本音でぶつかることが大きなリスクに…『なんで私が神説教』脚本・オークラ氏が切り取る“今”と“日常”
2025年4月11日(金)6時0分 マイナビニュース
●一個言葉を間違えると総叩きに遭ってしまう世の中
日本テレビ系ドラマ『なんで私が神説教』(12日スタート、毎週土曜21:00〜)の脚本を務めるオークラ氏。『ゴッドタン』(テレビ東京)、『バナナサンド』(TBS)などを担当する放送作家として知られるが、『ドラゴン桜』(第2シーズン、TBS)や『となりのナースエイド』(日本テレビ)などドラマの脚本家としても活躍している。そんな彼が、今作の秘話や見どころ、また脚本論などについて語ってくれた。
○過激な作品が増える中で描く「日常」
『なんで私が神説教』は、「生徒とは程よい距離感で。怒るな、褒めるな、相談乗るな」がモットーの私立名新学園の教師となってしまった麗美静(広瀬アリス)が、問題児ぞろいの生徒たちの事情にいつしか巻き込まれ、したくもないのに“説教”をしなければならない状況に追い込まれる姿を面白おかしく描き、静の説教にスカッとできる学園ドラマ。
「今って本当に“正解”しか言えない…一個言葉を間違えると総叩きに遭ってしまう世の中じゃないですか。その結果、“怒れない人”が生まれ、その話を方々から聞いていたところ、プロデューサーの藤森真実さんから、女性教師を題材にした作品ができないかと相談を受けました。僕らの周りで怒れない人が増えたということは、学校の先生も言いづらいことが多いだろうなと想像して提案した企画が本作になります」(オークラ氏、以下同)
たしかに、上司が部下を怒るとパワハラ認定されてしまったり、考えを押し付けることで誰かを傷つけたりする話をよく聞くようになった。言いたいことがあっても何も言わず、関わらない方がいいと思っている人も多いだろう。そんな、他人と本音でぶつかることが大きなリスクになりかねない今を切り取ったのだという。
それに加え、「昨今、深夜ドラマなどでやたら不倫や過激な展開の作品が異常に増えていたので、実際は日常でそんなに事件ばかり起きないだろうと。そうした意味でもう少し日常に寄り添った作品が作れないかと思った部分もあります」と狙いを明かした。
○人間味あふれる広瀬アリスにキャラを寄せる
主人公の静を演じるのは広瀬アリス。
「広瀬さんは発言もピュアなイメージがあります。SNSも自分の意見を持ってるし、思ったことをちゃんと伝えられていて、結構本音を語ってしまいそうな感じがあるように思うのです(笑)。でも裏側ではいろいろと思うところや、ウジウジしてしまっている面もあるんじゃないかとも思わせる。とても人間味あふれる方という印象を僕は持っていました。そこでこの役柄は広瀬さんがいいのではないかと感じたのです。決まってからは少し広瀬さんのキャラに寄せて直していきました」
同僚の浦見光に扮するのは、渡辺翔太だ。
「渡辺さんは本来、Snow Manでイケメンを仕立てるタイプの方じゃないですか。浦見は唯一オールドタイプの教師タイプ。渡辺さんの“ノリ”で自分のイケメンや美容系をグイグイ推してくる感じのあのキャラと(笑)、生徒たちに深く入ろうとする感じが意外とマッチするかなと思いながらキャラクターを作っていきました」
●バナナマン設楽が言った「矛盾をなくせば笑いが生まれる」
脚本を書くにあたり、現役高校生や教師などへの取材も行ったという。
「先生方がおっしゃっていたことで印象に残っているのは、例えば高校生が恋愛で悩む時、それこそ死活問題くらいに悩んでいる生徒が多いというのです。ですが僕ぐらいの年齢になりますと、そもそも高校生の恋愛ってほぼほぼ理想通りになってる人はいないよなぁとか、そういうもんだよと思ったりします。でも彼ら彼女らの中では真剣なんですね。そういった目線と、あとは年齢的に世代間ギャップがあるように思いがちですが、話してみると意外と根本的な部分では僕らの時代と変わらないんだなと。普遍的に、生きている人間として変わらないというのはすごく感じました」
では、見どころである“神説教”の部分に関しては、どのように描くのか。
「まず僕が言いたいこととして描き、そこにプロデューサーや監督から“こういう意見もある”といった声を聞きながら調整していきました。僕はバナナマンさんとよくお仕事をする機会があるのですが、設楽(統)さんから台本の矛盾をよく突かれることがありました。その時、設楽さんがおっしゃったのが“矛盾をなくせば笑いが生まれる”ということ。要は都合の良いシーンにしようとすると矛盾点が生まれてしまうのですが、この人はこうだからこういう行動になったんだという理由をつけていくと、だんだん面白い笑いが生まれてくる。説教シーンに限らず、“この行動に至るためにいろいろな精神状況があり、それがこういうふうにさせてしまったんだ”ということが笑いとなり、そしてコメディが生まれるんだと感じていたことがありました」
そんなオークラ氏が、脚本を書く時にこだわっているものとは。
「お笑いやコントを軸にやって来た人間なので、ドラマでも基本、笑えるものを作りたいなと思っています。どんなに真剣で重いシーンでも、それだけじゃないクスッとできる部分は入れていきたい。ずっとシリアスが続かないようにしていますね。それにエンタメの中で、あまり笑いがないまま進むよりも、笑いがあって進むもののほうが性に合ってますし、人間って生きている中でどんなに真剣な場面でもクスッとしてしまう時ってあるじゃないですか。そういうものを描くことが元々やりたく、自分のテーマにしているので」
○“神説教”シーンは「切り抜かれても誤解なく伝わるように」
昨今、テレビを取り巻く環境は大きく変わり、リアルタイムで見てもらうことはもちろん、見逃し視聴や配信サービスで“選ばれる”ことも大切になってきた。さらにはSNSなどでいかにバズるかということもヒットの鍵に。こんな時代だからこそ、脚本の作り方なども変わってきているのだろうか。
「今の時代って、すごく一部分を切り抜かれ、それでセリフの強さがSNSで出回ったりするじゃないですか。そうすると、“たぶんここが切り取られるんじゃないか”と考えるので、このシーンのこの部分は切り抜かれても伝わるようにしたい。そこを見て、どうしてこのセリフに至ったのか気になってほしいなと考えています。これは笑いに関しても同じなんですね。これがあるからこの笑いがある。だからこそこのシーンだけ切り取っても面白いとバズっていく。このドラマでは“神説教”と言われている部分だけは、切り抜かれても誤解なく伝わるよう気にしながら書いています」
SNSでは特にバラエティ番組の切り抜き動画が多く見られるが、バラエティ畑を歩んできたオークラ氏ならではの意見のようにも思える。ちなみに、前述のバナナマン設楽の“矛盾をなくす”についても、キャラの行動原理は考えられていて、主人公の静はただただ思ったことを瞬発的に出せるほどの強さはない。
「学園ドラマでも教師が説教するシーンがあるけど、その教師たちってその場で考えているのかなとすごく思っていたんですよね。いつの時点で考えていたんだろうって」というオークラ氏。ゆえに、“考える”をテーマに据え、静も1日中何を生徒に言いたいのか考え、スマホにメモをし、そして“神説教”は、そのスマホのメモを見ながら行われる。オークラ氏ならではのユニークな設定といえるだろう。
「昨今のテレビドラマは事件が大仰になっている傾向がある。でも高校時代にはもう少しリアルな事件があり、今、そのリアルで日常的な事件に目が向いてないような気がするんですよ。高校生だけじゃなく、日常的に皆に当てはまるような普遍的な問題に対して、“こんな静の目線がある”ということが言えたらいいなと思っています。それが正解じゃなくたっていい。一つの考え方として“なんで私が”と思いながらも思い切り言ってる静の姿を、ぜひ見ていただけますと幸いです」