料理研究家・コウケンテツが沖縄で見つけた「アグー豚」の魅力。お祝いのご馳走「チイリチャー」とは?

2024年4月16日(火)12時30分 婦人公論.jp


沖縄の豚といえばアグー豚。足が短く小型なのが特徴(『コウケンテツの日本100年ゴハン紀行2』より。以下すべて)

シンプルで美味しい家庭料理が人気の料理研究家・コウケンテツさん。ユーチューブ公式チャンネルは登録者数200万人を突破し、3児の父として食育を広げる活動にも力を入れています。そんなコウさんが、NHK番組『コウケンテツの日本100年ゴハン紀行』で沖縄県の名護市を訪れ、土地の魅力や美味しい食材を探索した様子を紹介します。

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親子で育てる「アグー豚」


沖縄の豚といえば「アグー豚」について語らなければなりません。アグー豚は黒毛で足が短く、お腹が出ていて胴が短いのが特徴です。柔らかな肉と甘みのある脂身が美味しいと評判ですが、一般的な豚に比べて発育が遅く、生まれる数もおよそ半分。

そのため食肉の量産が難しく、手掛ける人は決して多くありません。そのアグー豚を育ててきたのが沖縄県北部のやんばるに住む我那覇明さん。現在は息子の崇さんがあとを継いでいます。我那覇さんとコウさんは15年ぶりの再会となりました。

さっそく豚舎に案内してもらったコウさん。アグー豚の背中を撫でてみました。

「筋肉もあるけれど脂肪がついていて、いい弾力ですね」と、なんだか嬉しそうです。


『コウケンテツの日本100年ゴハン紀行2——-沖縄 宮古島・本島 大分 別府温泉 島根 松江・出雲』(著:NHK「コウケンテツの日本100年ゴハン紀行」制作班/中央公論新社)


やんばるとは「山原」。沖縄本島北部の豊かな森が広がる地域のこと

アグー豚への愛情と誇り


アグー豚は600年の伝統を持つといわれていますが、成長が早い別の品種との交配が進んだことや、太平洋戦争の影響で一時は絶滅の危機に陥りました。その後、アグー本来の姿に戻す研究が重ねられ、いまでは純血に近い300頭ほどが登録され、新たな命が生まれています。

「いい肉を作るには、いい餌を与えないといけない。できるだけ県内で取れるものを使っています。肉の味も変わるしね」という明さんが与える餌は、与那国島の石灰サンゴとサトウキビの糖蜜。それに地元のビール酵母を混ぜて与えているそうです。アグー豚をずっと育ててきた誇りが感じられます。

息子の崇さんも「アグー豚は沖縄の財産なので、100年先も200年先も続けていけるように守り育てていきたい」と胸を張りました。


我那覇明さんと息子の崇さん

チイリチャーとは


明さんの妻・ミツエさんが、アグー豚を使った「チイリチャー」を作ってくださいました。

ミツエさんはこの機会に、孫の聖佳さんに我那覇家のチイリチャーのレシピを伝えたいとも考えていました。大阪の調理専門学校に通っている聖佳さんですが、チイリチャーを作るのは初めて。聖佳さんの母親のこずえさんも見守っています。

祖父の明さんも見ているなかで、まず聖佳さんが手にしたのは、この朝採れた袋一杯のアグー豚の血と血の塊。血で炒めるからチイリチャーなのです。

チイリチャーはお祝いのご馳走です。家族が集まるお正月に食べることが多いそうですが、特別に夏野菜で調理してくださいました。


祖母から母、そして孫へと受け継がれるチイリチャー

命を尊ぶ料理


「風味付けは絶対、泡盛よ」

「あぁ、血の塊は細かくしすぎないで」

「味噌はどれくらい入れる?」

調理をめぐり、祖母、母、孫の丁丁発止を見守っていたコウさん。いよいよいただきます。

「いろんな顔の部分と野菜、そしてなんといっても血ですね。最高に調和が取れてます。口のなかが楽しい。コリッとした軟骨の部分と身の部分、プリッとした骨の部分があって、血も美味しい。臭みも全くなくて、感動!」

「大切な豚の命をいただくので、顔も内臓も血も全部食べる。これが豚に対する感謝の気持ち。無駄なく食べるのが一番じゃないかなと思うんですよ」と明さん。

「学校ではこんな郷土料理まで勉強できないので、ばあちゃんに聞いて地元の味を勉強できるいい機会だと思っています」と孫の聖佳さん。

目の前で祖母から孫にチイリチャーのレシピが引き継がれていく現場をみて、コウさんは感慨を深くしました。

※本稿は、『コウケンテツの日本100年ゴハン紀行2』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

婦人公論.jp

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