コシノジュンコ 「対極」というコンセプトは、思いがけない妊娠がきっかけ。「光と影があるから、美しいシルエットが生まれる」

2025年2月25日(火)12時30分 婦人公論.jp


コシノジュンコさん(撮影:下村一喜/『コシノ三姉妹 向こう岸、見ているだけでは渡れない』より)

大阪・岸和田のコシノ洋装店に生まれたコシノヒロコさん、コシノジュンコさん、コシノミチコさんの三姉妹は、50年以上ファッション業界で世界的な活躍をしています。そんな三姉妹の初の共著『コシノ三姉妹 向こう岸、見ているだけでは渡れない』が、2025年1月10日に刊行されました。そのなかから、三者三様の人生哲学の一部をお届けします。5月23日からは、連続テレビ小説『カーネーション』のモデルになった母・小篠綾子さんとコシノ三姉妹の人生を描いた映画『ゴッドマザー コシノアヤコの生涯』も公開され、ますます目が離せない姉妹です。

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思いがけない妊娠


40歳のとき、パリコレの準備の最中に体調が悪いので病院に行ったところ、妊娠が判明。35歳で結婚してから5年間子どもができず、もう縁がないと思っていたので、自分でも意外でした。まわりもびっくりしたようで、友人たちの反応は「えっ、ジュンコって女だったの?」。私自身も思ったくらいですから、まわりがそう思うのは当然です。

当時はパリコレに出始めて間もない頃でしたし、仕事がどんどん広がっている時期だったので、なぜよりによって今この時期に、とも思いました。でも、産まないという選択肢はまったくありませんでした。

自分のお腹がどんどん大きく、丸くなっていくのが、なんだかおもしろくて仕方ない。羊水のなかで胎児が生きているなんて、まるでお魚みたいだと思ったし、人間の生命の不思議さを感じました。「なんだ、ロケットに乗らなくても、このなかに宇宙があるじゃない」と思い、クリエイティブな発想がどんどん湧いてきたのです。

お腹は三角でも四角でもなく、スイカみたいに真ん丸。だからすっかり「丸」に夢中になって、作る服が全部丸いバルーン型になってしまったほどです。

「対極」というコンセプト


そのうち、「地球や宇宙など、丸いものは神様が創った形だとしたら、四角はなんだろう」と考えるように。たとえば東西南北の方位もある意味では四角ですし、人間が作った数字の世界、建築などは四角。丸は常に動いていて底辺がありません。四角は底辺があり安定しています。その丸と四角のコントラスト、「対極」がおもしろいと思いました。

こうして、今も夢中になっている「対極」というデザインコンセプトが誕生しました。


『コシノ三姉妹 向こう岸、見ているだけでは渡れない』(著:コシノヒロコ、コシノジュンコ、コシノミチコ/中央公論新社)

たとえば、昼と夜は対極で、昼が赤だとすると夜は黒です。また地球上でいうと、北極と南極、東洋と西洋、あるいは天と地。そのほか、光と影、静と動など。そんなふうにこの世には2つの極があり、その美の世界をファッションで対立させてバランスをとるのが自分の仕事だと思うようになったのです。

光と影があるから、美しいシルエットが生まれます。相反する要素から成り立つものを、まずは近づいて見て、それから全体が見られるように引いて見る。私がデザインする服は、すべてそうした理念に基づいて作られています。

先入観は持たず、自由な精神で


ファッション史では、85年に中国で行ったショーが「中国最大」と報道されたことを、画期的な出来事として捉えられているようです。

このときは、人民服ではなく初めて背広を着た総書記として知られ、「服装の解放」を提唱していた胡耀邦(こようほう)さんの妻で元紡織部長の李昭(りしょう)さんが全面的にバックアップしてくださったことで実現しました。

ショーの会場は北京飯店西楼の大きなホール。まだ文革の名残があり人民服を着ている人が多く、電力が不足していた上、当時の中国はファッションショーなどに慣れていない時代で、大変なことがたくさんありました。

モデルも現地の人にお願いしたので、なかなかいい人材が見つかりませんでしたし、ファッションに合うよう髪を切ったら泣かれてしまったりも……。後から思えば、中国の現状をあまり知らなかったからこそ思い切ったことができたのだと思います。調べすぎると、怖気づいたり、躊躇(ちゅうちょ)したりしてしまいますからね。

人生の楽しさとは


96年にキューバでショーをしたときも、「怖いところじゃないんですか?」とか「社会主義国でショーをやる意味ってなんでしょう」などと言われたものです。当時、キューバに関してはアメリカ経由の情報が多かったため、ネガティブなイメージを持っている人もいたのかもしれません。

でも私は思い込みや先入観を取っ払い、わくわくする、という理由でショーの計画を立てました。

野外でのショーなのに、準備期間は連日豪雨でどうなることかと心配もしましたが、当日は雲一つない晴天となりました。キューバの人は親切でノリがいいし、音楽も素晴らしい。バネでできているかのように柔軟な身体のモデルたちがキューバ音楽のリズムに合わせて躍動的に動いてくれて、エネルギッシュで楽しい、素敵なショーになりました。

同じようにベトナムやミャンマーなど、それまでファッション市場とは縁遠かった国でも、ご縁があってショーを行ってきました。

そういう催しに慣れていない国ではトラブルも起きがちですし、行ってみて初めて目の当たりにする困難もたくさんあります。ミャンマーではショーの最中に停電になり慌てました。でも現地の人と一緒に工夫してなんとか実現させると、なんとも言えない満足感があり、大変なことも、後になったら楽しい思い出になります。

私はなんでも、「やってみなくてはわからない」「行ってみなくてはわからない」と思っています。人とも、話してみなければなにもわかりません。まっさらな気持ちで物事に向かうと、思いがけない出会いがありますし、それが人生の楽しさではないでしょうか。

※本稿は、『コシノ三姉妹 向こう岸、見ているだけでは渡れない』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

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