは思いましたが、翌日仕事で使う大切な資料が家のなかにあったことから、ホテル宿泊の選択肢はありませんでした。しぶしぶ承諾すると、作業員は直角に折れ曲がった細い鉄の棒を持ってきて、のぞき穴を外すと、スルスルと鍵を開けました。
中に入れたのは良かったのですが、サインした契約書をみて愕然としました。3万3000円は鍵1つを解錠する値段だったので、2つ鍵がついている我が家は請求が2倍になるというのです。暗いなかで契約書をよく見なかったのは落ち度かもしれませんが、騙し討ちに遭った気分です」
■9万円近くを支払ってしまった
それだけではない。さらに不可解な上乗せがあった。
「勝手に3万3000円と聞いて税込みの値段だと思っていましたが、そうではなかったようです。さらに、“夜間料金なので”と2万円近く上乗せされていて、結局9万円近く支払うことになったんです」
画像提供=黒島 暁生
当時の領収書(一部を加工しています) - 画像提供=黒島 暁生
結局、石井さんは支払いに応じたのち、消費生活センターに相談。クーリングオフを検討していたが、思わぬ横槍が入った。
「妻がとにかく心配性で。『そんな簡単に鍵を開けられる業者なら、逆恨みされて何かされたら困る』と懇願されたんです。それで泣く泣くクーリングオフを諦めました」
石井さんのように、SOSを求めた結果、そもそも適正価格がわからずに支払ってもやもやを抱える人は多い。国民生活センターも、近年、地域の消費生活センターに寄せられた「暮らしのレスキューサービス」への相談件数が目立つと再三にわたって注意喚起を行っている(「暮らしのレスキューサービスに係る消費者相談の概況」)。鍵の修理・交換に関しては増加傾向にある。
レスキュー商法被害対策京都弁護団の事務局長をしている増田朋記氏は、「われわれはこうしたレスキュー商法の本質を訪問販売であると捉えていて、その行為は詐欺であると考えています」と断じる。
■「検索上位」「聞き慣れない業者」に注意
それでは、日常生活で“レスキュー”を呼ぶ場合に、ホームページなどの情報から悪質な業者であるかどうかを見抜く方法はあるのだろうか。「一般論ではなく、レスキュー商法に関しての話ですが」と前置きをして、増田氏はこんな傾向を指し示す。
「レスキュー商法では同じ業者が、多数のGoogle広告を掲載し、その広告が検索結果の上位に示されるようにしています。Google検索の上位にいくためには、それなりの広告費用がかかります。大手業者でもないところが高額の広告費を支払って検索上位にいく理由は、その分を料金に乗せて客から取ることを最初から見込んでいるからでしょう。したがって、聞き慣れない業者が検索上位に来た場合は、警戒する必要があります」
さらに、そうした業者の広告を掲載するGoogleについても、増田氏は疑義を呈する。
「すべての広告を掲載段階で厳格に審査して排除しろというのは難しいかもしれません。ただ、われわれが調べて詐欺である可能性の高い業者については広告停止の申し入れをおこなっているのに、それが反映されないのはいかがかなと感じます」
悪質な業者だと知らずに自宅に呼んでしまい、高額請求をされた段階で騙されたことに気づいた場合、どのようにすればいいのか。
■「警察に通報します」と言えばいい
「本来は、その場で『警察に通報します』と言うのが良いでしょうね。詐欺業者からすれば騙す相手はいくらでもいるため、目の前の客を取り逃すことよりも逮捕されて商法を続けられなくなることの方が怖いわけですから。
ただ、警察もオレオレ詐欺などに比べるとレスキュー商法の違法性についての理解が深まっているとは言い難い現状があります。被害にあってしまった場合は、消費者生活センターに相談をして、クーリングオフを利用するのがいいでしょう。基本的には、全額返金とは言わないまでも、返金されるケースも多いと思います」
写真=iStock.com/Jack Quillin
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jack Quillin
だが冒頭の石井さんの事例のように、実際に鍵が開いている場合、被害者の心理としても声高に「全額返金」とは言えないのではないか。しかし増田氏は、意外なからくりを明かす。
「被害に遭われた人は皆さんそうおっしゃるんですが、実はそもそも業者に解錠の技術がないことがほとんどなんです。簡単に言うと、どんな鍵であっても『これは特殊な鍵でして』と説明します。そして、ドアののぞき穴から工具を入れるか、さらに不誠実な業者は『鍵そのものを壊さないと無理です』と言って壊して入室させます。のぞき穴から工具を使えば、ピッキングのような高度な技術は全く不要ですし、鍵を壊していいなら誰でもできますよね」
■弁護士からのクレームには“即返金”
そして、業者側から漏れ伝わるこんな話もあるのだという。
「技術の要らない仕事なので、業者には素人が集められているようです。そして、解錠しても取り分はかなり低く、1〜2割ほどだと言います。詐欺によって元締めだけが肥えるシステムという意味では、闇バイトの一種と言えなくもないかもしれません」
増田氏が弁護士として悪質業者と対峙するなかで、こんな体験もあった。
「同じ業者からの被害を訴える2件の別事件がありました。1件目は私から連絡してすぐに返金がなされました。そしてもう1件目についても私が連絡したところ、最初の事件と同じ人間が業者の窓口だったのですが、私からの通知書の内容が把握できておらず、契約内容も十分に確認できていないのに『速やかに返金しますので』というんです。おかしいですよね。
真っ当にビジネスをやっていたら、本来はどのようなクレーム内容なのかが重要になると思うんですが、弁護士からクレームが入ったからとにかく返金はする。彼らにとっては個々の案件でトラブルになるよりも、ビジネスを続けることが最優先なのでしょう」
■泣き寝入りしてほしくない
現在、増田氏らが運営するレスキュー商法被害対策弁護団は、被害金額に応じて安価な報酬で相談に応じている。その理由について、増田氏はこう話す。
「通常、弁護士に依頼する場合には、着手金だけでも最低10万円以上かかることになってしまうと思います。ただ、レスキュー商法の場合、たとえば9万円の被害金額を取り戻すのに10万円を支払う人はいませんから、泣き寝入りとなってしまいます。しかし詐欺は撲滅しなければならない。そうした考えから、およそ採算は合いませんが、ほぼボランティアでも引き受けることにしているんです」
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu
冷静沈着さを失えばどんな人間も脆い。まして生活に直結することであり、頻回に遭遇する事案でもなければ、「高い勉強代」と自らを慰めて無理にでも前を向こうとするだろう。
人の弱みにつけ込んだ愚劣なビジネス。だがそのビジネスで使役される者もまた、搾取される弱者でしかない現実があるかもしれず悲しい。悪質業者の“詐欺”のトレンドに精通した弁護士たちの奮闘に期待が持たれる。
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黒島 暁生(くろしま・あき)
ライター、エッセイスト
可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。
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(ライター、エッセイスト 黒島 暁生)