食事の形態が食事時間に与える影響を検証

2025年5月13日(火)10時0分 Digital PR Platform


〜肥満や栄養不良患者に対する個別化栄養指導への応用に期待〜

肥満の方はゆっくり食べた方が良いとお医者さんに勧められたことのある人も多いと思いますが、どのような方法でゆっくり食べるかは実は難しい問題です。
藤田医科大学(愛知県豊明市)医学部臨床栄養学講座 飯塚勝美教授、出口香菜子大学院生らの研究グループは、食べ物の形態の違い(ファストフード [ピザ]、弁当[ハンバーグ弁当])や野菜を食べる順番が食事時間に与える影響について研究を行いました。この結果、食べ物の形態が食事時間、咀嚼回数、咀嚼テンポ※1に影響することを明らかにしました。肥満の方では万国を問わず、ファストフードの利用頻度が高い傾向があります。一口回数(口に入れる回数)や咀嚼回数を増やすだけでなく、食事の形態にも注目し、食事時間を延ばす工夫が必要なことがわかりました。同じエネルギー量であれば、片手で食べられるような食事よりも、箸を使って食べる形式の食事(お弁当)を選ぶことで食事時間を長くすることができることがわかりました。
本研究成果は、学術ジャーナル「Nutrients」(5月号)で発表され、併せてオンライン版が2025年5月3日に公開されました。
論文URL : https://www.mdpi.com/2072-6643/17/9/1576


<研究成果のポイント>

先行研究で、ゆっくりとしたテンポを聴くと食事時間を延ばすことができること、食事時間は一口回数や咀嚼回数に関連することを報告した(Nutrients, 2025, 17, 962)。
今回は、食事の形態や野菜を食べる順番が食事時間に影響を与えるかを検討した。
同じカロリーの場合、ピザに比べ、ハンバーグ弁当の方が食事時間、咀嚼回数が増加した。
ハンバーグ弁当で野菜から食べた場合、野菜を最後に食べた場合では食事時間、咀嚼回数、咀嚼テンポは変わらなかった。
年齢、性別、食事の形態に関係なく、食事時間は、咀嚼回数、咀嚼テンポと関連したが、BMIとは無関係であった。
肥満や栄養不良患者に対する個別化栄養指導への応用が期待される。


<背 景>
肥満患者への栄養指導では、摂取エネルギーの制限が重要です。しかし、肥満の人は超加工食品といわれるファストフードを食べる機会が多い傾向にあります。ファストフードは高脂質・高炭水化物食であり、満腹感を得られにくい食事とされています。さらに片手で手軽に食べられるため、弁当のように箸を使って食べる食事に比べて、食事時間が短くなる傾向があります。肥満患者は食事時間を長く取るように指導されるため、栄養価の面からも、食事時間の面からも、ファストフードの摂取はより肥満になりやすいのではという仮説を立てました。

<研究手法・研究成果>
実験の流れ


[画像1]https://digitalpr.jp/simg/2299/109637/450_255_202505121934186821ceaa26705.jpg

食後の血糖値上昇を抑える目的で、「野菜を先に食べる」食事法が推奨されています。そこで、野菜を先に食べた場合と、野菜を後に食べた場合で食事時間にどのような影響があるのかについて調べました。
本研究では、参加者41名(男性18名、女性23名)にピザおよびハンバーグ弁当(ハンバーグ、ご飯、ブロッコリー)を4週間ごとに食べてもらい、食事時間、咀嚼回数、一口回数、咀嚼テンポを測定しました。野菜を食べる順番による食事時間への影響を検討するため、(1)ブロッコリーを最初に食べた後に他の食品を摂取する場合、(2)他の食品を食べ終えた後にブロッコリーを摂取する場合、の2通りの条件で実施しました。
普段の食習慣について、食品摂取頻度質問票(BDHQ)で評価しました。食事時間は性別による差が明らかなため、男女別に解析しました。

研究成果
ピザと比較すると、弁当(野菜を最初または最後に食べた場合)の方が食事時間(秒)が長くなりました。ピザと弁当(野菜を最初に食べた場合)の平均差は-182秒、ピザと弁当(野菜を最後に食べた場合)の平均差は-216.0秒:詳しくは、ピザ-弁当(野菜を最初に食べた場合):-182秒[-245.6,-118.9]秒、p<0.0001;ピザ-弁当(野菜を最後に食べた場合):-216.0秒 [-273.3, -158.7]秒、 p < 0.0001)。一方、野菜の摂取順番にかかわらず、食事時間(秒)に差は認められませんでした(p = 0.14)。これらの結果は、咀嚼回数および咀嚼テンポについても、性別にかかわらず、ピザと弁当、食べる順番について同様の傾向が見られました。

[画像2]https://digitalpr.jp/simg/2299/109637/450_225_202505121934186821ceaa27591.jpg


図1:食事の形態が食事時間に与える影響
ピザに比べ、弁当(野菜先)、弁当(野菜後)では、食事時間、咀嚼回数、咀嚼テンポは増加した。しかし、弁当(野菜先)と弁当(野菜後)では有意差を認めなかった

多変量解析の結果では、食事時間は、咀嚼回数、咀嚼回数、食事の種類と正の相関があり、年齢、性別とは負の相関がありました。BMIは食事時間と関連しませんでした。

[画像3]https://digitalpr.jp/simg/2299/109637/450_175_202505121934186821ceaa26bd6.jpg


表:食事時間に影響を与える要因の多変量解析
食事時間に影響を与える因子を検討したところ、年齢、性別、食事の形態に関わらず、咀嚼回数、一口回数に関連した。

まとめ
肥満患者に対する栄養指導では、ゆっくり食べることを重視し指導しますが、どのようにゆっくり食べるかは科学的に確立されていません。我々は、食事の種類(個食、箸の使用)が食事時間に影響するという仮説を立てました。本研究では、食事の種類(ピザ対ハンバーグ弁当)が食事時間、咀嚼回数、咀嚼テンポ数、一口回数に影響するかどうかを検討しました。性別や食事の順番とは無関係に、ピザを食べることはハンバーグ弁当よりも食事時間および咀嚼回数が少なく、咀嚼テンポが低いことと関連していました。食事時間は、咀嚼回数、一口回数、年齢、性別、食事の種類と関連していましたが、咀嚼テンポとは関連していませんでした。これらの結果は、食事の順序に関係なく、弁当のように一つ一つのおかずが個別に盛り付けられた食品を食べることは、食事時間と咀嚼回数の増加につながることを示しています。咀嚼回数の増加に加え、食事の種類(ファストフードではなく弁当)を適切に選択することで、食事時間を延長することができます。

<今後の展開>
今回の研究では、ピザの場合と比較して、ハンバーグ弁当を食べた場合の方が、食事時間と咀嚼回数が多くなることが示されました。しかし、野菜を最初に食べるか最後に食べるかによる食事時間の違いは認められませんでした。個食や箸食は食事時間や咀嚼回数を増加させるため、肥満者への栄養指導の一つとして有効である可能性が示唆されました。ファストフードよりも弁当を選択するよう指導することは、栄養価、食事時間、咀嚼回数の増加の点で優れていることが重要です。BMIと食事時間に関連がないことは、肥満の人が選ぶ食事自体が早食いにつながっている可能性を示唆します。
今後の研究では、肥満者の日常生活における食事時間や内容についても検証する必要があります。 肥満予防のために「ゆっくり食べる」には、一口を小さくしてよく噛んで食べるだけでなく、選ぶ食品にも気を配る必要があります。また、本研究では検討しなかった心理的側面や環境の改善も考慮すべきです。例えば、職員食堂でリラックスできる音楽を流すことで、咀嚼テンポや咀嚼回数の増加、心のリラックスによる食事時間の延長が期待できるかもしれません。
最後に、食事時間に影響を与える要因を明らかにすることは、肥満指導だけでなく栄養不良への指導にも応用できます。食欲不振者にとっては、栄養価の多様なファストフードは、満腹感を感じる前に栄養素を摂取することに役立つかもしれません。実際、ビタミンやその他の栄養素を補充した高エネルギー半消化性製剤は、医療現場で低栄養者に対してすでに使用されています。食事時間に影響を与える要因がより多く発見されれば、肥満や栄養失調の人に対して、より個別化された栄養指導を行うことが可能になると思います。
本研究は、鈴木謙三記念医科学応用研究財団の資金を得て行いました。

得られた研究成果の社会への還元:
私たちが子供の頃の給食は先割れスプーンとコッペパンが主流でしたが、今の小学校では箸を使うようになっています。今回の研究成果はそういった給食での取り組みが生活習慣病の予防につながることを示唆する結果です。給食の時間にゆったりした音楽を流して、一口を小さくしてよく噛んで食べることを併用すればさらに健康に良いと思います。ゆっくり食べる子供を先生も温かい目で見守ってほしいと思います。

<実際の臨床現場『羽田クリニック』での取り組み>
本研究の成果を受け、藤田医科大学 羽田クリニック(東京都大田区)では、肥満や栄養不良の予防・改善を目的とした食事指導の一環として、テスト食を用いた評価プログラムを導入しています。このプログラムでは、実際に食事をしながら食事時間や咀嚼回数を測定。患者さんそれぞれの食習慣を客観的に評価し、より実践的な指導を行っています。


<用語解説>
※1 咀嚼テンポ:噛むスピード


<文献情報>
◇論文タイトル
The Meal Type Rather than the Meal Sequence Affects the Meal Duration, Number of Chews, and Chewing Tempo

◇著者
出口香菜子1、青嶋恵1,2、 平岩衣理1,2、小野智咲女3、 後田ちひろ1、和田理紗子1、吉田光由4、飯塚勝美1,5,*
*責任著者

◇所属
1 藤田医科大学医学部臨床栄養学講座
2 藤田医科大学医学部
3 藤田医科大学羽田クリニック
4 藤田医科大学医学部歯科・口腔外科学講座
5 藤田医科大学病院食養部

◇DOI
10.3390/nu17091576



本件に関するお問合わせ先
学校法人 藤田学園 広報部 TEL:0562-93-2868 e-mail:koho-pr@fujita-hu.ac.jp

Digital PR Platform

「食事」をもっと詳しく

「食事」のニュース

「食事」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ