なぜ優秀な跡取り娘がいるのに甥っ子に継がせるのか…「"愛子天皇"待望論」沸騰の背景に庶民の素朴な疑問

2025年5月8日(木)9時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/istock-tonko

なぜ愛子天皇待望論は盛り上がるのか。武蔵大学社会学部教授の千田有紀さんは「それは、ジェンダーや性別をめぐる論争ではなく、『なぜ天皇家にお子さまがいらっしゃるのに、甥っ子に皇位を継がせなければならないのだろう』という素朴な庶民の感覚による疑問から生まれているのではないか」という——。
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■国会の議論は根本的な問題を先送りしている


秋篠宮家の悠仁さまが今年3月、成年会見を行われ、4月には筑波大学に進学された。映像などが公開されることで、悠仁さまのひととなりが少し見えてきたようにも思う。良いことである。個人的には、日ごろお聞きになる音楽なども関心があるし、記者からの質問にも答えていただきたかったようにも思うが。


一方で、衆参両院は各党派の代表者を集めて、安定的な皇位継承や皇族数確保などに関する全体会議を開催。ようやく、これまでの議論のとりまとめ案が提示されそうだ。旧皇族の男系男子を養子に迎える、旧宮家復帰案などが検討されているようだが、現状の皇位継承順位(第1位・秋篠宮さま、第2位・悠仁さま、など)をゆるがせにしないという方針をとりあえず立てたうえで、根本的な問題を次々と先送りしているようにも見え、皇室の将来にはかなりの不安を感じる。


かつて、保守派の言い分は「神武天皇のY遺伝子を継承されている悠仁さまの、男子継承をないがしろにしてはならない」というものであった。最近は「皇位継承は人気投票ではない」というようになってきている。国民の9割が女性の天皇を、つまりは愛子さまの皇位継承に好意的であるというような調査結果をみれば、いかにも古臭い「Y遺伝子が」という論理では国民を納得させられないと考えたのだろう。


おそらく“愛子天皇”待望論は、「女性だから皇位継承権がないのはおかしい」「皇位継承者を男系男子に限るという現状の制度は持続可能性に乏しい」といったジェンダー平等や性別をめぐる論争とは、違うところに争点があると思われる。


■「優秀な跡取り娘がいるのに甥っ子に継がせる」ことへの素朴な疑問


例えば天皇家に、愛子さまが長女として生まれ、その後もしも長男が生まれていたとしたら、「愛子さまを天皇に」という機運は高まるだろうか。私はそうは思わない。いくら愛子さまが優秀であったとしても、そこは男子による皇位の継承が認められるだろう。


なのに今、これほど愛子さま待望論が盛り上がっているのは、「なぜ天皇家にお子さまがいらっしゃるのに、甥っ子に皇位を継がせなければならないのだろう」という素朴な庶民の感覚による疑問から生まれているのではないか。皇位を卑近な例で考えるのも恐縮であるが、自分の家に優秀な跡取りの娘がいるのに、わざわざ甥っ子に家業を継いでほしいと考えるだろうか。多くの国民は、娘に継がせようと考えるのではないか。


私は個人的には、愛子さまに天皇になってほしいとは思ってはいない。同じく女性である皇后の雅子さまが、長く精神的にも苦しまれてきた現状を鑑みれば、むしろ愛子さまには自由に生きていただきたいように感じるからである。


■絶望的にセンスがない旧宮家復帰案


秋篠宮家の悠仁さまですら、多くの国民が「愛子さまがいらっしゃるのになぜ」と考えているというのに、国会の全体会議で検討されている旧宮家復帰案は、庶民の感覚からすると、さらに理解しがたく、絶望的にセンスがない案だと思われる。


これまで一国民として生きてきた旧宮家の方たちを、いきなり皇位継承にかかわる皇族に復帰させたとして、そのひとや子孫は、国家や国民の象徴に連なるものとして国民から認められるだろうか。


悠仁さまがご結婚され、お子さまが生まれたとして、そのお子さまが皇位継承をおこなうのはずっと先のことだろう。また、それがうまくいけばいいが、そうならない場合は、養子縁組により皇族として復帰した旧宮家の男性が、皇位継承にかかわる事態が発生するのだろうか。そうしてまで皇位継承をおこなわなければならないのであったら、そこまでして皇室や天皇といった制度が必要なのだろうかという、天皇制の根幹にかかわる疑問が浮き上がってきてしまうような気すらする。そしてそれこそが、長期的に皇室や天皇制を瓦解させていくものだろう。


写真提供=共同通信社
春の園遊会に臨まれる天皇、皇后両陛下の長女愛子さま。2025年4月22日午後、東京・元赤坂の赤坂御苑(代表撮影) - 写真提供=共同通信社

■“曖昧な存在”を作る女性宮家創設案


また、内親王(愛子さまや佳子さま)や女王(彬子(あきこ)さま、瑶子さま、承子(つぐこ)さま)について、現状の制度の下では、結婚すると皇室を離脱することになっているが、結婚後も皇室に留まっていただき女性宮家を創設することを可能にする案も検討されている。


これは、皇位継承の安定化というよりも、現時点での皇族数確保を目的とした案だ。女性宮家は一代限りとするのか、配偶者やお子さまの身分を皇族とするのかどうかについては、まだ明確になっていないが、いずれにせよ、子どもや配偶者の位置づけは限りなく曖昧なものとなる。繰り返される「○○家の末裔」を名乗る皇室詐欺事件や、皇族の親戚であることをアピールしたビジネスが問題化されてきていることを考えれば、こうした「曖昧な」存在を作ることは、また多くの問題を引き起こす種をまくこととなるだろう。


■悠仁さまの肩にかかる重圧


私のように皇室ニュースを楽しみに生きてきた世代とは異なって、若い世代は実に皇室関連の報道には関心がない。私も実際に「おばさんって、皇室が好きですよね」といわれたことがあるほどだ。


第二次世界大戦後の天皇制は「先の戦争を反省し、戦後の日本と国民の平和を祈る存在」として国民に受け入れられてきた。戦争の記憶も薄れてきた現在、そもそも天皇制とはなんであるのかという意味合いが、揺らいできているようにも思う。


その法律的な是非はさておき、いまの天皇・皇后両陛下が評価されているのは、語学力を含む卓抜した外交能力と、家族で支え合いながら苦難の歴史に耐えてきたという仲睦まじい家族モデルを提供していることによってであろう。もし今後、悠仁さま、もしくはその前に秋篠宮さまが、皇位を継承するとしたら、どのような天皇像が実現するのだろうか。


このままでは、悠仁さまひとりの肩にかかっている重圧があまりに大きなようにも見え、こちらもお気の毒にすら見えてしまうのはうがちすぎであろうか。生まれたときから現実的にはほぼ唯一の皇位継承者としてのプレッシャーをかけられ、また、確実に国民に祝福されるであろう相手と結婚して男児を産んでもらわないといけないのである。実際、大学に進学したと思ったら、早くも結婚相手探しが話題となりつつある。


皇族の方々が幸せそうに見えないのであったら、なんのために皇室や天皇制が存在しているのだろうという疑問を呼び起こしてしまう。そしてこれこそが、パンドラの箱であるのかもしれない。


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千田 有紀(せんだ・ゆき)
武蔵大学社会学部教授
1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族—どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。ヤフー個人
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(武蔵大学社会学部教授 千田 有紀)

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