見方を変え、思考を刺激する「コンセプト」の威力とは?「トップ5%」の戦略コンサルだけが知る超一流の思考術
2025年4月24日(木)4時0分 JBpress
知的エリートである戦略コンサルタントの中でも、別格のパフォーマンスを発揮する超一流の人たちは「ものの見方」がそもそも違う。では、彼ら・彼女らは世の中をどのように見ているのか。ボストン コンサルティング グループ(BCG)出身のトップコンサルタントが30年間積み上げた知恵と経験の集大成として書いた『戦略コンサルのトップ5%だけに見えている世界』(金光隆志著/クロスメディア・パブリッシング)から内容の一部を抜粋・再編集。標準的なコンサルと超一流の違いの一つである「考えるという行為」について考える。
ものの見方を一新し、発想を広げる「コンセプト」の持つ力とは?
戦略思考を結晶化するコンセプト
何かの課題に対して、仮に同じインサイトを得て、同様の結論にたどり着いたとしても、トップ5%の戦略コンサルタントの最終的なアウトプットは違いがあります。
何が違うのかと言うと、示唆の射程が違います。「示唆の射程ってなんだ?」と思うでしょうが、とりあえず、なぜ示唆の射程が違うのかと言うと、トップ5%のアウトプットには往々にしてコンセプトがあるからです。では、コンセプトとは何か。
「コンセプト」はそのまま訳すと「概念」で、単純に言うと、物事から何か特徴を抽出し、それに名前を与えることですが、もう少しパラフレーズすると、現実を何らかの切り口で抽象し、「状態」に「かたち」を、「ランダム」に「秩序」を与えるものです。
ここで、第2回で考察した「パターン認識」について思い返すと、概念とパターン認識はとても似ていることに気づきます。実際、概念を捉えるには必ずパターン認識が先行します。ひとまず、概念を捉えることとパターン認識はほぼ同義と思っても大過ありません。
しかし、ここで「概念」ではなく、わざわざ「コンセプト」や「コンセプト化」という言葉を使うとき、それはパターン認識を前提にしますが、パターン認識以上の固有の概念を提唱しています。まさに、これが「コンセプト化」です。しかし、これでは何を言っているか、意味不明だと思います。そこで、事例問題を通じて、コンセプトとは何かについて理解を進めてみましょう。
要約は静的であり、コンセプトは動的である
次の文章を読んで、インドの消費社会の変化について完結にまとめてみてください。
【例文】
インドは1991年の経済改革以降、急速な経済成長を遂げました。自由化、民営化、グローバリゼーションの進展により、消費市場は大きく拡大、中産階級の増加と所得水準の向上が消費意欲を刺激しています。
インドの人口は非常に若く、30歳未満の人々が多くを占めています。この若年層は、新しい技術やトレンドに敏感で、消費意欲が高いことが特徴です。急速な都市化が消費パターンの変化を促進しています。農村から都市への人口移動により、都市部のインフラとサービスが充実し、消費者の購買力が増加しました。ショッピングモール、スーパーマーケット、オンラインショッピングなどの小売業態が普及しています。
また、インターネットとスマートフォンの普及により、オンラインショッピングやデジタル決済が急速に広まりました。eコマースプラットフォームは、消費者に多様な商品群と便利な購買体験を提供しています。こうした中、多くの国際ブランドがインド市場に進出しており、消費者に新しいライフスタイルやトレンドを発信しています。ファッション、エレクトロニクス、食品などの分野でも、海外ブランドが人気を集めています。
さらに、サービス産業、特に金融、健康、教育、観光などの分野の成長が、消費の多様化を促進しています。これにより、消費者はより多くの選択肢を持つようになり、新しい消費習慣が形成されています。
いかがでしょうか。この先は、できれば実際に考えをまとめてみてから読み進めることをお勧めします。いろいろな切り口でのまとめ方があると思いますが、たとえば、次のような要約が考えられます。
【要約例】
インド消費社会の3つの潮流
- 消費市場の拡大・意欲の向上
- 消費インフラの進化
- 消費行動・トレンドの変化
1. 消費市場の拡大・意欲の向上
- 1991年の経済改革以降、急速な経済発展
- 中産階級増加、所得水準向上
- 圧倒的な若年層人口構成
2. 消費インフラの進化
- 農村から都市への人口移動、都市のインフラ整備
- ショッピングモールやECなどの小売業態の普及
- ネット・スマホ浸透、デジタル決済の普及
3. 消費行動・トレンドの変化
- 多くの国際ブランドによるインド進出
- 新ライフスタイルやトレンドの提案・提供
- 消費の選択肢は多様化、新たな消費習慣形成
このように要約するという行為も言わば、「抽象化によるパターン認識」に他なりません。しかも、元の文章で明示されているわけではない「3つの潮流」という切り口で整理していて、割とよくまとまっていると思います。
では、これをもって「コンセプト」や「コンセプト化した」と言えるでしょうか。どうも違うと感じるのではないですか。いかにうまく抽象化やパターン認識ができていたとしても、これをコンセプトとは呼びません。要約はどこまでいっても、事実認識や整理に過ぎず「静的」です。
それに対し、コンセプトでは現状の事実認識や整理以上に、ものの見方や世界認識を更新するような切り口が提示され、それが新たな予測可能性を生み、思考を刺激し、広がりや発展可能性をもたらします。したがって、「動的」です。そして、新しい記号や新しい言葉で注意喚起的に言語化するのがコンセプト化と言えます。
ここで改めて、例文からコンセプトを導いてみます。インドが悠久の時を経て培ってきた伝統的な社会・生活・産業が、経済発展によって急速に変化し、グローバル標準の現代化が不可逆的に進行していることが伝わってきます。これをインド消費社会の「モダン化」とコンセプト化してみるとどうでしょう(図17)。
一見、要約と区別がつかないかもしれませんが、単に静的に整理しているわけではありません。「伝統 VS モダン」という対立軸(切り口)を導入することで、これまでの変化に意味付けし、記号化すると共に、今後の変化の方向性についても予測可能なイメージ喚起がなされています。
たとえば、「伝統的な服装をする人が減っていきそうだ」など、直接的な変化もイメージされますし、「モダン化によって多くの伝統文化がグローバルスタンダードに置き換えられていくならボリウッド映画産業(ムンバイの旧称「ボンベイ」と「ハリウッド」をかけ合わせた、ムンバイを中心とした映画産業を指す言葉)にも変容がもたらされるのだろうか」などと問題意識を広げることもできます。モダン化というコンセプトによって、さまざまな角度からこの先の社会的変化を想像できるようになります。これが、コンセプトの持つ力です。
<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者をフォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
筆者:金光 隆志