「客商売をする人たちは、人間が練れている」……コロナ禍の酒場を回った大竹聡さんは振り返る

2025年4月25日(金)15時30分 読売新聞

岩佐譲撮影

「酒場とコロナ あのとき酒場に何が起きたのか」大竹聡さん

 著者への取材は、本書の冒頭を飾る東京・祐天寺の「もつやき ばん」で始まった。撮影に入り、名物レモンサワーを手にした著者がポーズを変えて10分、「もう飲んでいい?」。合図とばかりに酒場への思いを語り出した。

 「コロナ禍で酒が提供できなくなった店はどうなっているんだろう」

 企画は、食の雑誌「dancyu」の編集者に投げかけた問いで動き出した。2021年夏から約4か月間、客の気配が消えた居酒屋やバーなど21軒を回り、近況や不安、客への思いなどに耳を傾けた。23年には改めて5軒を訪ね、「このタイミングじゃないと聞けなかった」と振り返る。

 仕事への意欲を維持するため店に通うバーテンダー、代々続く店を潰さないよう新たな取り組みに挑む店主、一時営業再開の際に「生きてたー!」と喜び合う客と店員——。衛藤キヨコさんの写真とともにつづられる声は、どれも胸を打つ。「酒が出せず、営業できなくても彼らは恨み節を口にしない。長く客商売をやってる人たちは人間が練れているんですよ」

 1963年、東京・三鷹生まれ。出版社勤務などを経てフリーになった著者は約30年、飲んべえの機微を活写してきた。コロナ禍は、一流の飲み手であるベテランライターの生活も直撃し、「店の人たちに『お前こそ大丈夫か』って聞かれました」と笑う。

 本書は客の存在も印象深い。「周囲は店が頑張っているのをよく見ている。店は忘れられていないことを再認識したし、客も店のどこが好きか見えたはず」

 「ばん」は今年3月、開店20周年を迎えた。店と客によるドラマ。全国各地であっただろう無数の光景に思いをはせ、著者は活気を帯び始めた店で3杯目に手を伸ばした。(本の雑誌社、2200円)今岡竜弥

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