お金を返さない夫の家族、ストレスで体調を崩した私を救った精神科医の一言。亡くなった義母の入院費20万円を最後に渡して

2025年3月26日(水)12時30分 婦人公論.jp


(イラスト:堀川直子)

厚生労働省「精神保健医療福祉の現状等について」によると、令和5年の精神疾患を有する総患者数は約603万人とのこと。年齢関係などはなく誰にとっても身近なものになってきています。厳しい境遇に置かれながらも、一つの出来事をきっかけに人生が変わる可能性もあります。井上麻子さん(仮名・栃木県・アルバイト・49歳)は、待ち望んでいた誕生日の2か月前、ある事件が起きて——。

* * * * * * *

母よりも長く生きると決めたけれど


私は19歳で結婚し、20歳で長女を出産。幸せだったのも束の間、産後1ヵ月が経った頃、実母が自ら命を絶った。享年46。この時、私は「母の年齢より生きて、娘を守る」と誓い、母と同じ精神疾患になり、精神科に通院しながらも無我夢中で生きてきたのだ。

待ちに待った46歳の誕生日。数ヵ月前から、この年齢を迎える大切な記念日に何をしようかと考えていた。それなのに、誕生日の2ヵ月前に事件が起きたのだ。

仕事から帰ってきた途端、「相談がある」と言う夫。そういう時は決まってお金の話だ。
夫の姉の娘、つまり姪が泣きながら電話をかけてきて、「30万円入っていた財布をスラれた。前も財布を紛失したから、今度こそ夫に家から追い出される。だから、バレないようにお金を貸してほしい。少しずつだけど必ず返すから」と言ったそうだ。

その後、義姉からも電話がかかってきて、「母が亡くなった時に残っていた20万円をあなたに預けていたでしょ。そのお金を渡してあげて」と言われたのだとか。

20万円というのは、義母が亡くなる前に入院していた時の生活費の残りのことで、金遣いの荒い義父と義姉が使わないようにと、夫が預かっていたものだ。

義姉はシングルマザーで3人の子どもがいるが、仕事が長続きせず、義父とともに「お金を貸して」とよくわが家を頼ってきていた。これまでも貸したお金が返ってきたことなどないのに、夫は青い顔をして信じ切っている。

夫に「姪は警察へ行ったの?」と聞くと、「被害届を出したらしい」と言う。

「それなら、姪の夫に警察から連絡がいくよね?」と尋ねると、夫は「足が痛い……」と話を変えた。まさか共犯か?

翌朝、私は警察署に電話をした。姪が本当にスリの被害に遭ったのかを聞こうと思ったからだ。しかし、「こちらは相談窓口なので」と教えてもらえない。つい私は、泣きながら身の上相談を始めてしまった。

すると相談窓口の年配らしき男性は、「あくまでも個人の意見として」と前置きしつつ、「万が一、お金を貸すのなら、お義母さんのお金ではなく、『姪が何月何日にスリの被害に遭い、30万円を紛失。そのお金を貸すものとする』という借用書を作り、姪や義姉に『この借用書は司法書士に頼んで公的な書類にする』と伝えればいい。

もし財布をスラれたのが嘘なら、お金はいりませんと言ってくるだろう」とアドバイスしてくれたのだ。

これからは自分を幸せにする


少し気持ちは落ち着いたものの、食事が喉を通らない。ふらふらになりながら、20年以上通っている精神科を受診することにした。担当医は優しく、いつも「ぼちぼちいきましょう」と声掛けをしてくれる先生だったので、今回も「大変でしたね」と言ってくれるものと思っていた。

けれど先生は、「はっきり言ってあなたがバカです。ええかっこしいはやめなさい」とおっしゃったのだ。私がポカンとしていると、「体調が悪いというより、自分が悪い。なんでも引き受けて、それで具合が悪いと言って薬を飲んで」と先生は続けた。

「でも、お金を渡さないと夫の家族に嫌われてしまいます……」と、おどおどしながら言う私に、「そんな人たちに嫌われて何だっていうんですか?」と重ねて問う。その言葉を聞いて、「確かに、なぜそこまでして好かれようとしていたのだろう」と、我に返った。

私は昔から真面目すぎるところがあり、自分で作ったルールに縛られてしまうだ。今回だって、結婚したからには夫の家族は何としても助けないといけない、と思い込んだのだ。それで体調を崩したのだから、こんな馬鹿らしいことがあるだろうか。

その週末、私は夫に「これ以上、あなたの家族にお金を出し続けるなら別居します。預かっていたお義母さんの20万円を渡しますから、実家に行って話し合いをしてきてください」と言い放ち、手元にあった私たち家族の通帳と現金すべてを夫に押し付けた。

かなりの節約家である私が財産すべてを渡したことに驚きながら、夫は渋々家を出た。

夫は実家に着くなり義母の20万円を出して、「このお金を使うなら縁を切る」と伝えると、義姉は「わかった」とお金を財布にしまったという。私たち夫婦は夫の家族のせいで、したくもないケンカを何十年も繰り返してきたというのに……。

翌日、帰ってきた夫の「父や姉たちとはもう関わらないから」という言葉に、ほっと胸をなでおろすも、念には念をと、後日、友人に教えてもらった有名な縁切り神社のお守りを買いに走ったついでに、夫に反対されていたアルバイトを始めることにした。

私は精神科医の一言で生まれ変わったのだ。今まで夫の家族のためにお金を使えずにいたけれど、これからは我慢は不要! 天然パーマの髪に縮毛矯正だってかけてやる! 私は自分を幸せにする楽しみを知ったのだ。

46歳の誕生日は、ひとりホテルに泊まり、好物を用意して、これからの夢をノートに書いた。書いても書いても想いは溢れ、私の生まれ直しにふさわしい日になった。

気持ちが追い詰められたら


井上さん(仮名)は、通院していた精神科の先生の言葉によって、長年苦しんだ夫の家族と縁を切り、人生を変えることができました。

関係性が近い人とのトラブルほど、他の人に相談できずに一人で抱え込んでしまう人が多いかもしれません。

悩みがある方・困っている方に向けて、気軽に相談できる場所があります。自分を追い詰めてしまう前に、第三者からのサポートを受ける選択肢も視野に入れてはいかがでしょうか。

●まもろうよこころ
https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/

●よりそいホットライン(一般社団法人 社会的包摂サポートセンター)

Tel:0120-279-338(つなぐ ささえる)(フリーダイヤル・無料)
岩手県・宮城県・福島県から
Tel:0120-279-226(つなぐ つつむ)(フリーダイヤル・無料)
HP:https://www.since2011.net/yorisoi/

●こころの健康相談統一ダイヤル

電話をかけた所在地の都道府県・政令指定都市が実施している「こころの健康電話相談」等の公的な相談機関に接続します。

Tel:0570-064-556(おこなおう まもろうよ こころ)(ナビダイヤル)
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