『あんぱん』朝ドラ初出演・寛役の竹野内豊「もう少し嵩と千尋の成長を見届けたかった」久々に共演の戸田菜穂と松嶋菜々子とは「またどこかで。次はおじいさんになる前に」

2025年5月26日(月)8時15分 婦人公論.jp


(『あんぱん』/(c)NHK)

今田美桜さんがヒロインを務める連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合/毎週月曜〜土曜8時ほか)。子どもたちの人気者・アンパンマンを生み出したやなせたかしと、妻・暢の夫婦をモデルとした物語です。<朝田のぶ>を今田さん、<柳井嵩>を北村匠海さんが演じています。嵩の伯父、寛を演じたのが俳優の竹野内豊さんです。信望の篤い町医者で、弟・清(二宮和也さん)の息子である嵩と千尋を育てます。愛情深く2人を導いてきましたが往診中に倒れ、5月26日放送の第41回で急逝しました。<何のために生まれて何をして生きるがか><人生は喜ばせごっこや>などやなせさんの言葉を想起させるセリフも多く、名言が多かった寛。朝ドラ初出演となった竹野内さんに寛役への思いを聞きました。(取材・文:婦人公論.jp編集部)

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朝ドラは初めて


寛は嵩の育ての親。柳井医院の院長で、すべての人に分け隔てなく愛情を注ぐ人物です。ただそれは恐らく、今までの人生が希望に満ちた明るい面だけではなく、暗闇や"絶望"も経験しているからこそなのではないかと思います。

そんな寛の言葉の一つ一つに深みを持たせ、説得力を含ませるにはどうしたらいいかと考えた時に、いつもその“絶望”の部分を自分の腹の底に置くイメージを持って演じていました。一人の医者としても、寛は今まで多くの人と出会い、さまざまな人生のあり方や終わり方を見届けてきたはずで、自分なりの死生観を持っているでしょう。

その重みを寛の役柄に反映させたいと思いました。

寛は自分にかかわるすべての人に人生のヒントになるような言葉を与えます。寛のせりふや姿勢から学ぶことはたくさんありました。

朝ドラの出演は初めてです。いろいろな人から「朝ドラやらないの?」と言われていたのですが、お声がけいただかないとやりようがない(笑)。『あんぱん』は多くの人に愛されたやなせたかしさんの軌跡をたどるという企画が素晴らしいですし、この物語に秘められているものは現代の人の心に届くストーリーだと感じ、ぜひとも出演したいと思いました。

難しかった土佐弁


寛は、やなせたかしさんの言葉を想起させるセリフがたくさんありました。台本を読んでいても心に響くセリフが多く、どうすればそのひとつひとつに深みをもって表現できるのか考えながら演じていました。標準語ではなく、土佐弁になったことでより親しみやすく多くの方に届いたのではないかと思っています。ただ、土佐弁は難しかったですね。

どうしても関西弁のほうが聞きなれているので、関西弁チックになってしまう。方言の先生に細かくご指導いただきました。

寛は名言がいろいろありますが、いちばん共感できたのが「人生は喜ばせごっこや」というセリフです。「本当にそうだな」と心に落ちてきました。

今年は戦後80年を迎えますが、今も昔も変わらないような気がしています。戦争も、80年前の過去のことではなくて、だんだんきな臭くなっている。誰もが不安を抱えて生きている。そういう時代からこそ、「人生は喜ばせごっこや」という精神が広がってほしい。今年の流行語大賞になってほしいくらいです。そうしたら、日本は素晴らしい国になると思います。

育ての親役は初めて


寛と妻の千代子には、子どもがいないので、弟の清の次男・千尋を養子として育てていました。清が急逝したので、清の長男・嵩の育ての親にもなります。


(『あんぱん』/(c)NHK)

父親役の経験はありましたが、養子を持つというシチュエーションは初めて。寛も千代子も「自分たちの子どもがほしい」という気持ちがあったでしょう。でも、嵩と千尋との出会いは、それを上回るものがあったし、2人にとっては大きな財産となったと思います。

セリフは、台本に書かれた活字として読んでいるだけでは、どういうふうに一言一言に重みをもたせたらいいのかわからないんです。嵩が幼少期のころは相手が子役の木村優来君なので、「実際にこの子たちに本当に伝わるのかな」と正直不安でした。でも、木村君をはじめ、子役の子たちが素晴らしかった。一緒のシーンで対峙した時に子どもたちから教わることがすごく多くありました。自分が呼吸を合わせてちゃんと向き合って誠実に伝えればいいんだと感じました。

顔合わせの時に、木村君が台本を読んでいる姿を見て、ちょっとドキッとしました。「この子はすごいな」と計り知れないものを感じてすごく撮影が楽しみでした。

「このセリフは子どもには難しいかな」というセリフでも、木村君は何かを感じていることが彼の瞳の奥に現れている。木村君のセリフがなくても、です。寛というキャラクターをどう演じようか、クランクイン前に頭の中で考えていたのがばかばかしく思えるほどでした。

北村匠海君はすごく繊細で、光と影を持っています。今、影がある役者さんはなかなかいない。その繊細さが、唯一無二の魅力に繋がっていると思うんです。嵩を演じる上で大切な要素だと思います。初めて木村君を見たときに、北村君が持っている雰囲気に似ていて、そのまま切り替えられるだろうと思いました。

千尋役の中沢元紀君は、今時あの年齢ではちょっと珍しいくらい瞳の奥が子どものようで純粋な目をしています。北村君も中沢君も、寛が投げた言葉を受け止めたうえで跳ね返してくれるものがありました。2人とも我が子のように思え、自分も彼らのような年齢の息子がいてもおかしくないので、親子の疑似体験ができ、とても楽しかったです。

戸田と松嶋と「またどこかで」


——寛の妻・千代子を演じたのが戸田菜穂さんだ。嵩と千尋という2人の甥を実の子どものように愛情を注ぎ育てた。柳井医院の跡継ぎがほしいと願いながらも2人のやりたいことを応援。一方で、松嶋菜々子さん演じる登美子は嵩と千尋の実母。夫・清を失うと嵩を柳井医院に置いて再婚。8年も音信不通になったかと思えば、離婚してまた柳井医院に戻ってきたものの、嵩が受験に失敗するとまた出て行ってしまった。自分勝手にも見えるが、嵩の美術学校の合格発表に姿を見せるなど子どもへの愛情も垣間見える。

寛の妻、千代子役の戸田菜穂さんとは約30年振りの共演でしたので、本読み顔合わせの時に「やっと会えた」という気持ちが強かったです。落ち着いた素晴らしい女優さんになられた。どのシーンも安定感があって、安心できる奥さんでした。

養子にした子供たちが青年になってゆく過程で、育ての母として、二人とも平等に愛情を注ぎ育てているからこそ、思い悩む嵩へ厳しく向き合う姿もあれば、不意に胸にしまい込んだ弱さが溢れてしまう様など、緩急自在な表現力は戸田さんにしかできないなぁと改めて思いました。

寛は、嵩と千尋の母親・登美子にはいろいろな思いがあったとは思います。医師として日々往診に行くなかで、それぞれの家庭の始まりから終わりまで見ていますから。登美子は子どもを置いて再婚しましたし、台本を読むと「それはないだろう」と思うことはありました。でも、寛は、様々な人間模様を見てきた人物ですから、登美子の行動を理解していた部分もあったのではないでしょうか。

登美子は、台詞をそのまま話してしまうと単に破天荒な印象を受けてしまいそうな難しい役柄です。松嶋さんが演じる姿は、上品でありながらも、女性の身分がまだ低いこの時代を生き抜いていく覚悟や、したたかな一面も時折垣間見えました。観ている側が彼女の細かな演技のどの部分にフォーカスするかによって、印象が大きく違ってくるのではないかと思うほど、常に深みを感じるお芝居でした。後半のストーリーでも登美子のまだ見ぬ一面があるのではないかと楽しみです。

松嶋さんとも久しぶりの共演でした。実際にお子さんがいらっしゃるので、子どもと接する姿もすごくリアリティがあった。素晴らしい女優さんの一言に尽きます。

実は撮影で、高知弁の「にゃあ」というイントネーションがうまく言えず、方言指導を受けたことがありました。「にゃあ」「にゃ」「いや、違います、にゃあ、です」とか、こちらは真剣にやっていましたが、松嶋さんのツボにはまったようで笑っていました。松嶋さん、本番でもちょっと我慢できなくて思い出していたのかな。それはちょっと申し訳なかったですね。

松嶋さんと戸田さんとはクランクアップした時に、「またどこかでご一緒できたらいいですね」とお話しました。10年後とかだとおじいさんとおばあさんになってしまうので、あまり間隔が開かずにご一緒できたらいいなと思っています。

寛のセリフに共感


寛は往診途中に倒れてしまいます。嵩は東京の美術学校で卒業制作に取り組んでいる最中でした。嵩は危篤の報せを聞いても高知に戻らず、寛のためにも卒業制作を完成させる道を選びます。


(『あんぱん』/(c)NHK)

寛が亡くなった後の回想シーンで、危篤状態の寛が「嵩は帰ってこなくていい」と話していたことが明かされます。この時は、本当に息を引き取る直前という設定だったのであまり声を出さないように演じていました。

「中途半端なことをしたら殴ってやる」という寛のセリフは理解できます。もし自分に息子がいたとしたら、それくらいの気持ちで生きてほしいと思うから。

人生って自分の思い通りにならないことの方が多くて、年を重ねて、ふと自分が今まで辿ってきた道を振り返ったときに、意味のなかったことの方が、実は人生において大切なことが詰まっているんじゃないかと思うんです。自分に息子がいたら寛と同じことを言いますね。中途半端に逃げてしまうことはいちばんよくない。うまく結果が出なくても、ずっと続けること。そこに価値がある。結果ではなくプロセス、そこに向かっていくまでの気持ちが大切です。そういう思いを腹の底に置いて、このシーンではセリフを言っていました。

「みんな頑張れ」


卒業制作を完成させて、嵩が高知に戻ってきたのは、寛が息を引き取った後でした。このシーンでは、寛は死んでいるので、なるべく布団が持ち上がらないように息を止めてじっとしていました。カットがかかった時には、「はあ」と大きく息を吐きだしたほどです。ここ最近は、私はほとんどの作品で死んでいるんですよ。数年の間に何回死んでいるかわからないくらいです。

テストの段階から顔に白い布がかけられていたので、みんなの声や息遣いしかわかりません。嵩役の北村君にとってはあのシーンはすごく難しかったと思います。「みんな頑張れ」という気持ちでした。千代子が私の手を取ってくれたので、その手から千代子の感情が伝わってきました。おしんちゃん役の瞳水ひまりさんの演技が素晴らしかったと、撮影後に出演者の間で話題になっていました。放送を見るのが楽しみです。

寛は亡くなってしまいますが、みなさんの思い出の中に残していただけるだけで光栄です。引き続き、嵩とのぶちゃんの成長を見守ってあげてください。僕もみなさんと一緒に、テレビの前から最後まで「あんぱん」を応援しています。

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