「屁理屈をこねる天邪鬼」はまだかわいいが…親が気を付けるべき思春期の中高生男子が崩れていく"2つの兆候"
2025年5月16日(金)16時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/taka4332
※本稿は、工藤誠一『VUCA時代を生き抜く力も学力も身に付く 男子が中高6年間でやっておきたいこと』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
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■理屈っぽい我が子に、なんて声をかける?
我が子が成長するに従って、だんだん理屈っぽくなってきたと感じることはないでしょうか。幼い頃は、行動を咎められればただ泣くか怒るかしていた子も、本人なりの論理を立てて反論することが増えてきます。
昔ならば、「屁理屈を言うな」と力でねじ伏せる親も多かったのでしょうが、最近は、いったんは子どもの言葉を聞こうとする保護者が多いようです。
まずは子どもの言い分を聞こうとする親の姿勢は、子どもの成長にとっても大切なことです。しかし、子どもの話に矛盾を見つけるや否や、子どもを正論で追い詰めてしまうことはありませんか。
まだ視野が狭い子どもの理屈は穴だらけです。矛盾を突こうとすればいくらでもできるのですが、それで土俵際まで追い詰めてしまっては、子どもとしても立つ瀬がありません。親の言うことに筋道が通っていればいるほど、むしろ、「うるさいな!」と心を閉ざしてしまうでしょう。
■結論まで言わず「事実」にフォーカスする
子どもが自分の行動を変えるのは、自分で納得したときだけです。それなのに、親の側が先に正解を言ってしまうと、子どもは納得いかないまま親の出した答えに従うか、反抗するかになってしまいます。
子どもには、自らを省みる余白を与えてほしいのです。そのためには、結論まで言わず、事実にフォーカスするのがコツです。
例えば、テスト前なのになかなか勉強しないときに、勉強しないことの弊害をくどくど説いても効果はありません。
「次のテストは何日からなの?」と事実を確認し、気づきを促す程度に留めましょう。なかなか変化の見られない子どもの姿は非常にもどかしいものですが、焦らなくても大丈夫です。本人が必要だと思えば必ず自分から動き出しますから、ゆったり構えてやっていきましょう。
■悪いことをしたときの声かけのコツ
友達との付き合いなどで小遣いが足りなくなり、親の財布からお金を盗んだことがわかってしまった。ゲーム課金で口座からの高額な引き落としが発覚した。そんなとき、あなたならどう対処するでしょうか。
親として何が至らなかったのかと考えて、情けない気持ちにもなることでしょう。ショックのあまり、「お前のやっていることは犯罪だ。お前は家族の信頼関係を壊したんだよ」などと言ってしまうかもしれません。
確かに、ここぞというとき、親が真剣に対峙(たいじ)することは必要です。しかし、どんなふうに話すとしても、1つだけ大切にしてほしいポイントがあります。
それは、子どもが心を入れ替えてやり直そうと思えるような、改善につながる言葉をかけることです。
■「お金の使い方と帰宅時間」を見ておく
親に悪さが露見した瞬間、大抵の子どもは、すでに反省しているものです。そんなときに本人の人格や親子の関係性を全否定する言葉をかけてしまえば、前を向こうとしている子どもの心を砕いてしまいます。
あなたは必ずやり直せる、あなたを信頼したいと思っているということを前提としたうえで言葉をかけ、反省を促してほしいのです。
そして、大切なのは同じ過ちを繰り返させないことです。そのために、子どもの生活ぶりを、これまでよりも丁寧に見てください。
具体的にはお金の使い方と帰宅時間を見ておくことをおすすめします。経験上、中高生はこの2つから崩れていくことが多いと感じています。
おかしいなと思うことがあっても、感情的に責めず、事実を確認するに留めましょう。親が自分に気持ちを向けていることを感じて、子どもの生活が自然と落ち着いてくることも多いものです。自らの過ちに自ら気づき、悔い改める時間を、子どもたちにもたせてあげてください。そこから学ぶこともあるはずですから。
■子どもが親に相談するのは、のっぴきならない場合だけ
中高時代に、恋愛や交際を初めて体験する子どももいます。初めて出会う感情に戸惑いながらも、これまでぼんやりと見聞きしていた小説や詩、ポップスの歌詞の一節が心に響くようになったというような体験は、皆さんもどこかで経験したことがあるのではないでしょうか。
子どもがスマートフォンを持つ現代は、我が子の交友関係が見えにくいものですが、恋愛や交際は別物。特に母親からすると一目瞭然のようです。
これまで寝ぐせのまま学校へ行っていた子どもが、髪型や身だしなみに気を遣い、休日に行き先を告げずに出かけるようになったりと、中高生男子は案外わかりやすいところがあります。
しかし、子どもが恋愛について思い悩むことがあったとしても、親は相談相手になりません。子どもが親に相談するのは、よほどのっぴきならない場合だけでしょう。
子どもから聞き出すことも、他のこと以上に難しいものです。親の側からすると、手を出しにくい鬼門ともいえるかもしれません。
写真=iStock.com/allensima
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■頼られる親は普段から他愛のない話をしている
親にできることは、「何かあったときに話したい」と思われる関係でいることです。
子どもが興味をもっていることを、くだらないことだと決めつけ、「それもいいけれど、少しは勉強しなさい」などと言ってしまっては、子どもは何かあったときにあなたに打ち明けようとはしないでしょう。
友達に心を開いて話せるのは、お互いにどうでもいいような話も共有してきた時間の積み重ねがあるからです。普段ろくに話もしないのに、聞きたいときだけ話を聞こう、こちらの言うことを聞いてもらおうというのは土台無理な話です。
一朝一夕にはいきませんが、普段から他愛のない話をし合える関係性を育んでおきたいものです。この時期の子どもの恋愛については、遠くから見守りながら、何かあったときに話しやすい親でいることが最善策なのだと、私は考えています。
■中高生男子はとても繊細
「昨日はニコニコと楽しそうに話をしていたのに、今日は仏頂面で、こちらが話しかけてもうんともすんとも言わない。いったいどうなっているの?」
そんな保護者の声をよく聞きます。気分だけでなく、言うこともちょくちょく変わるので、日々付き合う親としては大変です。彼らとしても、もちろんわざとやっているわけではありません。
体と同様、心も急成長する時期ですから、日々考えていることや物事の感じ方がどんどん変化しています。また、自我を確立する途上にありますから、ちょっとした周囲の言動にも傷つきやすく、とても繊細です。
そんな中高生男子は相当な天邪鬼といえます。周囲に反発して1人になりたがるような素振りを見せていたとしても、実際の心の中は孤独なことが大半です。
そんな彼らに対して、無理に本音を聞き出そうとしたり、出てきた言葉を否定したりすることがないよう気をつけてください。本人が言わないことについてはそっとしておく配慮をもってあげると良いでしょう。
■親は「待つ」姿勢を心がけよう
この時期の子どもと向き合うには、とにかく「待つ」姿勢が大切です。
工藤誠一『VUCA時代を生き抜く力も学力も身に付く 男子が中高6年間でやっておきたいこと』(KADOKAWA)
とはいえ、これだけ忙しい現代にあって、待つことは至難の業かもしれませんが……。親が心の余裕をもつための処方箋として、私がおすすめしたいのは、ご自身の教養を高めることです。芸術などに触れ、自分だけの楽しめる世界をもつことで心に余裕が生まれます。
もう1つは、「足るを知る」ことです。我が子にこうあってほしいという願いには際限がないかと思います。
「欲を言えばいろいろあるけれど、うちの子はよくやっているよ」と思えるぐらいのほうが、何かとうまくいくものです。
天邪鬼の彼らも、あと数年すれば見違えるような青年になって巣立っていきます。その日までの時間は意外とあっという間です。ぜひ大切に味わっていただきたいと思います。
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工藤 誠一(くどう・せいいち)
聖光学院中学校高等学校 校長
1955年横浜市鶴見区生まれ。明治大学法学部卒、同大大学院政治経済学研究科博士前期課程単位取得修了。1978年に母校である聖光学院中学校高等学校に奉職。事務長、教頭を経て2004年、校長就任、2011年から理事長にも就任。さゆり幼稚園園長、静岡聖光学院理事長・校長を兼務。神奈川県私立中学高等学校協会、私学退職基金財団、神奈川県私立学校教育振興会、横浜YMCAの各理事長、日本私立中学高等学校連合会副会長などの要職を務める。2016年、藍綬褒章を受章。
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(聖光学院中学校高等学校 校長 工藤 誠一)