小倉智昭「吃音があったから養われた」今明かす『とくダネ!』オープニングの裏側とは。古市憲寿が聞く〈テレビの本音〉
2024年3月8日(金)12時30分 婦人公論.jp
小倉智昭さん「実は事前の原稿なんかは用意していません。しないほうがいいとすら思っています」(提供:新潮社)
22年間にわたり朝の情報番組『とくダネ!』でMCを続け、朝の顔として活躍した小倉智昭さん。2016年に膀胱がんを宣告された後、肺への転移も見つかる中で、活動休止と再開を繰り返しながら闘病生活を続けてきました。2024年2月、『とくダネ!』のコメンテイターで友人でもある古市憲寿さんを聞き手に、小倉さんが人生を振り返った『本音』(新潮社)が刊行に。今回は、小倉さんがキャスターとして大切にしていることをご紹介します。
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前回はこちら
『とくダネ!』の放送当初を振り返って
(太字:古市さん)
——「とくダネ!」で自由にコメントをしていたからですかね。司会者があんなにしゃべる番組って新しかったんじゃないですか。
たしかにあまりなかったんです。でも、それが引き受ける条件だった。
最初に依頼を受けた時には、フジテレビで午前10時台に「どうーなってるの?!」という番組をやっていたんですよ。それで高視聴率が取れたんで、フジテレビから「朝が今、数字が悪いんで、8時を受けてくれませんか」と言われたんです。
でもお断りしたんですよね。そうしたらその次の年に、またフジの太田さん(当時・情報企画局長)とプロデューサーの西渕(憲司)さんが事務所にわざわざいらして、「どうしてもやってくれないか」と言うんで、「そこまで言ってくださるんだったら」ということでお受けしたんです。
ただ、それまでのワイドショーってほとんど事件のVTRで始まって、ひどい場合は20〜30分しないと司会者が出てこない。8時スタートの番組だと8時半になって、ようやく司会者が、「おはようございます」とあいさつをする。
それが僕は何だか嫌だったので、
「オープニングで自由に話をさせてください、それが条件です」
と言った。逆に言えば、そこしか僕からは注文を出さなかった。1分でも2分でもいいから時間をくださいといってスタートして、しまいにそれが10分とかになることもあって、やりすぎだって言われたりもしましたね。
話す内容は、事前に誰にも伝えなかった
──名物コーナーだったのは間違いないですね。メモなしでずっと話してました。
そうそう、中身も全部自分で決めていました。あれが面白かったのは、共演の笠井アナウンサーや佐々木恭子アナウンサーにも、何をやるか事前に振ってなかったんですよ。
それどころかディレクターにも言ってなかった。
ただ、扱う新聞記事がある場合は、この記事だけ用意しておいてくれと言って渡しておくんですね。
毎朝、自分の中では展開を考えておいて、一応短い時間でも起承転結みたいなものを作っておくわけですよ。でも、笠井君とか佐々木君は、それを突然ぶち壊してくるんですよ。
ヘンな質問をしてきて流れを崩したりする。それはそうでしょう、こっちの想定なんか知らないんだから。でもそれで腹が立つわけでもなくて「ああ、そこに入ってくるんだ」と思って、それはそれで面白かったですけどね。
ただ、スタッフは冷や冷やしていたでしょうね。本番まで何を言うかわからないんだから。
そんなわけで8時のオープニングトークが終わった段階で、時間が押してしまって、もう後ろのほうの枠が飛んじゃっていることも珍しくなかった。
だから、初期は担当ディレクターからのブーイングがすごかったですよ。「何のために俺たち取材に手間暇かけているんだ」ということです。
起承転結を意識していた
──オープニングでは常に5分とか10分よどみなくしゃべっていたじゃないですか。あれはどのくらいの事前準備があったんですか。
実は事前の原稿なんかは用意していません。しないほうがいいとすら思っています。
子供の頃、吃音を治す過程で、作文を書くときに必要な起承転結が、しゃべりにも必要だっていうのに気がついたんです。しゃべることは作文だというふうに思ってたから、文章構成をしてしゃべるみたいなところがあります。
僕のスポーツ中継って行き当たりばったりしゃべってはいますけど、一方で、全部作文みたいな感じでしゃべっているんですよ。でも、予定稿ではあんまりしゃべりたくないので、その場で見たものを一応、頭の中で文章化したうえで口に出すみたいな感じで。
──それを事前に文字に起こすわけではないんですね。
頭の中で起承転結をイメージしておくだけ。新人のアナウンサーと一緒に仕事をすると、彼らは原稿を用意したうえで、さらに赤字を加えたりとか、しゃべることを書きだしたりとかって準備してるじゃない? 「そういうのは、やめたほうがいいよ」っていつも言ってたけどね。「なるべく書かないほうがいいよ」って。
話すことを瞬間的に文章化している
──それってトレーニングでできるようになったんですか。個人のセンスに負うところが大きいのかなって感じもします。
やっぱり吃音があったから、話す言葉を頭の中で事前に決めておくほうが話しやすかったっていうのはある。そのおかげで脳内で素早く整理して文章化する癖ができたというか。
吃音だと、とっさに言葉は出てこないんですよ。何か言い返そうとしても、必ずつかえてしまったりとか、口ごもってしまったりする。
自分は何て言い返すべきなのかといったことは常に頭の中で考えていた。そうすれば言い返しやすいじゃないですか。その積み重ねみたいなところがあって。だからスポーツ実況、競馬の中継でも僕は瞬間的に作文しながらしゃべってたんです。
──子供の頃から吃音の影響で、言葉をいったん塞(せ)き止めてから脳内で文章化していたことが後になって役立ったということでしょうか。
そうかもわからない。まあ加えて本を読むのが好きだったから、それで養われたのか。意識して身につけたスキルではないので、自分自身ではわからないんですね。
しっかり原稿を用意しない理由
──面白いですね。普通はきちんと準備して原稿も用意するのが正しいと言われそうなのに、むしろ小倉さんはそうではない、と。
書いちゃうと、それに引きずられるんです。
加えてキャスターの場合は、目線の問題があります。テレビを見ている人は、ものすごくキャスターの目線が気になるものなんだよね。原稿やカンペに目をやると、そこに視聴者も気をとられてしまう。
まあ僕だって目が落ち着いてきたのって、「とくダネ!」やって何年かしてからですよ。それまでは落ち着きのない人で、一点をじっと見てられないんだよね。カメラのレンズの見方というのは難しいもんで、レンズを凝視するとものすごく顔がきつくなるんですよ。
だから基本はレンズの下を漠然とぼわっと見るぐらいの感じじゃないと駄目。
いま生きているカメラにはタリー(ライト)が付くでしょ。そのカメラを見ながら喋る必要があるので、当然、タリーを意識しながら僕ら見ていくわけじゃないですか。だからといって急にタリーのほうを向くと、もう目線が飛んでしまうのが分かるんだよね。これも視聴者は落ち着かない。
だから舐め回すような感じで目線を動かして、カメラを見るようにしないと駄目。
カンペが出てるときも、そっちばっかり見てると絶対、目の動きで分かってしまう。
実はそういうことに慣れてきたのは50歳過ぎてからだったよね。
※本稿は、『本音』(新潮社)の一部を再編集したものです