62平米2LDKに親子4人、夫が1部屋を独占中…「私だって部屋が欲しい」妻の発狂に一級建築士が出した答え
2025年5月1日(木)17時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AJ_Watt
写真=iStock.com/AJ_Watt
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■「どうして私には個室がないの?」妻の叫びから始まった相談
「高校生の長女には個室が必要だから」と、2LDKのうち一室は長女へ。もう一室は夫が“在宅ワーク用”として使用。残されたリビングに、妻と小学生の次女が雑魚寝同然で暮らす日々——。そんなご相談を受けました。
東京都心に暮らすAさん一家。住まいは築20年のマンション、専有面積62平米。今や夫婦+子ども2人の4人家族にとっては、少々手狭です。「一人になれる空間がまったくない」「育児も家事も在宅ワークもリビングで全部こなす私のほうが過酷じゃない?」ふとした家族の会話から、妻の思いが爆発しました。
■小学4年生の次女にも“セミ個室”を確保したい
この家庭では、高校生の長女に個室を優先的に割り当てています。「なぜ長女だけが?」と感じる方もいるかもしれません。ですが、これは決して“優遇”ではありません。長女は現在高校2年生。思春期の真っ只中で、受験も間近に迫っています。集中できる学習環境や、心を落ち着ける空間が必要なのは明らかでした。
さらに妻からは、小学4年生の次女についても「そろそろ中学受験に備えて、自習室のような空間を作ってあげたい」という希望が出ていました。リビングでも可能な限り集中できるよう、せめて“セミ個室”的な環境を確保したいとのことでした。
■「部屋割り」ではなく「時間割り」で暮らしを再設計
私が注目したのは、限られた2部屋を“固定メンバー制”で使っていることの非効率さでした。個室を「誰かの専用」にしてしまうと、その人が不在の時間帯は空間がムダになってしまいます。特に夫の部屋は寝室を兼ねていたものの、夜間使われないこともしばしばで、家族にとって有効活用できていない状態でした。
また夫からは、「オンライン会議があるので、リビングでは集中できない」として、在宅ワークには完全個室が必要という要望がありました。一方、妻にも切実な思いがありました。「子どもたちは本当に大切。でも、ずっとリビングで一緒にいると、勉強の様子や生活態度が気になって、つい口を出してしまう。気づけば“過干渉”になっていて、子どもも私も疲れてしまうんです」
日中は育児・家事・在宅ワークで常に気を張りっぱなし。せめて一日の終わりくらいは、誰にも邪魔されずに一人で本を読んだり、静かに過ごしたりする“自分だけの空間”がほしい——それが妻の本音でした。こうした状況をふまえ、空間の「所有」を前提にするのではなく、「時間帯と目的」で使い分ける柔軟な設計が必要だと考えました。そこで私がご提案したのが、「時間で使い分ける部屋」と、「共有空間の最適化」でした。
■夫が4畳個室を1日中独占
Aさん一家の構成は、夫婦2人、高校2年生の長女、小学4年生の次女の4人家族です。
筆者提供
夫が独占していた4畳個室 - 筆者提供
現在の間取りとそれぞれの部屋の用途(図表1「before」参照)
・4畳個室:夫が在宅勤務部屋兼寝室として占有。
・リビング:妻と次女が日中はリビングで宿題・家事・在宅ワークを並行し、夜は布団を敷いて就寝。
・6畳の洋室:長女が個室として使用
4畳個室は昼間だけではなく夜間も夫が寝室としていたため1日中独占状態。ここに夫婦間での不公平が生じており、暮らしのゆがみが浮き彫りとなっています。また、備え付けの収納は少なく、子供の学用品が散乱していることも悩みの種でした。
筆者提供
■部屋の使い方を「専有」から「時間制共有」にシフト
そこで、限られたスペースを時間帯ごとに分け合う“時間シェア”型の間取りに再編成することで、家族の希望に沿った暮らしを実現できるようにしました。
「全員にとって心地よい空間」の再編成(図表2「After」参照)
・長女の部屋(6畳)は引き続き個室として確保(勉強&プライベート)
・【4畳個室】は“時間制シェア空間”に転換。朝〜夕は、夫の在宅ワークスペース、夜〜深夜は妻の一人になれるパーソナルスペースとし、就寝用ベッドを設置
・次女には、リビングの一角に間仕切り収納を設置し、“セミ個室”の学習&就寝スペースを確保。まるで“自分だけの秘密基地”のような空間に
・リビング奥のスペースも“時間制シェア空間”に。朝〜夕は妻の在宅ワークや家事スペースとして活用。夜〜深夜は夫の趣味や就寝スペースとして使用
「専有」から「時間制共有」へのシフトで、限られた空間を最大限に活用することができました。
筆者提供
■収納を見直し暮らしを快適に
また、暮らしを快適に保つためには、「収納設計」と「可動性のある家具」が欠かせません。今回のご家庭では、以下のような収納の見直しも行いました。
4畳個室には、夫のワークスペースとして収納付きPCデスクを導入し、妻のスペースには、アロマや読書グッズを収める“癒し棚”を用意。リビングには、次女の教科書や道具箱などをまとめて収められる学用品収納に加え、書類や文具、医薬品や診察券、学校のお便りなどを収納する間仕切り収納を設置しました(図表3参照)。
筆者提供
■可動式収納でライフステージの変化に対応
「収納が足りないから散らかる」のではなく、「収納の使い方が間違っているから散らかる」ケースも多いため、今回の事例では、“誰のモノを、どこに収めるか”を明確にし、空間の混乱を防ぎました。また可動式収納を使うことで、ライフステージの変化に伴い部屋の使い方が変わってもフレキシブルに対応できます。
そのほか、リビングの間仕切り収納は、天井下地にしっかりと固定し、地震対策にも配慮。空調の流れを妨げないように高さを抑え、空気循環のためのサーキュレーターも設置しました。
■“誰かを優先する家”から“譲り合える家”へ
「長女だけが個室を使っていてズルい」
「夫ばかり自分の空間があって不公平」
「私は家の中でずっと立ちっぱなし」——。
そんな不満を抱える暮らしから抜け出すには、部屋数ではなく“使い方”の工夫が必要です。
今回のプランでは、妻が夜の時間に静かに過ごせる空間を確保できたことで、気持ちにもゆとりが生まれました。次女も「ここが私のコーナー」と意識を持つようになり、以前よりも学習に集中するようになったそうです。部屋の数が増えなくても、使い方を変えることで、家族全員が心地よく暮らせる家はつくれるのです。
4畳個室。昼は夫、夜は妻のスペースに(筆者提供)
リビング。間仕切り収納を設置し、次女や夫のスペースを確保(筆者提供)
■部屋数は変わらなくても暮らしは変えられる
家族構成やライフスタイルは、日々変化していきます。だからこそ、「今この部屋を誰が持っているか」ではなく、「今、この時間に、この空間をどう使うか?」という発想の転換が求められます。
私はこれまで多くの住まいに携わってきましたが、限られた間取りでも「使い方を再設計」することで、暮らしの豊かさは大きく変わります。プロとして多くのご家庭を見てきたからこそ思うのです。限られた空間こそ、設計の工夫が生きる舞台。家は、もっと自由に変えていい。
もし今の住まいにモヤモヤを感じているなら、「部屋を変える」のではなく、「時間と役割で分けてみる」ことから、はじめてみてはいかがでしょうか暮らしはきっと、もっと軽やかに、優しくなっていきます。
夫にはワークスペースとして収納付きデスク、妻には就寝用ベッドと癒し棚を設置した4畳個室(筆者提供)
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しかま のりこ
一級建築士/住まいのコンサルタント
延べ5000戸以上の住宅審査/検査/設計・インテリアコンサルティング・収納改善・住み替えサポートに携わる。都心のマンションから戸建て、二世帯住宅まで、住む人の「人生のフェーズ」に合わせた住まいの提案に定評がある。著書に『狭い部屋でも快適に暮らすための家具配置のルール』『狭い家でも子どもと快適に暮らすための部屋作りのルール』(彩図社)など。
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(一級建築士/住まいのコンサルタント しかま のりこ)