トヨタ、ダイキン、テルモ…日本経済低迷期に躍進した成長企業の共通点とは

2023年8月8日(火)6時0分 JBpress

 バブル崩壊以降、日本経済は「失われた30年」に陥り、多くの企業が業績低迷に苦しんだ。しかし、この間にも着実に成長を続け、グローバル市場で躍動を続けた伝統的大企業が少なからず存在する。コーン・フェリー・ジャパンの綱島邦夫氏は、こうした企業の分析を行い、各社に共通する「黄金の法則」を導き出した。「失われなかった30年」を歩んだ成長大企業の特徴と、それらに共通する経営のあり方について、同氏に話を聞いた。

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かつての日本企業は「学ぶことを忘れたカナリア」だった

——ご著書『日本の大企業 成長10の法則 失われなかった30年の経営』では「失われた30年」の間に成長を遂げた伝統的大企業について紹介しています。本題に入る前に、そもそも「失われた30年」はどのような時代だったのか教えてください。

綱島邦夫氏(以下敬称略) 「失われた30年」と一括りにして考えがちですが、1990年代、2000年代、2010年代の3つに分けて考えるとわかりやすいでしょう。


 まず、1990年代ですが、実はそれほど「失われなかった時代」といえます。バブル崩壊後の資産不況の中にあっても、日本のGDPは30%以上の伸びがあったためです。しかし、多くの経営者は欧米企業で見られた「新たな動き」を見過ごしていました。

 1980年代、好調だった日本経済とは対照的に、欧米企業は苦戦を強いられていました。そこで叩きのめされた欧米各社は、21世紀に求められる新たな経営のあり方を模索していたのです。

 例えば、いま話題となっている「人的資本経営」は、ピーター・センゲ氏が1990年代に出版した「学習する組織(Learning Organization)」という書籍で提唱されています。「経営陣が気づかないことに現場で働く第一線の人が気づき、ボトムアップで企業を変えていく」というアイデアは大きな話題となり、著書は世界中でベストセラーとなって、多くの欧米企業で研修が行われました。

 しかし当時、経済成長がゆるく続いていた日本では、こうした新たな考え方はほとんど話題にのぼらず、普及にも至りませんでした。それは当時の経営者たちが、経済成長を続けてきたそれまでの経営スタイルに自信を持っていたからでしょう。

 人は本当にどん底に陥らなければ、なかなか勉強しようとは思わないものです。1980年代までは、経営者たちが必死に勉強してきたからこそ大きな経済成長を成し遂げました。しかし、1980年代以降、経営者はそれを忘れてしまった。いわば「学ぶことを忘れたカナリア」になってしまったのです。


「選択と集中」という戦略手法が失敗を招いた

——2000年代以降、日本企業に新たな動きは見られなかったのでしょうか。

綱島 その頃、アメリカ企業を中心に「選択と集中」という戦略経営に乗り出す企業が登場しました。そして、日本企業もこれに追随します。例えば、日産自動車。同社はカルロス・ゴーン氏のもと、それまでなかった中期経営計画を用いて大成功を収めました。

 こうした成功を目の当たりにした多くの日本企業が「選択と集中」の戦略を真似したのです。しかし、どの企業も軒並み成長できず、停滞していきました。当時、戦略経営を主導した大前研一氏も、後にこの考え方が間違いだったと言っています。

 この他、アカデミア領域で新しいオピニオンリーダーが現れなかったことも、日本経済の成長を阻害する大きな要因となりました。多くのオピニオンリーダーが20世紀までに登場しましたが、それ以降の時代を牽引する人が現れなかったのです。

 これはアメリカでも同様でしたが、アメリカでは持ち前の多様性を生かした点が日本と異なりました。アメリカの企業人たちが活路を見出していった結果、現在にも続くGAMFAのような成長企業が生み出されています。

 一方、日本企業では、1990年代に学習しなかったつけを2000年代以降払わされることになります。ITや人材への投資が進まず、企業の生産性は軒並み低下しました。そのため、事業規模の成長へとつながらず、稼ぐ力も停滞することで未来に向けた投資ができない、といった「悪魔のサイクル」に陥っていったのです。


失われた30年に「失われることなく成長を遂げた企業」

——日本経済が逆風に晒される中、成長を続けた企業はあったのでしょうか。

綱島 「失われた30年」で多くの企業が苦戦を強いられました。しかし、すべての企業がそうだったわけではありません。では、この30年間に「失われなかった企業」はどんな企業なのか。そしてそれらに共通の特徴があるのか。それをミクロの視点から探っていこうと試みたのが本書『日本の大企業 成長10の法則』です。

 とりわけ重要なのが、この30年間も「失われることなく」確実に成長している企業は、「トップダウンによる戦略経営をやめている」という事実です。

 例えば、トヨタ自動車。同社には、経営企画室もなければ、中期経営計画もありません。経営会議は夜に食事をしながら、その場でテーマが決められて話し合いが行われると言われます。又、一部の経営層だけでだけで意思決定をするのではなく、現場社員の話を聞き、彼らのポテンシャルを信じ、開放していくのです。

 トヨタ自動車の経営を体現しているのが、海外事業の創造のためにつくられた「TheToyotaWay2001」です。その柱には「Continuous Improvement(改善と改良)」と「Respect for People(人間性の尊重)」があり、人を中心に据えた改革が進められました。こうした結果、トヨタ自動車は売上8兆円の田舎企業から、いまでは37兆円規模のグローバル企業へと成長を遂げています。

 また、1990年代に業績が低迷し「ダメキン」と自虐的に称していたダイキン工業も、人を基軸とする企業改革を実施してきました。社員の成長が事業の成長を生み出す、という考えのもと、社長自ら従業員へのメンタリングを行い、いまや世界の空調企業をリードする存在になっています。

 他にも、新築一戸建て市場が半減する中、ダイワハウスは売上高を5000億円から4兆円へと拡大。塩化ビニル樹脂の世界的企業で売上高2兆円を超える信越化学工業や、体温計・注射針のドメスティック企業から「心臓外科手術のグローバル企業」に成長したテルモ、3兆円の公的資金を12年で完済してリテールバンクのトップ企業になったりそな銀行など、実は成長を遂げた企業は存在しているのです。

 この30年間で成長した企業はいずれも、経営層から現場へ意思決定を伝達する「トップダウン」から、「従業員のポテンシャルを引き出す新たなモデル」へと大きく変化しています。一方で、他の多くの企業がこうした流れを捉えきれなかったため、日本経済全体が停滞し、「失われた30年」につながってしまったと考えています。


企業成長の鍵は「最前線で働く人に目覚めてもらうこと」

——低迷が続く企業が成長するために、求められる経営のあり方とはどのようなものでしょうか。

綱島 企業の成長は、社長の命令では達成できません。成長の源泉には、イノベーションとモチベーションが欠かせませんが、これらは社員一人ひとりが秘めているものです。社員が本来的に持っているイノベーションやモチベーションを引き出すことができるような組織風土を作っていくことが重要だと思います。

 この30年間で成長を続けた企業に共通する大きな特徴は「第一線で働く人を主役にしていること」です。私がコンサルティングを提供する企業では、あることに取り組んでいます。それは若い社員たちを10名ほど集めて、会社の外に出てもらうこと。そして面白い取り組みをしている企業に自らアポイントを取って、話を聞いてきてもらう。そこから学んだことを経営陣の前で発表してもらうのです。

 例えば、ある社員は超高収益企業であるキーエンスの高い報酬に目をつけました。「キーエンス社員のモチベーションの高さは報酬が源泉ではないか」といった仮説を立てて、実際に社員に話を聞いたのです。すると、「キーエンス社員のモチベーションの源泉は、金銭報酬ではない」ということがわかります。

 このように自ら課題を見つけ、仮説検証をし、考えを深めていく。こういった話を社員から聞いた経営陣は「我々にはまだポテンシャルがあり、若手社員たちの中にはこんなに優れた人材がいるのか」と驚かされます。こうした取り組みを社内で少しずつ広げていくことが、イノベーションやモチベーションの源泉となるのです。第一線の人たちに目覚めてもらい、本来持っている知識や知恵を生かすことこそが、利益を生み出す組織の第一歩です。

 また、こうした動きは一つでも始めれば、あとはそれを指数関数的に増やすことができます。10人で始めたのなら、次は30人、次は100人と増やしていくのです。このように社員を主役にしてイノベーションやモチベーションを高めていく取り組みを3年ほど続ければ、多くの企業で復活の兆しが見えてくるはずです。

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筆者:綱島 邦夫

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