バイプレイヤーの泉 第154回 唐田えりか、負った傷がもたらした演技の凄みとは

2025年4月19日(土)19時0分 マイナビニュース


コラムニストの小林久乃が、ドラマや映画などで活躍する俳優たちや、世間で話題の著名人たちについて考えていく、連載企画『バイプレイヤーの泉』。
第154回は俳優の唐田えりかさんについて。最近、ご時世なのか「女優」とは呼ばずに「俳優」と呼ぶ風潮がある。国外であれば「actor」「player」と統一されているパターンも。個人的にはどちらでもいいし「女優」のほうが、艶っぽさが漂っていて好感が持てる。でも今回気になった唐田さんに関しては「俳優」だと思う。字面、発音ともに端端から、骨太さが伝わってくるような言葉が27歳の彼女にはよく似合う。
○不可解な人物を見事に表現
唐田さんの演技が引っかかったのは、現在放送中のドラマ『地震のあとで』(NHK総合)の第1話だ。こちらの作品、作家・村上春樹の『神の子どもたちはみな踊る』をもとに、タイトルのごとく震災後の人間関係をオムニバス形式で描いている。
第1話『#1 UFOが釧路に降りる』は、阪神・淡路大震災によって夫婦関係が崩れてしまい、自信喪失をしていた小村(岡田将生)が、同僚に頼まれるがまま北海道へ向かう。そこで出会ったのがシマオ(唐田えりか)だ。当初はケイコ8(北香那)とふたりで小村をアテンドするも、途中からケイコは姿を消す。そしてシマオは小村を誘う……といった内容だった。原作が村上春樹とあって、たった1話では完結できないほどの難しさが詰まっていた。
観る側が難しいのなら、俳優側も同じだったはず。
「でもどこまで行っても、自分自身からは逃げられないんじゃないかな。影と同じ」
「思うんだけどさ、今の小村さんに必要なのって素直に人生を楽しむことじゃないかな。明日、地震が起こるかもしれない。酔っ払って道端で凍死するかもしれない。宇宙人に連れ去られることだってあるかもしれない。何が起こるかなんて、分からないんだからさ」
物語にはデリケートなシマオの台詞が並ぶ。特にラブホテルの一室のシーンは薄暗いのに、彼女の演技はよく見えた。人間のいやらしさの感情を発動させていた。この人いつからこんないい演技をするようになったのか。
○深い愛の闇が演技にもたらした
ここ数年の彼女の活躍はめざましい。休業期間を経て映画、ドラマと途切れない。数本の映画へ主演、出演を重ねた後の『極悪女王』(Netflix)の長与千種役は、観る側の記憶にも焼きついているのではないか。体重、筋肉を増量して臨んだ役は登場わずかで凄みが滲み出ていた。この4月には主演映画『Page30』が公開されている。
この原稿を書くために色々と彼女について検索をしていくと、2018年公開の映画『寝ても覚めても』で、カンヌ映画祭のレッドカーペットを歩く、唐田えりかの姿が見られた。華々しいシーンだ。本人も興にのっているのが伝わってくる。でもただ可愛いらしいだけで、当時の彼女からは何も感じない。小村をベッドに誘うシマオや、肉体美あふれる長与千種のほうがよっぽど素敵。これらにあるのはただの年輪だけではなく、その間に本人が負った心の傷がもたらす存在感。
検索すれば話題が上がってくるので、敢えて書くけれど、彼女は2018年に恋愛による粗相で世間を騒がせた。むしろ、この一件で名前を知った人も多いだろう。
○傷だらけの女は美しい
結果的な意見だけど、あの一件が彼女を強くしたと思う。休業を余儀なくされて、立ち止まったのは良かった。何の傷もない人生を送っている俳優に人の機微は表現できないはずだし、逆に空々しくノースキャンダルな俳優人生を送っている者にはない武器を持った。今後、唐田さんが出演する作品は欠かさずチェックしそうだし、映画『ナミビアの砂漠』も未見なので、観る楽しみが増えた。
この文章を唐田さんが読むとは思えないけれど、今の彼女に贈りたいドラマの台詞をふと思い出したので残しておこう。1994年放送『29歳のクリスマス』(フジテレビ系)で、主役の矢吹典子(山口智子)が放った台詞だ。
「私は自分の力で生きてきたの! 私の足で歩いてきたの! あっちへぶつかり、こっちにぶつかりしながら、傷をいっぱい作って生きてきたの! 頭に10円ハゲを作りながら、それでも何とか生きてきたの!!」
小林久乃 こばやしひさの エッセイ、コラム、企画、編集、ライター、プロモーション業など。出版社勤務後に独立、現在は数多くのインターネットサイトや男性誌などでコラム連載しながら、単行本、書籍を数多く制作。自他ともに認める鋭く、常に斜め30度から見つめる観察力で、狙った獲物は逃がさず仕事につなげてきた。30代の怒涛の婚活模様を綴った「結婚してもしなくてもうるわしきかな人生」(KKベストセラーズ)を上梓後、「45センチの距離感」(WAVE出版)など著作増量中。静岡県浜松市出身。Twitter:@hisano_k この著者の記事一覧はこちら

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