Google、IKEA、Spotifyが支援、SDGs達成のカギとして注目を高めるIDGsとは?

2023年9月27日(水)4時0分 JBpress

 移り変わりが早く、複雑さを増すビジネス環境で、持続的に組織を成長させることは、今や多くの企業にとっての共通課題だ。当連載では、サステナブル経営を支える人材育成法の新しいグローバルスタンダードであるIDGs(Inner Development Goals)について紹介した書籍『IDGs 変容する組織』(新井 範子、鬼木 基行、佐藤 彰、新宅 剛、水野 みち著/経済法令研究会)から一部を抜粋・再編集し、持続可能なビジネスを実現する人材に必要な能力、スキル、IDGsを経営に組み込む実践法を解説する。
 第1回目は、IDGsの成り立ち、SDGsとIDGsの関わり、そしてIDGsの核を成すコンセプトである5つのカテゴリーについて取り上げる。

<連載ラインアップ>
■第1回 Google、IKEA、Spotifyが支援 SDGs達成のカギとして注目を高めるIDGsとは?(本稿)
■第2回 SDGsの17の目標並みに重要、IDGsの「5つのカテゴリー」とは?
■第3回 経営者も一般社員も実行可能、IDGsを導入した組織のトランスフォーメーション(10月11日公開)

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内面の成長フレームとしての「IDGs」

 本章では、Inner Development Goals(内面の成長目標、以下「IDGs」という)の概要を説明し、内面の成長の必要性とIDGイニシアチブで策定された5つのカテゴリ—を理解頂くことを目指す。

 まず、IDGsの成り立ちと背景・目的を説明し、その成り立ちを踏まえて、内面成長の必要性を掘り下げて考察する。次に、個人の内面の成長と企業の事業活動とのつながりを考察する。またIDGsの考え方の基礎となるシステム思考について簡易ではあるが概説を行うので参考にして頂きたい。さらに、企業などの組織でIDGsを導入する方法とその効果を考察し、最後に、IDGsの5つのカテゴリ—とそれぞれの関連性を鳥瞰し、IDGsの具体的な内容を説明していく。


IDGs の背景と目的

(1)SDGsレポートから見る世界の取り組みの実際

 IDGsの取り組みの出発点は、持続可能な社会の実現に向けた取り組みSDGsの取り組みに盲点があるとの思いから発している(1)。SDGsは持続可能性に関連する17のゴールと169項目の個別の達成目標を設定しているが、多くの国々で、各年度とも達成状況が芳しくないことから、内面の成長の必要性が議論されることとなった。下表は国連の「SDGsグローバル指標」や各国の自主的な進捗評価を補完する目的で、毎年発表されている「Sustainable Development Report 2022」(2)からの抜粋である。
(2)「Sustainable Development Report 2022」 はこのレポートはデータ分析の際に、経済協力開発機 構(OECD)や国連食糧農業機関(FAO) などの国際機関による公式データや、民間の研究機関や市 民社会による非公式のデータも活用することで、よりタイムリーな情報を発信している

 2022年のレポートで示されたSDGインデックススコア(17のSDGsに関する各国の全体的な実績を評価したもの)の状況を見ると、2015年から2019年にかけては、2030年の達成目標に向けては不十分だが、それでも世界全体で年平均0.5ポイントの割合でスコアを伸ばしてきたことがわかる。ところが2019年から2021年は全世界でのコロナ禍の影響による経済的な混乱で、SDGインデックススコアは世界全体で0.01ポイント減少し、特に低中所得国での悪化が大きく、2030年までの達成に暗雲が立ち込めている。

 また、下表に示すように各地域別の17の目標に対する達成度をみても、2飢餓をゼロに、14海の豊かさを守ろう、15陸の豊かさを守ろうで多くの国とエリアでチャレンジが必要な状況が続いている。

 2015年の国連の持続可能な開発サミットの成果文書、2030アジェンダで設定されたSDGsは、これまで各目標に対する実施方法や対策の議論はされてきたが、それを実践する人の育成や必要な能力がどのようなものであるか議論されることはなかった。達成に向けた具体的な取り組み内容やマイルストーンについての合意が得られても、達成状況は上記に示すように2030年までの達成が困難な状況に陥っている。これまで人材について議論されることがなく、実行に必要な能力とマインドを持った人財が不足していることも大きく影響していると考えられている。

(2)国内におけるSDGsの周知と実行の実際

 日本国内においては、メディアや経済産業省の尽力(3)もありSDGsの社会的な周知は進んだものの、その実行は限られた範囲での推進で、SDGsの意義と中身について理解して実践している人はわずかではないだろうか。
(3)USDGs https://future-city.go.jp/link/

 本来SDGsの17の目標は、特定の目標だけでなくすべての達成が必須だが、各企業、自治体など自分たちの事業領域に合うゴールを選び出し、取り組みを行なっているケースが多いのではないだろうか。さらには、SDGsの本来の意義や目標を理解するところまでは至らず、取り組みが表面的なものとなり、宣伝的な役割を果たしてしまっているケースも散見される。

 あるいは、個別のゴールを満たすだけでは不十分ですべてのゴールを満遍なく達成することが必要だと認識していても、自社や自身の影響範囲を鑑みるとごく限られた範囲や項目への取り組みにとどまることが多いのではないだろうか。そのためSDGsが全体として目指すべき方向と自社や自身の業務を別のものとして割り切ってしまうことも起きているように思う。

 もっとも危惧してしまうのは、SDGsを経済活性のためだけの道具として、すべてのゴールを目指すことを意識的に無視してしまい、儲けの仕組みに組み込んでしまうケースだ。これは、SDGsにおけるあり得る最悪のシナリオだと言え、このシナリオでことが進んで行く限り2030アジェンダの達成は不可能なものになる。

 このような状況を鑑みて、SDGsの達成のためには、実際に取り組みを行う人財の内面の成長なしには達成は不可能であるとの思いからIDGsの項目が議論されることになったと推察できる。

(3)普遍的・汎用的なテーマとしてのIDGs

 また、ここで1つ言及しておきたいのは、SDGs自体もヨーロッパ式ゲームの枠組みだと言われることもあるということだ。

 欧州で枠組みや規則をつくることでイニシアチブ(主導権)をとる戦略的な意味合いも皆無ではなさそうだ。さらに補足するとSDGsの17のゴールは、各国が合意できる最低限の項目のゴール設定となっており、持続可能な社会の構築に不可欠と思われるようないくつかの項目が入れられていないことが指摘されていることにも注意が必要だ。

 したがって、IDGsはSDGs達成のために必要不可欠なドライバ(駆動力)として議論され始めたという出自を持ってるものの、不完全な現在のSDGsの達成のためだけに使われる目標ではなく、より普遍的で汎用的な取り組みにしたいとの思いも、関係者の活動に垣間見える(4)

 SDGsのゴール設定が達成状況や各国の情勢に合わせて修正されようとも、IDGsのゴールとカテゴリーはより普遍的なカテゴリーとして改善が進むよう、オープンな場で議論されブラッシュアップしていくことを前提に取り組みが進んでいる。現在、IDGsの策定には、IDGsイニシアチブ(5)が設立され、50を超える学術機関、組織、コスタリカ政府が参画している。企業では、GoogleやIKEA、Ericsson、Spotifyなど日本国内でも名を知られた企業がパートナー企業として名を連ねており、今後さらに注目が高まっていくと考えられる。IDGイニシアチブは非営利組織で、内面成長の力を通じて国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた取り組みの加速を目指している。
(4)「2030年の世界地図帳』 落合陽一 (SBクリエイティブ、2019)
(5)IDG 177 innerdevelopment goals.org

(4)IDGsの5つのカテゴリー

 SDGsでは17の目標と169のターゲットが設定されているように、IDGsでは5つのカテゴリーと23のターゲットスキルが設定されている。詳は、後述するがここでは、どのようなカテゴリーがあるか眺めて頂きたい。

Being-Relationship to Self
 自分のあり方- 自己との関係性
Thinking-Cognitive Skill
 考える-認知スキル
Relating-Caring for Others and the World
 つながりを意識する- 他者や世界を思いやる
Collaborating-Social Skills
 協働する-社会的スキル
Acting-Driving Change
 行動する-変化を推進する

 IDGsの各カテゴリーの解説に入る前に、SDGsのような目標数値達成のために、なぜ内面の成長が不可欠であるかという点について少し詳しく言及しておきたい。

 そのための手がかりとして、実際に起こっている出来事や事象と、各人が持っている「メンタルモデル」などの内面がどのようにつながっているか、出来事とメンタルモデルのつながりを表すドネラ・メドウズの氷山モデルを紹介しながら解説したい。メンタルモデルとは、マインドセットに近い言葉だが、頭の中にある「ああなったらこうなる」といった「行動のイメージ」を表現したものである。

 ピーター・センゲ(Peter Michael Senge)は著書『学習する組織』で、メンタルモデルの理解を5つの重要な領域の1つの領域として解説し、学習する組織をつくる上で必要不可欠なものとしている。以下に、氷山モデルを用いた出来事を分析する際の手順を説明する(6)。この手順を追うことで、出来事がメンタルモデルとつながりを持って表出することを確認頂きたい。
(6)『学習する組織—システム思考で未来を創造する』 ピーター M センゲ (英治出版、2011)
『世界はシステムで動くーいま起きていることの本質をつかむ考え方』ドネラ・H・メドウズ(英治出版、2015)

その1
 出来事を断片的に見るのではなく、時系列で見ることでパターンとして認識する。世の中の出来事や行動は、時系列で観察するとパターンが見えてくる。突発的に見える事象も時系列で観察すると何かしらの因果関係が現れパターン化できたり、予兆が見えてきたりする。出来事を数値で定量化して時系列のグラフで表すことで、パターンとして捉えることが観察のスタートとなる。

その2
 出来事のパターンを発見することができたら、パターンを生んでいる構造すなわちシステムを明らかにする。出来事の時系列パターンは、影響する因子を整理すると構造的なものが生み出していることがわかってくる。

 一例として、道路の渋滞状況と拡張工事の関係を考えてみる。とても渋滞する道路があるので渋滞解消のため拡張工事を行ったとする。効果が現れ渋滞は解消したが、渋滞解消を知った人はその道路を使うようになる。道路を使う人が増えればまた渋滞が起こる。渋滞が多くなるとまた拡張工事の必要が出てくるだろう。この一連の流れは、渋滞(出来事)への対策の拡張工事が、利用者の増加を生み、再び渋滞につながり、再度拡張工事が必要になる慢性的な渋滞を生む構造を示している。

 要素のつながりを構造的に考える方法はシステム思考と呼ばれ、近年はビジネス業界のみならず、ソーシャルセクターでも必要性が高まり認知度が高まっている。

 製造業で活用され知る人も多い、『ザ・ゴール-企業の極の目的とは何か』の著者ゴールドラット(Eliyahu MosheGoldratt)が提唱している制約理論(TOC)もシステム思考が使われている。構造を明らかにするために用いられる、因果ループ図というツールがあるが、こちらに関しては、より詳しく後述したい。ここでは、システム構造がパターンを生み出しているということを認識頂ければと思う。

その3
 構造の裏には関係者のメンタルモデルが隠れている。構造は、システムを生んだ人やシステムに関与している関係者のメンタルモデルから生み出されている。先の例でいくと渋滞の解消を目指す道路の管理者のメンタルモデルと、利用者が渋滞を避けたいというメンタルモデルが、渋滞と拡張工事を繰り返す構造を生み出してしまっていた。

 このようにSDGsの課題も根っこを辿れば、個人や集団が持つメンタルモデル(内面)が構造を生み出し、構造がパターンを、そして出来事を生み出していると考えることができる。

 ただし、SDGsにまつわるような環境問題や各国間の経済格差などは取り扱う課題が広範で人類全体が関わる問題であるため、構造はより複雑に、構造をつくっている関係者のメンタルモデルも多様をきわめているのが実態である。

 それがために、これまでのSDGsの取り組みは、複雑に絡み合った構造全体を視野に入れることは難しく、達成目標値を定めた個別の取り組みが主体となってしまっている。

 構造全体を視野に入れた上で、技術的な解決策や、政策等で構造的な課題への対策も有効で必要なことに加えて、個々や集団のメンタルモデルへの取り組みを同時に行うことも必要不可欠だ。図に示すように、氷山モデルにおいて一番深い部分にあるとされているメンタルモデルはもっともレバレッジが高いと考えられている。レバレッジとはテコを意味する言葉で、氷山モデルのより深い位置にあるものほどレバレッジが高く、取り組みに対する効果が高いと言われている。出来事そのものに対処するより、パターンを見て対処する方が効果が高く、パターンを生んでいる構造に対策した方が変化を生み出しやすい。メンタルモデルを変容させるのはより難しさを伴うが、メンタルモデルが変容することで、生み出される構造そのものが変化するため最も効果が高くなるといった具合だ。

 メンタルモデルや内面を変容させることができれば、出来事そのものへの対策に比べて、恒久的な対策になる可能性も高い。パターンを考慮せずに出来事そのものへ対策してもパターンとして再発するケースが想定されるが、より深くに位置する構造やメンタルモデルへのアプローチはより根本的な対策になり、持続性のある対策になるはずだ。

 私たちは、SDGsで取り上げられているような複雑で広範な課題に対しては、自分自身を個人として見るだけでなく、お互いの関係や相互作用についても考慮し、自分たちをより大きな集団として考察できるスキルを身につける必要がある。

 この点で、IDGsが提案するスキルやメソッドは、企業組織での人材育成にも活かすことのできる内容だと言える。

<連載ラインアップ>
■第1回 Google、IKEA、Spotifyが支援 SDGs達成のカギとして注目を高めるIDGsとは?(本稿)
■第2回 SDGsの17の目標並みに重要、IDGsの「5つのカテゴリー」とは?
■第3回 経営者も一般社員も実行可能、IDGsを導入した組織のトランスフォーメーション(10月11日公開)

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筆者:新井 範子,鬼木 基行,佐藤 彰,新宅 剛,水野 みち

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