深刻化する人手不足、増え続けるのは働く高齢者…「男性の長時間労働頼りの昭和は終わった」
2025年5月2日(金)2時35分 読売新聞
マクドナルドで働く枡川節子さん(4月9日、東京都中央区で)=園田寛志郎撮影
[戦後80年 昭和百年]経済<下>
日本経済は戦前から巨大なアメリカと向き合い、影響を受け続けてきた。米国の圧力に翻弄されるのは、トランプ政権が初めてではない。戦後はそれを何度も乗り越え、共栄の道を探ってきた。歴史を顧みつつ、日米貿易そして消費や雇用の現状と未来を問う。
ハンバーガーとフライドポテトが載ったトレーを手に、昼時の店内を慎重な足取りで進む。商品を注文通りに客のテーブルへと届けるのが仕事だ。81歳になる店員の枡川節子さんは「お待たせしました」と商品を手渡し、笑顔を見せた。
マクドナルド勝どき駅前店(東京都中央区)で働き始めたのは、2年前に夫を亡くし、寂しい気持ちを紛らわせるためだった。若者や外国人との交流がある職場は、心を活力で満たしてくれる。商品を運ぶ業務に専念しており、週4日、各日3〜4時間の勤務をこなす。枡川さんは「お客さんと接するのが楽しい。今が青春」と声を弾ませる。
日本マクドナルドでは、65歳以上の店員が2025年2月時点で8699人に上る。10年前と比べて4倍に増え、全体の4%を占める。最高齢は富山県の96歳だ。人事本部の伊東潜さんは「カウンター業務や配膳などを分業し、誰もが働きやすい環境を整えている」と話す。
働く高齢者が増えている。総務省によると、65歳以上の就業者は24年時点で930万人に増え、過去最多を更新した。就業率は25・7%で、高齢者の4人に1人が働いている。就業者全体で見ると、およそ7人に1人が高齢者だ。
背景にあるのは、国内で深刻化する人手不足だ。日本銀行の3月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、従業員が「過剰」の企業から「不足」の企業を引いた指数はマイナス37だった。バブル期の1991年以来の強い不足感を示している。
2021年施行の改正高年齢者雇用安定法は、70歳までの就労機会の確保を企業の努力義務とした。これに伴い、60歳が義務となっている定年を引き上げたり、定年後の再雇用の上限年齢を見直したりする動きが出ている。
国内で社員1万8000人を抱えるファスナー製造大手のYKKグループは、定年制を廃止した企業の一つだ。専門技術の継承が課題となっており、人事担当者は「ベテランが残ってくれるメリットは大きい」と話す。家電量販大手ノジマは、アルバイトの上限年齢を撤廃した。家電メーカーを退職した人たちがセカンドライフを築く場にもなっている。
人口減を背景に、日本の労働市場では、働き手を確保することが少しずつ難しくなってきている。独立行政法人労働政策研究・研修機構の予測では、高齢者らの労働参加が順調に進んだとしても、日本の就業者数は30年に24年比1%増の6858万人でピークに達し、その後は減少に転じる。
働き手が減り続ける日本の未来はどうなるのか。リクルートワークス研究所の坂本貴志研究員は「人工知能(AI)やロボットの活用で生産性を高めていけば、日本経済は維持できる。男性の長時間労働に頼っていた昭和が終わり、令和の時代は女性も高齢者も、自分のペースで働きたいだけ働く世の中になる」と指摘する。