「あなたは人が話すのを聞くときの顔がいい」……若き日の小泉今日子さんをほめた名演出家

2025年4月25日(金)15時15分 読売新聞

『思い出トランプ』向田邦子著(新潮文庫) 649円

 俳優の中井貴一さんとの息の合ったやり取りが人気のドラマ「続・続・最後から二番目の恋」(毎週月曜午後9時〜)の放送が、フジテレビ系で始まった。小泉さんは、三陸地方を舞台にした2013年の「あまちゃん」や昨年の「団地のふたり」など、今も多くの作品に出演を続けている。

 役者の仕事で大きな影響を受けた人として、演出家で作家の久世光彦さん(1935〜2006年)を挙げる。「すごく怖かったんです」。思い出は鮮やかに残る。川上弘美さんの小説をドラマ化した「センセイのかばん」など多くの久世作品に出たが、当初は演技が下手とよく怒られた。

 一方で、名演出家は役者の良さを引き出すことにけていた。「最初に褒められたのは、『あなたは人が話すのを聞くときの顔がすごくいい』でした。『本当に聞いてるからだと思う』と言ってくれた。私は当時、その作品の世界の中で『生きてる子』になろうとすることくらいしか分かってなかった。これでいいんだと思った」

 子ども時代から、久世さんが手掛けたドラマ「時間ですよ」や「寺内貫太郎一家」が好きだった。コンビを組んで数々の名作を送り出した脚本家、作家の向田邦子(1929〜81年)と合わせ、2人の作品に深い敬意を寄せる。

 親しいようで決然としたけじめがある2人の関係は、久世さんが「触れもせで」(『向田邦子との二十年』ちくま文庫収録)などの文章に記している。「本当に向田さんから色んなことを教わったんだと思います。憧れのお姉さんだったんでしょうね」

 向田の短編集『思い出トランプ』は愛読する一冊だ。昼間に浮かぶ白い月、はめ殺しの小さなガラス窓。何げない風景や出来事がもつれ合い、男女や家族の機微を浮かび上がらせる。

 「目で見たものや思い出が、昭和の人たちは色濃く残っているんじゃないかな。私も子どものころに見た夕焼けとかよく覚えています。今は何でも、(スマートフォンで)撮るでしょう。見ている時間も短くなってしまうのかもしれません」

 大人らしい大人がいた昭和、その時間の流れに思いをはせた。(待田晋哉)

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