2025年度後期朝ドラ『ばけばけ』で、寛一郎が朝ドラデビュー「役者の家に生まれたメリットとデメリットは半々。怖かった父・佐藤浩市も丸くなって」

2025年3月4日(火)16時0分 婦人公論.jp


撮影◎初沢亜利

2025年度後期の連続テレビ小説『ばけばけ』で、寛一郎がヒロインのお見合い相手として朝ドラデビューを飾る。寛一郎が演じる山根銀二郎は、鳥取県因幡の貧窮足軽の次男として生まれ、極貧生活の中で育ち、厳格な父のしつけのもと、時代が変わってもなお、武士としての生き方を貫く…という役柄だ。初舞台に挑戦した際のインタビューを再配信します
*********
俳優・寛一郎が挑む話題作『カスパー』が、東京と大阪で上演される。
19世紀に実在し、生まれた時から16年間ものあいだ地下の牢獄に監禁されていたドイツ人の孤児カスパー・ハウザーは、発見された時には一つの文章しか話せなかった。言語教育を受け、社会性を養っていくカスパーを題材にノーベル文学賞作家ペーター・ハントケが手掛けた戯曲『カスパー』。膨大なセリフの応酬から「言葉の拷問劇」といわれる本作にまっこうから向き合う寛一郎さん、「これが最初で最後の舞台になるかも」と語る理由とは?
構成◎丸山あかね 撮影◎初沢亜利

* * * * * * *

是非、挑戦してみたいと心が動いた


二十歳で俳優デビューしてから、映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』や『菊とギロチン』などで数々の賞を受賞し、昨年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では源実朝を暗殺する公暁役を演じて大きな注目を浴びた寛一郎さんだが、意外にも舞台は今回が初めてだという。

もちろん舞台を観たことはあったのですが、僕は舞台の見方を知らないのでしょう。どれもあまりピンと来なかったというか、とにかく舞台に立つことに興味がなかったんです。

ところが渡された本を読んでみたら面白くて。この作品は舞台でしかできないんだろうなと思った時に、舞台で演じる価値に気づいて挑戦してみようかな、是非、挑戦してみたいと心が動きました。今回、まっさらな状態で舞台に立てるのは幸せなことなんですけど、とにかく衝撃作すぎて。これを超える刺激的な作品に今後出会えるのかな? と思うほどなんですよ。なので、これが最初で最後の舞台になるかもしれません。

この戯曲になぜ強く惹かれたのかというと、僕自身が「言葉というものに興味があった」からだと思います。僕らは家族の中で、ごく自然に言葉を覚え、やがて言葉を介して友達を作ったり、さまざまな事象や社会というものを理解したりしていく。あたりまえのようにやってきたけれど、あたりまえではないのかと。そうか人間ってこういうルートを辿って作られていくのかという驚きがありました。自分がどうやって社会性を培ってきたのかなんて考えたことがなかったのですが、改めて考えてみると興味深くて。

コミュニケーションにおいては上手くいく場合ばかりではなく、だからこそ僕も含めて人は生きづらさみたいなものを感じる時があるわけですが、カスパーが言語を覚え、社会性を身につけていく過程には、人間社会の中での生きづらさを緩和するためのヒントになるようなことが鏤められている気がします。

ただ、一筋縄にはいかなくて。僕らは言葉を得ることで社会の枠にハメられて、感性を失い、自由を奪われているという側面もある。このことにも僕は気づかずにいたのですが、カスパーが教えてくれた気がします。

少しずつ役者になりたい自分を認めていった


16歳になるまで外部と遮断され、人と接したことのなかったカスパーを演じるためには、想像力が求められるという。

でも、いくら想像してみても彼のことはよくわからないんですよね。カスパーは言葉は話せなくても、ご飯を食べるとか寝るといった本能的なことを通じて、何かしらの概念体系はできていた…なんてことを知ると、ますます混乱して。仮にカスパーの心理を理解することができたとしても、それをどう表現すればいいのか……。

膨大なセリフ問題もあって。普段はセリフ覚えはいいほうなんですけれど、今回は次元の違う長セリフが続くので、どうやって覚えるんだろう、みたいな(笑)。映像と違ってお客さんの生の反響を感じるのも怖いけれど、だからこそやり甲斐があるともいえるし。演出家のウィル・タケットさんがどう導いてくださるのか、自分がこの舞台を通じて何を感じ、どう変化するのかも楽しみです。とはいえ不安もあって。舞台で演じるってどんな感じなのかは実際に上演が始まってみないとわかりませんね。


不安もあると率直に語るが、そこは実力派。数々の賞を受賞するなど、これまで映像で培ってきた演技力や表現力に期待が集まっている。祖父に三國連太郎、父に佐藤浩市を持つ役者一家に生まれ育ったが、意外にも役者になる気はなかったと振り返る。

僕が初めて出演したのは映画『菊とギロチン』でした。上手く演じられると思っていたのですが甘かった。厳しく指導してくださった瀬々敬久監督に心から感謝しています。
デビュー作で新人男優賞をいただけたのは、確かに嬉しかったけれど、あれは「期待値」を込めての賞だったと思ってます。だからといってプレッシャーとかはなくて、応援してくれる周囲の人のためにも真剣にやっていこうと改めて思ったという感じだったんですけれど。今回もこれまでに一人の人間として経験したこと、それから役者として少しずつ増やしてきた引き出しのすべてを活かして演じたいと思っています。

幼い頃から父に連れられて撮影所へ行って、父の背中を見せてもらっていたし、映画がどうやって作られていくのかも知ってました。役者はもっとも近い職業で、当然、意識してはいたんですけど、僕は天邪鬼なんですよ。周囲の人達から役者になることを勧められると「いやいや」とか言って抵抗したりして。今にして思えば、祖父や父と比べられるのが嫌だったのかもしれません。その実、映画鑑賞が趣味で映画三昧の日々を送っていて、他に興味のあることがなかったんです。だから少しずつ役者になりたい自分を認めていったという感じでした。

新しいカスパーが生まれたと言われたい


自分が大きなアドバンテージを得ていることはわかっています。その一方で相変わらず重圧もありますし。役者の家に生まれたことのメリットとデメリットは半々でしょうか。そこは誰の人生もいいこともあれば悪いこともあるよね、みたいな感覚でとらえているんですが。それに誰かにこの複雑な気持ちをわかって欲しいというわけでもないし。なので淡々とやってます。

僕が役者の道を選んだことを父がどう思っているのかはわかりません。父(俳優の佐藤浩市さん)が三國(祖父の三國連太郎さん)に「役者になろうと思う」と告げた時、三國は「ああ、そう」と言っただけだったというのですが、僕が父に「役者になろうと思う」と伝えた時も、父は「ああ、そう」って、それだけでした。口の重い人達なので。(笑)

父は僕が10代の頃は凄く怖くて、近づきがたい存在でした。役者としてのアドバイスをうけたこともありません。でも最近はずいぶんと丸くなっていて、今回、舞台の話が来たと伝えた時は「おまえ、やるの?」って。驚いていたのが面白かった(笑)。三國は一回だけ、父は一回も舞台に出ていないので、意外だったのかもしれませんね。なんとなくなんですが、ちょっとモチベーションがあがりました。


静かな口調ではあるが、舞台という新しい挑戦に立ち向かう覚悟と心意気が伝わってくる。最後に「カスパー」の見どころについて尋ねてみた。

僕自身、ダンサーの首藤康之さんをはじめとする表現のスペシャリストの方々との共演にワクワクしていて。エンターテインメントの醍醐味を味わっていただけたら嬉しいです。難解な印象を受けてしまいがちな舞台なのですが、そんなことはなくて、スッと世界観に入っていける作品だと思います。ですから気構えることなく観ていただければ。史実のカスパーとは違う、新しいカスパーが生まれたと言われたい、なんて野望はあるのですが、本当にこれが最初で最後の舞台になるかもしれません。つまりそのくらいの意気込みで挑みますので、劇場へ足を運んでいただけたら嬉しいです。

婦人公論.jp

「朝ドラ」をもっと詳しく

「朝ドラ」のニュース

「朝ドラ」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ