神戸の波止場ブルー、埼玉は「ガリガリ君」色…名所や特産品からアイデア色々の「ご当地インク」
2025年5月20日(火)15時0分 読売新聞
ふじいさんが集めたご当地インクの一部(ふじいさん提供)
地域の名所や特産品から着想を得た「ご当地インク」が続々と誕生している。様々なインクの色合いや由来が多くの人を引きつけ、その土地が注目されるきっかけになっている。各地のご当地インクを集めた販売イベントも盛況で、若年層や訪日外国人客の関心も高まりつつある。(岡山支局 佃拓幸)
若年層や訪日外国人の関心高く
ご当地インクの先駆けは、神戸市のナガサワ文具センターが2007年に発売した「神戸インク物語」だ。港町を象徴する「波止場ブルー」のほか、六甲山や旧居留地にちなんだ緑やセピア色などのインクを展開した。その後、少量の生産でも受注するメーカーの登場もあり、各地の文具会社が独自色を出そうと、地元の人気スポットや名産品に着目してインクの開発に注力。10年代後半から人気が高まった。
岡山県倉敷市の文具販売会社「クラブン」は10年以降、白桃やマスカットなどをモチーフにした計75色のご当地インクを販売した。現在は、地元の大学生らと共同で同県和気町の町花であるフジの花をテーマにインクの開発を進めており、担当者は「地元の魅力をもっと発掘したい」と話す。
さいたま市の文具卸会社「クレス」は22年から順次、県産品の狭山茶や草加煎餅のほか、地元メーカーのアイスキャンディー「ガリガリ君ソーダ」などをイメージした「彩玉インク」シリーズを発売。企画時は社内で「埼玉の色に選ぶようなものがあるのか」との声もあったが、「埼玉に行ってお茶を飲んでみたい」などと好評という。
全国のご当地インクを展示販売するイベントは各地で開かれており、神戸市内では23年と今年にそれぞれ3日間開かれ、いずれも約300人の愛好家らでにぎわった。
ご当地インクは2000円前後と手頃な価格が主流で、インターネット販売されているものも多い。最近は見た目の美しさなどからガラスペンが人気で、SNSでご当地インクを知って購入する小中学生も多い。外国人観光客からの引き合いも増えているという。
各地の文具会社が独自のインクづくりに取り組む背景について、全日本文具事務用品団体総連合(東京都)の植竹喬事務局長(77)は「少子化などの影響でまちの文具店が減るなか、他店との差別化を図るため、地域の有力店を中心に全国に広がったのではないか」と話している。
700色収集の文房具ライター
札幌市出身の文房具ライターふじいなおみさん(45)は産後うつのつらい時期にご当地インクの彩りに励まされたのを機に約700色を集め、魅力を発信している。
ご当地インクにはまったのは18年11月。帰省時に訪れた北海道の文具店で、大学時代を過ごした函館の夜景にちなんだインクと出会った。石田文具(北海道北斗市)の「函館トワイライトブルー」。深みのある青色だが、濃く塗ると赤く光って見え、太陽が沈んだ瞬間に見た景色と重なった。「育児疲れでふさぎがちだった気持ちが少し晴れた」
静岡・駿河湾のシラスをモチーフにしたラメ入りインクや、讃岐うどんのだしをイメージした黄色のインク……。インターネットなどで様々なインクの由来を調べて現地に足を運ぶなどし、その地域の魅力を知るのが楽しくなった。19年だけで約300色を収集。SNSで知り合ったファンとご当地インクを交換するなどし、世界が広がった。
20年には知人と一緒に文房具をテーマにしたラジオ番組を始め、ご当地インクの魅力を紹介。その後も開発者に取材したエピソードをまとめた本を出版したり、助言を求められて自らインクづくりに加わったりした。
今は、各地のご当地インクを紹介する北海道のイベントの企画に携わっている。ふじいさんは「ご当地インクは、開発者がその地域の魅力は何かと考え、出した答えが色になったもの。これからも魅力を伝えていきたい」と話している。