農業の担い手変化、法人は倍増し雇用されて就農する人増加…生産効率化で進む働き方改革

2025年5月1日(木)15時15分 読売新聞

ミカン畑で枝切り作業をする早和果樹園の橘さん(3月24日、和歌山県有田市で)

 家族経営から農業法人へと、農業の担い手の変化が加速している。2010〜24年の15年間で家族経営農家が半減する一方、農業法人は倍増し、雇用されて就農する人が増えている。各法人は、担い手育成につながる新卒採用や、効率的な生産を実現する働き方改革を進めている。(和歌山支局 清水美穂)

 農林水産省によると、家族経営農家は10年に約164万世帯あったが、24年には約84万世帯に減少。農業法人など組織的な経営を行う団体の数は、24年に約4万1000団体と、10年から1・9倍に増えた。

 7か月以上の契約で働く「常雇い」の人は、コロナ禍の飲食不況などで一時減ったが、22年から増加に転じ、24年は約11万7000人が稼働。半数以上を49歳以下の世代が占めた。

週休2日、ボーナスも

 「有田みかん」などかんきつ類の栽培・加工・販売を行う株式会社「早和果樹園」(和歌山県有田市)は若者が多い農業法人だ。正社員53人のうち31人が20歳代だという。

 若者に支持される理由の一つは働きやすさだ。初任給は月18万〜20万円でボーナスは年2回支給。勤務時間(午前8時半〜午後6時)や年間休日数(105日)の規定のほか、社員食堂や確定拠出年金(企業型DC)もある。19年入社の橘峰生さん(29)は「忙しい収穫時期を除けば基本は週休2日。プライベートと仕事を両立できる」と話す。

 同社は、地元のミカン農家が共同選果場を作った1979年に創業。2005年に株式会社化し、ジュースなど加工品事業拡大に伴い採用を増やしてきた。就活サイトも活用して新卒の「総合職」採用も実施。関西圏の国立大や有名私大から、農家出身ではない学生が集まっている。

 橘さんもそんな一人だ。幼い頃から就農に憧れており、関西大社会学部メディア専攻から同社の門をたたいた。「技術を学びながら給料をもらえるのはありがたく、いずれは自分の農園を持ちたい」と夢を語る。秋竹俊伸社長(49)は「若者の生活の糧を用意しながら、農業人口の減少を少しでも緩和できれば」と話す。

人手不足を克服

 京野菜「九条ねぎ」の生産・加工・販売を手がけ、年間売り上げ20億円を誇る株式会社「こと京都」(京都市伏見区)は、シフト制と分業が特徴だ。

 54人の正社員は原則、午前8時〜午後5時半の勤務だが、家庭の事情などに応じて平日に休み、土、日勤務もOK。4割近い20人が20歳代だという。約100人のパート従業員は1日3時間から勤務可能で、畑仕事から工場でのカットねぎパック詰めまで、自分に合った働き方を選べる。

 約30年前、山田敏之社長(62)が両親の野菜作りを継いだ際は、休みなく働いても売り上げは約400万円と、会社員時代より手取りが減った。そのため、栽培する野菜を1年中収穫できる九条ねぎに絞るなど合理化を進め、働きやすい環境を整えて人手不足も克服した。山田社長は「後継者難で離農が増えている今こそ、若い担い手を育てたい」と意気込む。

国も支援事業

 農林水産省は担い手確保につながるとして、農業法人の雇用を金銭面で支援する「雇用就農資金」事業を2022年度から始めた。49歳以下を正社員で新規雇用した法人には年最大60万円を助成するなどしており、これまでに延べ3702法人が制度を利用した。

 同省就農・女性課は「労働力不足が課題となる中、雇用の受け皿となる農業法人を育成し、食料の安定供給や地域の産業維持につなげたい」としている。

 ◆農業法人=稲作や施設園芸など農業を営む法人の総称。組織形態は、株式会社や合名会社といった会社法人と、農業協同組合法に基づく農事組合法人に大別される。法人には税制上の優遇措置があり、金融機関から融資を受けやすくなるメリットもある。

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