280万人が行き交う渋谷駅直結なのに人がいない…スタバですら穴場になる「サクラステージ」に足りないもの

2025年5月21日(水)18時15分 プレジデント社

渋谷サクラステージ - 筆者撮影

2024年に全面開業した渋谷駅直結の大型複合施設「渋谷サクラステージ」が、「渋谷とは思えない人の少なさ」として話題だ。消費経済アナリストの渡辺広明さんは「駅近の商業施設であっても、目を引くテナントや飲食店がなければ人は来ない。ビジネスパーソンに特化したサービスを提供すれば需要はあるのではないか」という——。

■渋谷とは思えぬ「サクラステージ」


渋谷のスクランブル交差点は平日・休日に限らずインバウンド客を中心に多国籍な人でごった返している。ハチ公には写真を撮る人で長蛇の列ができており、あの閑散としていたコロナ禍をすっかり感じさせない。賑わいを取り戻すというよりここ数年で最も活気があると言っても過言ではない状況だ。


筆者撮影
渋谷サクラステージ - 筆者撮影

そんな活気あふれる渋谷の中心から歩いて3分ほどのところに、まるで渋谷とは思えない、非常にゆったりした空気が流れている場所がある。それが東急不動産が約2000億円をかけて開発したとされる、オフィス、商業施設、住宅がすべて一体となった大規模複合施設「SHIBUYA SAKURA STAGE」(渋谷サクラステージ)だ。


渋谷は現在、JR渋谷駅の改良工事をはじめとする「100年に一度の大規模再開発」の真っただ中だ。当初は2027年度完成とされていたが、つい先日東急、JR東日本などが2034年度へと7年先送りを発表したばかりだ。


■竣工時こそは話題に上がったが…


その再開発の一つとして、代官山エリアとの間に当たる桜丘地区に2023年から順次オープンとなったのがサクラステージだ。23年11月にまずオフィステナントの入居が始まり、24年7月に商業施設が全面開業した。最近の商業施設など街区開発では最初からフルオープンしないのが当たり前で、高輪ゲートウェイなどもそれにあたる。


竣工当初はテレビなど各メディアがこぞって取材し、筆者もその盛り上がりに期待したものだった。一方で、商業エリアが全面開業した際はそれほど大きな話題になることはなかったように思う。


筆者撮影
イベントスペース「404 Not Found」 - 筆者撮影

筆者が2度目に訪れたのは10月。Tokyo fmでパーソナリティを務める「馬渕・渡辺の#ビジトピ」の公開収録を、サクラステージのイベントスペース「404 Not Found」で行ったときだ。竣工から1年近く経っていて、その時に全面オープンしていることに気づいたぐらいの話題性だったように思う。


■280万人が行き交う「駅直結」なのにこの人の少なさ


冒頭で「渋谷とは思えないゆったりとした空気が流れる場所」と書いたが、つまりは「商業施設に人がいない」ということだ。一体なぜだろう。


筆者は、渋谷の一等地にありながら、いまいち魅力に欠けているのが原因であるように思う。言い換えれば、わざわざ行く理由が見つからない。


一般のお客がサクラステージに行かなけければならない理由があまり見当たらないため、認知があがらず、商業施設にはあまり人が来ないという負のスパイラルに陥っているのだろう。


元来サクラステージがある桜丘地区は、1日280万人という、新宿駅に次いで世界2位の乗降客数を誇る渋谷駅に近接しているにもかかわらず、国道246号で分断され、渋谷の中では圧倒的に訪問する人が少ないエリアではあった。


現在はJR渋谷駅の新南改札から駅直結の遊歩道ができたことで、雨にも濡れずサクラステージに行くことができるようになるなど、アクセスが劇的に改善しているものの、JR以外の東急や地下鉄からは行きづらい。分断している国道246号の上には首都高が通っており、その圧迫感がサクラステージへの来訪を尻込みさせている気もする。


■外食の価格は普段使いには少し高い


来訪のキッカケの一つになるのが外食である。


筆者撮影
人けがまばらなレストランエリア - 筆者撮影

ところが、サクラステージのランチは1500〜2000円が主な価格帯となっていて、渋谷で働くオフィスワーカーが普段使いをするにはやや高めだ。リクルートの外食市場調査によると、働く人の外食ランチにかける予算は1250円であり、1500円を超えてくると抵抗感を覚える人が出てくるのもうなずける。


駅近立地のためテナント賃料も高くなり、価格転嫁されてしまうのはやむを得ないものの、そうなるとリピート率などへの影響は避けられないだろう。


筆者撮影
化粧品店の隣のスペースはテナントが入っていない - 筆者撮影

繁華街や一等地の飲食店は、回転率を上げるか単価を高くしないと成り立たない。ホームページによると、現在募集中のテナント賃料はおおむね坪単価3万円から5万5000円と、決して高すぎるわけではないが、いまだにテナントが埋まりきらない原因はこういうところにもある気がする。


■お客の目を引く飲食店の誘致がない


加えて、お客を引き寄せる目玉となる飲食店がないのも気になるところだ。


同じ東急でも原宿エリアに24年4月にオープンした「ハラカド」は先日、東京初上陸となる九州のうどん店「因幡うどん」の誘致に成功し、話題となった。商業施設内ではないが、同じ九州から東京に初出店した「資さんうどん」はいまなお行列がやまない人気店だ。


筆者撮影
ハラカドにオープンした因幡うどん - 筆者撮影

商業施設にとって、こうした「日本初上陸」「東京発」といった触れ込みはSNS上でも話題になりやすく、強力な武器になる。


現在サクラステージに入居している各飲食店も美味しそうなラインナップだったが、筆者には「ここ以外では食べられないかも……」といった垂涎の的となるメニューは見つけられなかった。どうしても食べたいという店やメニューがなかったため、結局サクラステージの目の前にあったすき家に行ってしまった。


首都圏にある商業施設は、飲食もコスメショップなどの物販の店も含めてどこも同じようなテナントが入居しており、商業施設による違いがわかりづらく、同質化してしまっている。人気の商業施設は駅の真上にあるアトレやルミネなどで、JR駅のほぼ直結ではあるものの、各駅から3〜5分程度歩かないと着かないサクラステージは、行くのが億劫だと思われているか、そもそも買い物や食事場所の選択肢から外れてしまっている可能性が高い。


そう考えると、商業施設が生き残れるところは立地的にも限定され、「比較的」駅近の商業施設であればとりあえず集客できるという時代は、首都圏では少なくとも終わったという見方もできる。


■ビジネスパーソン向けサービスに望みあり


では、どうすれば集客は可能なのか。


この記事を書くに当たり、このところサクラステージをよく訪問している。SNSやネット記事で「いつ行っても空いていて穴場」と話題になっていたサクラステージのスターバックスにも行ってみた。


筆者撮影
筆者撮影
空席が目立つ昼時のスターバックス。「穴場」とすら言われている - 筆者撮影

訪れたのは平日の昼時だったが、情報が拡散したからか、ガラガラという状況ではなく、席の6〜8割ほどが埋まっていた。渋谷のカフェは満席であることが基本なので、空席があること自体が奇跡に近いのだが、渋谷でゆったりまったりする場所としての認知が少しずつ広がっているようだ。


サクラステージは、職住近接をコンセプトとしているため、オフィス以外にも作業環境を求める労働者とはそもそも相性が良いはずだ。4階にある書店「TSUTAYA BOOKSTORE 渋谷サクラステージ」に平日の夕方訪れてみると、書店には紙の本離れもあり人はまばらだったが、全180席を備えカフェとしてもワークスペースとしても気軽に利用できる「SHARE LOUNGE」は、8割方席が埋まっていて人気を博していた。


渋谷には外出しているビジネスパーソンが仕事する場所やミーティングができる場所が少ないため、ビジネスパーソンに特化したサービスには将来的にはサクラステージの集客マグネットとなる可能性も感じた。


渋谷でいえばセンター街や裏シブ、キャットストリートなど、商業施設ではないものの雰囲気のある街は魅力的で、ターゲットに合わせた集客は順調で魅力的だ。


筆者撮影
再開発が進む渋谷周辺 - 筆者撮影

2034年に完成予定の渋谷駅の大開発は、ターミナル駅の買い物のあり方をこの9年かけてその解を導き出していきそうだ。


----------
渡辺 広明(わたなべ・ひろあき)
流通アナリスト・コンビニ評論家
1967年、静岡県生まれ。東洋大学法学部卒業。ローソンに22年間勤務し、店長やバイヤーを経験。現在は(株)やらまいかマーケティングの代表として商品営業開発・マーケティング業に携わりながら、流通分野の専門家として活動している。『ホンマでっか!? TV』(フジテレビ)レギュラーほか、ニュース番組・ワイドショー・新聞・週刊誌などのコメント、コンサルティング・講演などで幅広く活動中。
----------


(流通アナリスト・コンビニ評論家 渡辺 広明)

プレジデント社

「サクラ」をもっと詳しく

「サクラ」のニュース

「サクラ」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ