「お尻の洗いすぎ」はかえって危ない…温水便座を「水圧最強」で浣腸代わりに使い続けた人の「恐ろしい症状」
2025年5月17日(土)8時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Torsakarin
※本稿は、鎌田實『医師のぼくが50年かけてたどりついた 長生きかまた体操』(アスコム)の一部を再編集したものです。
写真=iStock.com/Torsakarin
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■温水洗浄便座の健康リスク
快適で便利な温水洗浄便座。でも、使いすぎには注意が必要です。
最近、ぼくが強く警鐘を鳴らしたいのが、温水洗浄便座の使いすぎによる健康トラブル。水圧を強く当てすぎると、肛門まわりを守っている皮脂膜が失われ、「温水洗浄便座症候群」と呼ばれる炎症やかゆみを引き起こしてしまうことがあります。
肛門がただれたり、もともと痔を持っている人は悪化したり、ひどい場合には肛門の感覚が鈍くなって便意を感じにくくなることもあるのです。
さらに問題なのが、温水洗浄便座を“浣腸がわり”に使ってしまう習慣。便秘気味の人がこれを繰り返すと、たしかに一時的なスッキリ感はありますが、結果的に腸が「自力で排便する力」を失い、かえって便秘を悪化させる危険性があるのです。
■全身の健康を底上げする「土台」になる
そこで、便秘などのトラブルを抱えている方にこそ、ぜひ意識してほしいのが「骨盤底筋」を鍛えることです。骨盤底筋は、膀胱・直腸・子宮(女性の場合)など、内臓を支えているインナーマッスルのひとつ。この筋肉がしっかり働いていれば、便意や尿意を感じたときに、スムーズに排出することができます。
また、骨盤底筋を鍛えることは、ご高齢の方に多い頻尿や尿もれの改善にもつながります。
『医師のぼくが50年かけてたどりついた 長生きかまた体操』(アスコム)より
さらに骨盤底筋は、内臓を下から支えるだけでなく、姿勢の維持にも深く関わっています。骨盤まわりが安定すると、自然と姿勢が良くなり、腰痛予防にもつながるほか、全身の血流もスムーズに。結果として、体のすみずみまで元気がめぐり、疲れにくくなったり、冷え性の改善にも効果が期待できたり。
つまり、骨盤底筋を鍛えることは、単なる排便力アップにとどまらず、全身の健康を底上げする「土台づくり」でもあるのです。
■排便・排尿の「力」が維持できるようになる
骨盤底筋を無理なく鍛える手段として、ぜひ取り入れてほしいのが、「かまた体操」の「脳トレランジ」です。
『医師のぼくが50年かけてたどりついた 長生きかまた体操』(アスコム)より
「かまた体操」とは、ぼくが考案した、シンプルで効果的な健康体操。朝・昼・夜にそれぞれ1分ずつ、その時間帯に合った体操をすることで、「筋肉・脳・血管・腸・骨」の5つの力すべてを高めることを目的にしています。
「かまた体操」については、第1回でも紹介していますので、よろしければご一読ください。ぼくはこの「かまた体操」を、50年にわたる医師人生の到達点だと考えています。
「脳トレランジ」で行う「ランジ」と呼ばれる動作では、重心を支え、体幹を安定させる動きのなかで、骨盤底筋にも自然と負荷がかかります。
特に、踏み出した足でしっかりバランスを取ろうとすることで、骨盤底筋が鍛えられ、排便・排尿時の「締める力」「押し出す力」がしっかり維持できるようになります。しかも、これは後ほどお伝えしますが、かまた体操の「脳トレランジ」なら、左右交互に動きを変えることで脳への刺激もプラスできます。
■30秒で鍛えられる
それでは、実際に「脳トレランジ」をやってみましょう!
1.足を肩幅に開き、つま先をやや外側に向けてまっすぐに立ち、胸の前で両手を組み、大きく息を吸って準備します。
『医師のぼくが50年かけてたどりついた 長生きかまた体操』(アスコム)より
※ふらつく場合は、壁に手を添えてやりましょう。
2.まずはフロントランジ。ゆっくり息を吐きながら右足を1歩、前に踏み出し、右足のひざの角度が直角になるまで上半身を沈み込ませます。ひざをつま先より前に出さないようにすると、ひざへの負担が減り、痛めにくくなります。
『医師のぼくが50年かけてたどりついた 長生きかまた体操』(アスコム)より
※つらければ、ひざの角度は45度くらいでもオッケー!
3.息を吐き切ったら、息を大きく吸いながら、右足を元の位置へ戻します。
『医師のぼくが50年かけてたどりついた 長生きかまた体操』(アスコム)より
4.次は、足を後ろに出すバックランジ。息を吐きながら、右足を後ろに1歩引き、左足のひざが直角になるまで上半身を沈み込ませます。息を吐き切ったら、右足を元の位置へ。この1〜4のように、フロントランジ→バックランジの順で、次は左足で行います。
『医師のぼくが50年かけてたどりついた 長生きかまた体操』(アスコム)より
1〜4までで、大体30秒。もし、物足りないようなら、1分、1分半と時間を伸ばしていただいても構いません。
■「若返りホルモン」が分泌される
この「脳トレランジ」で鍛えられるのは骨盤底筋だけではありません。ランジには2種類あり、ひとつは前に足を踏み出す「フロントランジ」。これは主に太ももの筋肉、特に前側の大腿四頭筋を鍛えます。
この筋肉は、「伸張性筋収縮」と呼ばれる、筋肉が伸ばされながら力を発揮する運動によって、効率よく鍛えられます。さらに、若返りホルモンとも呼ばれるマイオカインという物質も分泌され、血圧や血糖値の改善にも効果的です。
もうひとつは、足を後ろに引く「バックランジ」。こちらは特に、お尻の筋肉(大臀筋)を集中的に鍛える動きです。
ぼくの「脳トレランジ」では、このフロントランジとバックランジを組み合わせ、下半身全体をバランスよく鍛えることを目指しています。さらに、体幹が自然と強くなることで、姿勢が安定し、ふらつきにくくなり、「しっかり立てる体」ができあがっていきます。
■脳トレ効果も抜群である
そして、ここでひと工夫。このランジには、フロントランジとバックランジを交互に繰り返す動きを取り入れています。どちらの足をどの方向に動かすのかを瞬時に判断することで、脳にも絶えず刺激が入り、脳トレ効果が抜群なのです。慣れてきたら、ぜひ自分流にアレンジしてみてください。たとえば──。
右足を前に ⇒ 左足を後ろに ⇒ 右足を後ろに ⇒ 左足を前に
こんな風に組み合わせると、ときどき、ぼくでもわからなくなります。でも、これがじつに脳にいい! だからこそ、この体操は「脳トレランジ」と名づけました。体はもちろん、脳にも適度な混乱を与えることで、頭がシャキッと働き始め、仕事の集中力向上にもつながるはずです。
骨盤底筋をさらにダイレクトに鍛えたい方におすすめしたいのが、「骨盤底筋引き締め体操」です。
『医師のぼくが50年かけてたどりついた 長生きかまた体操』(アスコム)より
やり方はとても簡単。まず、イラスト(図表6)のように足を曲げて壁にもたれた姿勢をとります。そこから、肛門や尿道、女性であれば膣も意識して締め、5秒間かけて陰部全体を上に引き上げるように力を入れましょう。
続いて、5秒間かけてゆっくり力を抜きます。この「締める・ゆるめる」の動きを、5セット繰り返すのが基本です。
■気持ちも前向きになっていく
ポイントは、
・力を入れすぎないこと
・手をおへそのあたりに軽く添えること
力を抜きすぎてもダメ、締めすぎてもダメ。リラックスした状態で「じんわり締めて、じんわりゆるめる」イメージを大切にしましょう。この体操で骨盤底筋をしっかり鍛えれば、排便力が高まり、最初にお伝えした「温水洗浄便座症候群」のリスクも減らすことができます。テレビを観ながらなど、「ながらトレーニング」にもぴったりなので、ぜひ日常生活に取り入れてみてください。
鎌田實『医師のぼくが50年かけてたどりついた 長生きかまた体操』(アスコム)
なお、この体操をすると、膀胱からおしっこをしっかり出し切れるようになるため、頻尿や尿もれといったトラブルの予防・改善にもつながります。とくに中高年の女性は、加齢や出産の影響で骨盤底筋が弱りやすく、重い荷物を持ち上げたときやくしゃみをしたときなど、腹圧がかかる場面で尿もれが起こりやすくなります。
ご自身はもちろん、もし奥さまやお母さまが頻尿・尿もれの悩みを抱えていたら、ぜひこの「骨盤底筋引き締め体操」をおすすめしてあげてください。きっと、健康だけでなく、日常生活の自信にもつながるはずです。
文明の利器に頼るだけでなく、自分自身の筋肉を鍛えて守ること。それこそが、未来の健康寿命を支える鍵です。
・下半身の筋肉を強くし、脳も元気になる「脳トレランジ」
・自宅やオフィスで「骨盤底筋引き締め体操」
無理なく毎日続けましょう。体の調子が整えば、気持ちも前向きになり、仕事の効率や集中力も明らかに変わってきます。
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鎌田 實(かまた・みのる)
医師・作家
1948年、東京都生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、諏訪中央病院に赴任。「地域包括ケア」の先駆けをつくり、長野県を長寿で医療費の安い地域へと導く(現在、諏訪中央病院名誉院長)。現在は全国各地から招かれて「健康づくり」を行う。2021年、ニューズウィーク日本版「世界に貢献する日本人30人」に選出。2022年、武見記念賞受賞。ベストセラー『がんばらない』(集英社文庫)ほか書多数。チェルノブイリ、イラク、ウクライナへの国際医療支援、全国被災地支援にも力を注ぐ。現在、日本チェルノブイリ連帯基金顧問、JIM-NET顧問、一般社団法人 地域包括ケア研究所所長、公益財団法人 風に立つライオン基金評議員ほか。
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(医師・作家 鎌田 實)