失敗したときに「反省会」だけでは不十分…大谷翔平選手が不調のときこそ実践している一流の思考法
2025年4月25日(金)18時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/picture
※本稿は、齋藤孝『すごいメタ思考』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■上機嫌でいるほうがお得
メタ思考ができると、心に余裕が生まれます。
なぜなら、自分がどういう状況に置かれているかを理解し、自身の言動をコントロールすることが可能になるからです。
メンタルが安定していると、気分のムラが少なくなります。
機嫌のいいとき・悪いときがなくなり、いつも上機嫌でいられるのです。
なぜ上機嫌でいることがいいかと言うと、何より自分が気持ちよく日々を送れるからです。晴れやかな気分で、いろんなことに前向きに取り組めます。
また、周りの人に好印象を与えるから、人付き合いがうまくいきます。誰だって、機嫌の悪い人には近づきたくないですからね。
つまり上機嫌でいるほうが、何かとお得なのです。
ただし、それだけで常に上機嫌を保つのは難しいでしょう。
だから私は、状態にかかわらず上機嫌を保つテクニック、つまり「上機嫌力」、あるいは、「ワザとしての上機嫌」が身についていることが重要だと思います。
じつは、この「ワザとしての上機嫌」を支えるのが、メタ思考なのです。
写真=iStock.com/picture
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■思考をベースに機嫌はつくられる
機嫌というのはきわめて情緒的な問題で、思考が気分や感情にひきずられそうな感じがしますが、じつはその逆なのです。
思考が基盤になって、機嫌がつくられます。
マイナスのこと・暗いことを考えれば機嫌は悪くなり、プラスのこと・明るいことを考えれば機嫌がよくなる。そういう関係にあります。
もうおわかりかと思いますが、メタ思考は感情をともなうふつうの思考ではありません。
あるがままの現実を直視し、理解したうえで、そこから自分をひきはがして物事を考える、言うなれば「現実に呑みこまれない思考」です。
だから機嫌が左右されることはないのです。「ワザとしての上機嫌は、メタ思考が支える」とは、そういうことです。
この「上機嫌力」が身につくと、公正な人格が養われます。
状況判断が的確なので、気分や感情に左右されて判断を誤ることがないからです。
しかもいつも上機嫌で、偉ぶるところがないので、人から嫌われることもありません。
ただし、上機嫌がいきすぎて、絶好調でいい気になっていると、足元をすくわれやすい時代でもあるので、上機嫌を“独り歩き”させないよう気をつけてください。
いまの時代、みんなのメタ思考力が上がってきていることもあって、偉そうな人は間違いなく嫌われます。
威張っている人は「まるで裸の王様だな。状況が全然見えていない」と見抜かれてしまうのです。
そのバランスを取るのもまた、メタ思考。
メタ思考に支えられたワザであればこそ、上機嫌は自分にとっても、周囲にとっても美徳となりうるのです。
■「反省会」ではなく「次の企画会議」をしよう
思考は感情とセットで考えたほうがいい。私はそう考えています。
後ろ向きのことを考えているのに、「気分は爽快! やる気満々!」なんてことはありませんからね。
逆に思考は前向きなのに、感情のほうは鬱っぽいということもあまり考えられません。
であるならば、常にプラスのことを考えているほうが、気持ちは前向きになるし、ハッピーな気分でいられるではありませんか。
世にプラス思考が推奨されるのは、感情面でのメリットを踏まえてのことでしょう。
メタ思考も同じです。冷静に状況判断するなかで、マイナスな思考や、他者に対して否定的な思考が入る場合もあります。
そうなると、心が自己否定と他者否定の両方に苦しめられることになりかねません。自分を過剰に肯定しようとして、他者否定に走ることもありますし。
そうならないようにするには、
「自己肯定感をもとに、メタ思考を働かせる」
ことが重要です。
メタ思考を鍛えるのであれば、マイナス思考をしても意味がないということを覚えておいてください。
メタ思考は前に進むエネルギーになるものです。
わかりやすく言えば、「反省会をするくらいだったら、次の企画会議にしようね」という感じ。
できなかったことについてはクヨクヨと引きずらず、前に進むためにどうしようかを考えるものです。
写真=iStock.com/Eoneren
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■「前に進む」ことで自己肯定感が生まれる
そもそも「覆水盆に返らず」で、過去に起きたことは「なかったこと」にはできません。
いかにメタ思考を働かせて、ああでもない、こうでもないと考えたところで、いいことは何もない。「メタ思考のふりをした堂々巡り」に陥るだけです。
むしろ、
「考えてもしょうがないこと・考えなくてもいいことは考えない」
と判断できることこそが、メタ思考のよさと言えます。
大谷翔平選手のすごさは、思考を整理して、次の行動につなげる思考の推進力にあります。打席に立って7割方打てないからって、立ち止まっていません。少し反省するにしても、思考はすぐに次の打席に向かっているはずです。
肘を故障しても、「手術しよう」「リハビリをがんばろう」「今シーズンは指名打者でいこう」「積極的に盗塁を狙っていこう」と、思考をどんどん前に進めています。
彼は彼流のメタ思考として、「次に考えるべきことを設定すると、マイナス思考から抜け出すことができる。それが自己肯定感につながるんだよ」と、私たちに教えてくれているようです。
■堂々巡りになりそうな悩みは吐き出す
このようにメタ思考を前に進む力と捉えると、「1人で悩んでいる時間」がもったいなく思えてくるのでは?
それでも悩みの穴から抜け出せないようなら、せめて1人で悩むのをやめましょう。
「1人で悩む」というのは、思考が進まないし、気分も下がってくることが多いので、危険なのです。
人と対話しながら進めていくほうが、ストレスがたまりにくく、思考も進みます。
ですから、心の中にモヤモヤがあるなら、誰かに吐き出すといいでしょう。
悩みというのは1人で考えるから長引くのであって、誰かに吐き出せば意外と短時間で解消できることが多いのです。
悩みを聞いてもらう方法は、おもに2つあります。
1つは、お金を払って、相談に乗ってもらうこと。
プロのカウンセラーなどに話を聞いてもらう方法もあります。メンタルの不調は、専門家への相談が効果的な場合があります。
あるいは、友だちに「コーヒー1杯おごるから、30分、自分のグチを聞いてほしい」と頼む。その程度のことで、かなり悩む時間を短縮化することができます。
「グチをこぼすのはみっともない」という考えの人もいるでしょうけど、私はそうは思いません。グチをがまんするのは、兼好法師が『徒然草』のなかで「腹ふくるるわざ」と言っているように、精神衛生上よろしくないと思うのです。
互いの悩みをグチにして聞き合う、それが友だちというものでしょう。
写真=iStock.com/Brothers91
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Brothers91
■誰にも知られたくない悩みのときは
もう1つ、お金がかからない方法。
仏壇あるいはご先祖様の写真や位牌などに向かって、問わず語りにこちらの胸の内を吐露することです。
齋藤孝『すごいメタ思考』(かんき出版)
相手は見えないが、1人ではない。身内に守られている感がある。そこがミソです。
「死人に口なし」ですから、こちらの悩みをうっかり暴露される心配もありません。ご先祖様が遠い存在なら、人形やぬいぐるみ相手でもいいでしょう。
あと、いまふうにChatGPTを使う手もあります。以前、学生に「ChatGPTを活用して、何かやってください」という課題を出したところ、「恋愛相談をしてみました」と言う学生がいて、「けっこうすっきりします」と言っていました。
相手は人間ではなく、優等生タイプの機械なので、気楽に相談できそう。
ただし回答は参考に留めて、鵜呑みにしないよう気をつけてください。
AIは自身の発言に責任を負うことはできないので。
ChatGPTは使いよう。ちょっとした話し相手になるという点で、気晴らしには使えるかと思います。
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齋藤 孝(さいとう・たかし)
明治大学文学部教授
1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、現職。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。ベストセラー作家、文化人として多くのメディアに登場。著書に『孤独を生きる』(PHP新書)、『50歳からの孤独入門』(朝日新書)、『孤独のチカラ』(新潮文庫)、『友だちってひつようなの?』(PHP研究所)、『友だちって何だろう?』(誠文堂新光社)、『リア王症候群にならない 脱!不機嫌オヤジ』(徳間書店)等がある。著書発行部数は1000万部を超える。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」総合指導を務める。
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(明治大学文学部教授 齋藤 孝)