千葉県は20地点なのに、埼玉県はゼロ…「首都圏の3位争い」で埼玉が千葉より下になった理由

2024年5月16日(木)7時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 左右写真=iStock.com/Elico-Gaia

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令和6年の公示地価が公表された。不動産事業プロデューサーの牧野知弘さんは「大都市圏で地価が上昇する中、千葉県と埼玉県に差が出てきていることが明らかになった。子育て政策に力を入れている千葉県流山市や市川市が、住宅地価格の上昇を牽引している」という——。
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■「首都圏3位」を争う埼玉と千葉


埼玉県と千葉県といえば、首都圏1都3県にあって東京都と神奈川県を後目に常に第3位争いをすることで有名だ。


魔夜峰央原作の漫画『翔んで埼玉』は2019年に映画化され大ヒットとなったが、この話の中でも「埼玉県人にはそこらへんの草でも食わせておけ」という驚天動地の台詞が吐かれたり、両県が地元出身の有名人の名を競い合ったり、互いに相手のダサさを笑いあったりするなどの滑稽なさまが、東京都民や神奈川県民への嫉妬とあわせコミカルに表現されていて話題となった。


もちろんこれは映画の中の話であって、現実に互いが口で言い争うさまはほとんどがジョークの世界。この争いを横目で眺めて毒を吐く(これもわざと煽り立てるジョークのたぐい)のが神奈川県民である構図も、東京都民からみればなおさら滑稽なことであろう。


だが今、再びこの両県の間で対立を助長する事態が勃発していることをご存じだろうか。


■大都市圏で地価が軒並み上昇


昨今、国土交通省から令和6年公示地価の発表が行われた。これは例年1月1日現在の地価の状況を発表するもので、全国の地価動向を示すものとして注目されている。


今年の発表によれば、地価は全国平均で住宅地は対前年比で2.0%、商業地で同3.1%と3年連続で上昇となった。コロナ禍の影響で一時的に下落した時期を除き、地価は金融の大規模緩和が実施された2013年以降上昇基調にあり、今回もそれを裏付ける結果となった。


地価の上昇は大都市圏でみるとさらに鮮明となる。東京都区部は住宅地で5.4%、商業地で7.0%といずれも前年における増加率3.4%と3.6%を大きく上回った。


特に大阪は商業地の伸びが著しく9.4%の上昇。住宅地も3.7%の伸びとなった。何かとお騒がせな関西万国博覧会ではあるが、25年の開催に向けてホテル建設や市街地中心部におけるタワマン建設が進み、地価は明確な上昇を見せている。


地価が上がっているのは三大都市ばかりではない。地方四市と呼ばれる札幌、仙台、広島、福岡でも地価の上昇は顕著だ。地方四市の平均では住宅地で7.0%、商業地で9.2%といずれも高い上昇率を示している。


■各地のトップ都市に人が集結している


これは地方におけるコンパクト化現象と呼ばれるものである。地方四市はいずれも北海道、東北、中国、九州の中の最大の都市であるが、各地方の人々が自分たちの地方の中心都市に集結する傾向が近年とみに増していることが背景にある。


以前の地方都市では大企業の工場などの産業を呼び込み、そこの工場で働く人々を吸い寄せてきたが、最近は産業構造が変わり、サービス業などの3次産業が中心となってきたことから、各地方に住む人たちは若者を中心に東京や大阪に出ることを避け、地方四市のサービス業に従事するためにこれらの都市に集結する傾向にあるのだ。


地方四市はこうした働き方を志向する人々にとっては十分な社会インフラが整っており、競争が激しく、生活物価が高い東京や大阪にわざわざ出向かずとも十分に満足できる生活が送れることも人気の理由なのである。


■2023年は北海道の急上昇が話題に


特に北海道や福岡でその傾向が強い。令和5年の地価公示で話題となったのが、全国住宅地地価上昇率のトップ100地点を北海道の各地点が独占したことだ。


(国土交通省「令和5年地価公示」より編集部作成)

プロ野球日本ハムファイターズの本境地エスコンフィールドがオープンした北広島市をはじめ、空港のある千歳市、江別市、恵庭市などで地価が対前年比で20%から30%の高い伸びを示し、世間を驚かせた。これらの街は札幌への通勤圏にあり、札幌市内に比べて地価が安いことから人気が急上昇した街である。


今年のトップ100をみると、前年独占した北海道は相変わらず25%から30%の高い伸びを示した地点は多かったものの、ランクインしたのは52地点に留まり、代わって福岡県内で20地点もが増加率で15%から19%の高い伸びを示した。九州新幹線開通以降、福岡は九州じゅうの人々を吸い上げているといえる。


(国土交通省「令和6年地価公示」より編集部作成)


■千葉県の20地点に対し、埼玉県は0地点


そこで埼玉対千葉の話に戻そう。今年の公示地価で埼玉県と千葉県で明確な「差」が生じてしまったことが話題となったのだ。今回トップ100になんと千葉県から20もの地点がランクインしたのに対して、埼玉県はランクインした地点がひとつもなかったのだ。


千葉県でランクインしたのは流山市と市川市が8ポイントずつ。県内の主要都市の住宅地平均上昇率でみると市川市の10.6%を筆頭に流山市10.1%、柏市7.9%、我孫子市7.5%など軒並み高い伸び率となった。


千葉県「令和6年地価公示 市区町村別平均変動率図」より

■共働き家庭をターゲットにした流山市


特に流山市や市川市は、いずれも子育て政策に力を入れていることで有名な街だ。流山市は市役所にマーケティング課を設置して、課長には外部から人材を招聘。流山市民になっていただくターゲットをDEWKS(ダブル・エンプロイド・ウィズ・キッズ)、つまり「夫婦共働き子供あり」に設定し、保育施設の充実、共働き夫婦の通勤時に子供を保育園に送り迎えする送迎保育ステーションの設置などターゲットを絞り込んだ施策でDEWKSの心をつかむことに成功している。


「母(父)になるなら、流山市」のキャッチフレーズは今ではあまりに有名になっているが、このコピーを自治体という組織が2010年に作成していたことは、驚き以外の何物でもない。


一方の市川市では第2子以降の保育料を所得制限なしに無償としている。これは千葉県内の自治体では初の試みとして注目されている。また市立の小中学校の給食についても、これも所得制限なく無償化している。


さらに18歳までの子供の医療費助成を打ち出し、自己負担金に月額で上限を設ける、同一医療機関での同一月での受診については入院11日、通院6回以降は自己負担金が無料となるなど、子育て家族に徹底的に寄り添った政策を展開している。こうした地道な取り組みも評価され、近年人気の街になっているのである。


■地価が上昇しているのは「県の一部」


一方の埼玉県内の各都市別の平均上昇率をみるとさいたま市2.7%、蕨市6.0%、川越市5.3%、越谷市3.0%など上昇してはいるものの、千葉県各市の成長率の高さには及んでいない。ちなみに両県の県庁所在地を比べても、千葉市は伸び率3.7%でさいたま市を上回っているのである。


埼玉県「令和6年 地価公示結果の概要」より

コロナ禍による働き方の変化や都心新築マンションの高騰などを理由に、郊外部の地価が上昇基調にあるとの見方もあるが、実はひとくちに郊外といっても、街によって大きな差が生じ始めているのが現実だ。


だが、千葉県のすべての都市で急激に地価が上昇しているわけではないことは付け加えておきたい。流山市や市川市、柏市などで高い水準の上昇を示しているのとは対照的に、同じような都心への通勤圏にありながら、これらの街と同様の上昇率を示せていない街もある。


増加率が低いのは佐倉市1.1%、八千代市1.3%、四街道市1.5%などである。かつては大規模な住宅団地が造成され、多くのサラリーマンたちが満員電車に揺られて通勤したベッドタウンに今、かつての賑わいはない。


■神奈川県でも「格差」が生じている


いっぽうの埼玉県内では、行田市が0.6%の下落。同様に加須市−0.4%、羽生市−0.4%など昨年に続いて地価が下落した街の名が並ぶ。


埼玉と千葉の争いをシニカルに眺めている神奈川はどうだろうか。神奈川県内でも郊外都市間で地価の成長スピードに大きな差が生じ始めている。


都市別平均上昇率は湘南エリアの藤沢市4.2%、茅ケ崎市5.2%、鎌倉市3.8%、逗子市3.9%など軒並み高い上昇を示しているのに対して、同じく通勤圏といわれた小田原市0.5%、三浦市0.4%、横須賀市0.9%などではほとんど地価は上昇していない。


神奈川県「令和6年地価公示 市区町村別 平均変動率地図(住宅地)より」

■「埼玉vs千葉」はこれからも続く


ちなみに分が悪いように見える埼玉を多少擁護すると、新築マンションの平均価格については2023年で千葉県が4786万円であるのに対して埼玉県は4870万円。m2あたり単価でも千葉県70.2万円に対し埼玉県76.7万円と高く、この傾向は以前から変わらない。


ちなみに、今年4月単月の新築マンション平均価格で千葉県が5963万円に対し、埼玉県が4853万円だったことも一部では話題になったが、その月に分譲されたマンションの立地やグレードにたまたまの違いがあったのであって、とりたてて騒ぎ立てるほどのことではない。


いずれにしても地価の上昇は街の成長軌道を表すものとされる。今回の地価公示について、埼玉県民からは「どうせ千葉は、市川や船橋といった東京の植民地が、東京の地価上昇で住めなくなった人たちを集めただけだろう」などとうそぶく姿も想像できるが、いっぽうで「京浜東北線って、赤羽から先はどこの駅も全部同じようでさ、駅の順番なんてぜんぜんわからないよね。海もないしのっぺりした平地だけが続く埼玉なんてつまらないよね」などと笑う千葉県民の得意顔も見られそうだ。


神奈川県民の私は、陰でそっと笑うことにしよう。


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牧野 知弘(まきの・ともひろ)
不動産事業プロデューサー
1959年生まれ。東京大学卒業。ボストン コンサルティンググループ、三井不動産などを経て、2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT(不動産投資信託)市場に上場。15年オラガ総研株式会社を設立し、代表取締役を務める。全国渡り鳥生活倶楽部代表取締役。主な著書に『空き家問題』『ここまで変わる!家の買い方 街の選び方』(いずれも祥伝社新書)、『不動産の未来』(朝日新書)、『負動産地獄 その相続は重荷です』(文春新書)など。
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(不動産事業プロデューサー 牧野 知弘)

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