BtoBのサブスク製品は、なぜ2本以上売った方が解約率が低いのか?

2024年12月16日(月)4時0分 JBpress

 どんなに優れた製品・サービスを提供していても、営業が数字を追求し、数字をつくらなければ、安定した経営は成り立たない。個々の営業担当のスキルはもちろん大事だが、全メンバーをチームとして束ね、会社としての目標を確実に達成していくには、営業リーダーのマネジメントが極めて重要な意味を持つ。本連載では『なぜ営業リーダーの仕事はこんなに難しいのか』(遠藤公護著/クロスメディア・パブリッシング発行)から、内容の一部を抜粋・再編集。営業におけるKPIマネジメントの要諦とチームをまとめるリーダーシップの在り方を提示する。

 第1回は、KPIマネジメントにおいて「主要成功要因(KSF)」を模索し続けることがいかに重要かを解説する。


KPIマネジメントの肝

 最終的な目標である売上目標(KGI:重要目標達成指標)を達成するために、まずは最も寄与する要因(KSF:主要成功要因)を特定します。そのKSFの達成に向けた具体的な行動を数値化したものがKPI(重要業績評価指標)となります。

 KPIマネジメントの重要性はご理解いただけると思いますが、営業現場で成功を収めるには、2つの重要なポイントを押さえる必要があります。

 1つ目は、「不足部分を明確化すること」です。

 現場の営業メンバーは、設定されたKPI達成に向けて邁進してくれるでしょう。しかし、営業リーダーは異なる視点を持つべきです。

 行動量が不足している場合、なぜ週5件のデモ実施に至らないのか、割り当てた営業区域に問題はないか、アポイント獲得のための電話対応に改善点はないか、そもそもアプローチ材料が不明瞭で行動に移せていないのではないか、など、様々な角度から原因を分析し、具体的な対策を講じる必要があります。

 2つ目は、「売上につながる主要成功要因(KSF)を常に模索すること」です。

 KPIマネジメントでは、重要と判断した指標を管理しますが、現状の指標が本当に適切なのか、常に問い直す姿勢が大切です。固定観念にとらわれ、数字達成のみを追求すると、チーム全体を誤った方向に導いてしまう可能性もはらんでいます。ビジネスの状況に応じて、管理するKPIは変化しうるものです。

 たとえばダイエットであれば、「減量」という目標に対して、「運動、食事、睡眠」はKSFとして重要ですが、これら以外にKSFは存在しないのでしょうか?

 年齢を重ね、ダイエットに失敗し続ける私自身の経験から、新たにエステなどの科学的なアプローチ(KSF)を取り入れることで体内深部から新陳代謝を促し、脂肪の燃焼を活発にすることも探るべきかもしれません。

 ビジネスにおいても重要なのは、売上達成(KGI)に繋がる主要成功要因(KSF)を見極め、仮説検証を繰り返しながら、KPI自体も柔軟に見直していくことなのです。

 私が以前に所属していた会社(タブロー社)では、サブスクリプション型の製品を扱っていました。最小契約金額が小さいため、毎年契約更新を前提としたビジネスモデルを採用し、リカーリングレベニュー(定期的な収益)によって売上を拡大していく戦略です。

 このビジネスモデルにおいて最も避けなければならないのが「解約」、つまりチャーンです。解約に関するデータ分析を行った結果、驚くべき事実が判明しました。なんと、製品を1本のみ契約している企業の解約率が非常に高い傾向が見られたのです。

 そこで、1本のみ契約している顧客に解約理由を直接ヒアリング調査してみました。「分析用の製品を購入したものの、使いこなせなかった」というシンプルな回答を得たのですが、さらに深掘りして理由を探ってみました。

 すると、データサイエンティストではない現場担当者が分析業務を任されることに、様々な不安を感じていたことがわかりました。

 特に、会社で1本しか製品を購入していない場合は、相談できる相手がおらず、孤立してしまうことが大きな要因となっていたのです。結果として、誰にも相談できずに諦めてしまい、解約に至るケースが多く見られました。

 また、仮に1人で分析を完遂できたとしても、周囲に共有し、巻き込んでいくような動きには繋がりにくい傾向がありました。その結果、「効果が出ない」と判断され、解約を選択してしまうケースも少なくなかったのです。

 一方、2本以上製品を購入している企業では、わからないことがあれば互いに相談し合いながら課題を克服できるため、分析がスムーズに進んでいる傾向がありました。さらに、分析結果を共有することで、社内に活用の輪が広がり、新たな発見や効果にも繋がっていたのです。

 このことから、最初の販売時に製品を1本のみで販売するのではなく、2本以上をセットで販売することの重要性を認識しました。2本以上であれば、解約率の抑制に繋がるだけでなく、さらなる追加契約の可能性も高まります。

 1本のみの購入を希望する顧客に対しては、データに基づいた分析カルチャーの重要性を積極的に訴求するようにしました。たとえ小さな投資であっても、1本のみの購入では無駄になってしまう可能性が高いという事実を伝え、2本以上の購入を推奨していきました。

 営業リーダーがKSFを探し続け、見つけた他の例も紹介します。

 営業戦略で重視すべき指標として、初期購入時の平均顧客単価(AOS)があります。

 従来は個人単位での提案が中心でしたが、データ分析のニーズは個人に留まらず、部門全体に広がりを見せています。そこで、部門単位での利用を前提とした提案へと視野を広げることが重要となりました。

 個人向けの分析製品の場合、1契約あたりの年間売上は約10万円ですが、部門全体でデータを共有・活用するためには、ダッシュボード可視化ツールなど、別の製品との組み合わせが不可欠です。この場合、AOSは100万円を超える規模となります。

 AOSが100万円を下回る提案は、分析結果を共有するためのツールが含まれていない可能性が高く、顧客にとって「誰も見ないシステム」になってしまうリスクを抱えています。顧客にとって初期投資額は10万円から100万円へと跳ね上がりますが、10万円の投資では本来目指すべきデータ活用を実現できない可能性が高いのです。

 もちろん、高額な提案が必ずしも成功するとは限りません。しかし、AOSを意識した提案を行うことこそが、将来的な売上(KGI)に大きな影響を与える重要なKSFと言えるでしょう。


KSFを探す重要性の認識

 前述のタブロー社に入社した早々、KSFを探す重要性に衝撃を受けた出来事がありました。

 中小企業担当チームのゴールが、なんと四半期の売上ではなく新規顧客獲得数(New Logo)だったのです。

 もちろん、最終的な目標は売上ですが、当時のデータ分析で、中小企業営業においては初期段階で売上よりも顧客獲得を優先し、まずは1本でも多くのライセンス導入を実現することが、結果として生涯売上(LTV)の最大化に繋がると判明していたのです(後に、2本以上の販売が重要であるというデータも得られました)。

 外資系企業では、営業の役割が効率重視で細分化されているケースが多く見られます。初期導入専門の営業であれば、成約後には顧客を別の担当者に引き継がなければなりません。

 この場合、売上目標を達成するために、最初の販売機会を最大限に活かそうと、トライアルの無償提供を続け、案件を可能な限り大きくしてから顧客を引き渡す、という行動が往々にして起こり得ます。

 しかし、Land&Expand戦略(まず小規模から導入を始め、アップセルやクロスセルで収益を拡大する戦略)を採用していたタブロー社では、1件でも多くの新規顧客に導入(Land)してもらうことで、顧客自身が製品価値を実感し、すぐに拡張(Expand)してくれるという確信がありました。

 短期的な売上目標にとらわれず、あえて新規顧客数(New Logo)をゴールに設定することで、1件の成約を重視し、長期的な視点で売上最大化を目指していたのです。その後、中小企業担当チームにおいても、新規顧客数は最終目標(KGI)ではなく重要なKSFという位置付けに変化しましたが、私が退社するまでその重要性は揺るぎませんでした。

<連載ラインアップ>
■第1回 BtoBのサブスク製品は、なぜ2本以上売った方が解約率が低いのか?(本稿)
■第2回 大型案件の獲得に欠かせない「BANT情報」と2つの「例外レビューポイント」とは?(12月23日公開)
■第3回 狙った顧客を「あるべき姿」へ導いて売上増を実現、顧客攻略のための「5つの営業アクション」とは?(1月7日公開)
■第4回 安定した売上目標達成に向けて、営業リーダーが押さえておくべき「予測」のポイントとは?(1月23日公開)
■第5回 「数字から逃げない」強いチームの営業リーダーが、いつも大切にしている「3つのこと」とは?(1月30日公開)
■第6回 「マネージャーのマネージャー」は、なぜ強面役を演じなければいけないのか?(2月6日公開)

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筆者:遠藤 公護

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