脳科学者の中野信子さんが『徹子の部屋』に登場。幼少期の悩みを語る「適切に、適度に怒ることは体にもいい」高嶋ちさ子×中野信子
2025年5月30日(金)11時0分 婦人公論.jp
2025年5月30日の『徹子の部屋』に脳科学者の中野信子さんが登場。幼少期に「子供らしさ」や「空気をよむ」ことが分からず悩んだ経験や、脳科学者になろうと思ったきっかけについて語ります。そこで、中野さんが高嶋ちさ子さんと《怒る・キレる》ことについて語り合った『婦人公論』2020年11月10日号のインタビュー記事を再配信します。
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「キレるキャラ」でおなじみの高嶋ちさ子さんですが、本人はそこから卒業したいそう。しかし、高嶋さんとプライベートでも親交のある脳科学者の中野信子さんは、時にキレることは人間にとって必要だと言います。人が憤るメカニズムとその効能とは(構成=平林理恵 撮影=宮崎貢司)
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家族を許せないと感じる理由
中野 お目にかかるのは1ヵ月ぶりでしょうか。
高嶋 今日はお仕事だから、不思議な感じがする。そのワンピース、とっても素敵。
中野 今日は「怒ってもいい」という話をしにきたので、洋服は怖くならないように華やかにしようかなと思って。……高嶋さん、最近何かにキレました?
高嶋 キレたてほやほやです(笑)。アメリカに留学している13歳の長男から、「スマホが壊れたから、新しいのを買って」とメールがきて。理由を訊くと、「スマホを空に放り投げて落ちてくるまでの動画を撮ってたら、地面に激突した」って。「ふざけんな! 親を金のなる木だと思うなよ!」と激怒しました。中野さんは、あんまり怒らなさそう。
中野 昨晩夫にキレましたよ。浴槽にお湯を張ったまま、4時間も「保温」で放っていたので。「ガス代がもったいない! 何回も注意しているよね?」と冷静に問い詰めたら、素直に謝ってくれましたが。
高嶋 私は子どもに怒ることが多いけど、夫に対してはないなあ。逆に、私が叱られるほう。うちは家のことを夫がやっていて、私は食べっぱなし、飲みっぱなしなので、毎日「片づけろ!」と言われています。夫は穏やかな性格なのに、私に対してだけ厳しい。何でですかね?
中野 それは、脳内物質のオキシトシンが関係しているかもしれません。この物質は愛情を感じると脳内で分泌されるので「愛情ホルモン」と呼ばれていて、いい面が強調されることが多いのですが、実は子どもをコントロールしたくなったり、ルール通りに動かない相手を許せないと感じさせたりもする。だから、他人が何をしても気にならないのに、近しい相手である妻に同じことをされると腹が立つんです。
高嶋 「愛情がない相手には怒ることができない」と私はつねづね思っているんですけど、夫もそうだったんですね。うちの場合、怒られなくなったら、夫婦の危機かも。気をつけなくちゃ。
みんなで笑えるネタになるなら、と
中野 テレビで見る高嶋さんの言動から、「高嶋さんといえばすぐキレる人」というイメージを持っている人は多いかもしれませんね。でも実は、いつも合理的にものを考えている方。
高嶋 そう?(笑)
中野 感情に任せて発言しているようで、相手を貶めたりするようなことは言わないじゃないですか。
高嶋 言いたいことを全部口にしたら、人間関係が大変なことになる。だから抑えているつもりだし、キレている自覚もないのだけど、「瞬間湯沸かし器」とか「怖い」とかイメージで言われてしまって。あー、このキャラクターから卒業したい。
中野 でも、視聴者が言ってほしいことを高嶋さんが遠慮なく口にしてくれるから、テレビで見る分には痛快で面白いんでしょう。
高嶋 私の感情表現がオーバーだからということも大きいんですよ。たとえば疑問を感じたときに、「ん?」程度のことでも、私は「はあああ?」と反応するので、「またキレてる!」と受け止められる。でも、いいんです。みんなで笑えるネタになるなら。
中野 高嶋さんは、自分が怒ることで周囲に与える影響までちゃんと計算しているから、単なる《怒りっぽい人》とは違うのかもしれませんね。世の中には感情の赴くままに突発的にキレる人もいますが、それでは状況が改善されないし、かえって悪化させてしまう。
高嶋 状況を良くしたいからキレるのに、効果ナシなんてもったいない。怒りっぽい人の脳の中では、何が起こっているの?
中野 彼らの場合、怒りの感情を抑制する「前頭前野」の働きが鈍くなっているんです。飲酒や睡眠不足などの生活習慣や加齢によって衰えるものなので、年齢を重ねると気が短くなるのには、ちゃんと理由があるんですよ。
高嶋 なるほどね。
危険を感じれば心も闘う
中野 「怒る=良くないこと」みたいな風潮がありますが、私は一概にそうは言えないと思っています。怒りは人間であれば誰でも感じる自然な感情ですから。たとえば、ウイルスが人体に侵入すると、免疫系の細胞が反応して熱が出ますよね。これはウイルスと闘っている状態。それと同じことは心でも起こる。自分の領域が侵されて危険を感じたり、相手に不快感を抱いたりした時に、私たちは怒るんです。
高嶋 怒りは、身を守る自然な行為と言えるのね。
中野 逆にうまく怒れないと、自分を責めるほうに向かいます。それが高じると、場合によってはうつ病になってしまうことも。だからこそ、適切に、適度に怒ることは体にもいいんです。
高嶋 実は、私が立ち上げた「12人のヴァイオリニスト」の活動では、今年から怒らない方針にしたんです。
中野 それまでは厳しい指導をしていたんですか?
高嶋 そう。去年、テレビで活動の様子を密着取材する企画があったんですが、私には最初から《キレ》が期待されているから、怒らないといけない雰囲気だったんですね。いざ放映された番組を見たら、自分の想像以上に恐ろしい人で……。
中野 効果音や画面の演出でそう見えていただけでは?
高嶋 いえいえ(笑)。それからはほめて育てる方針に変えたら、グループの雰囲気も良くなりました。うちの長男と次男に対してもそうしたいんですけど、やっぱりまだ子どもだから叱らないとダメ。
高嶋ちさ子さん(左)と中野信子さん(右)(撮影:宮崎貢司)
怒らない人の脳内はどうなっている?
中野 お子さんたちの性格がまったく違うんですよね。接し方は変えていますか。
高嶋 長男は、注意したことが右から左へ抜けていくタイプ。本人もほとんど怒らない。対して2つ下の次男は繊細なので、叱ると「僕が悪い」と全部受け止めて、自分を責めてしまうんです。
中野 上のお子さんにガツンと言わなくてはならない時は、どうしているんですか。
高嶋 昨日は思わず怒鳴っちゃったけど、正直まったく効果がないんです。成績が悪いことを叱る時には、留学先の先生から「このままだと君は退学になるよ」と伝えてもらうか、学費の明細を突きつける。事実をありのまま見せるのが効きますね。下の子は不安傾向が強いので、叱ると同時に励ましながら。言葉を選んで伝えます。
中野 なるほど。お父さん譲りなのは、長男さんですか。
高嶋 そっくり。二人が怒らないのは、周囲に期待をしていないからだと思う。そういう人の頭の中は、どうなってるんですかね。
中野 私たちが怒りを感じる時は、脳内でアドレナリンやノルアドレナリンという物質が分泌されて、興奮状態になります。怒らない人は、体質的にアドレナリンがあまり出ないんでしょう。
高嶋 ただ、時々「怒ってるよね?」と思うこともあって。そういう時の夫は、笑いながらも辛辣なコメントを口にする。当事者にぶつけることはしませんが。
中野 うまいやり方だと思います。高嶋さんが笑いを利用したように、怒りを皮肉に変えている。
SNS上で突然中傷されたら
高嶋 4年前、息子たちがゲームの制限時間を守らなかった時に、私がゲーム機を壊して、SNSで炎上したことがありました。息子たちへの「ルールを守らなければ、壊されてもしかたないよ」という教育的指導のつもりだったので、バッシングを受けてビックリ……。私はモノに当たったわけじゃないけれど、モノを壊すことで怒りを発散している人は、実は多いんじゃないかと思うんです。それは「いいキレ方」ですか?
中野 あまりいいとは言えないかもしれません。一時的に心はスッとしますが、本来の問題自体は解決されない。さらに、モノを壊したことで片づけなくちゃいけないとか、新しい問題を生んでしまう可能性がある。コストを考えると圧倒的に損です。私は怒っている時こそ、損しない方法を選ぶべきだと思います。
高嶋 コスト! そんな視点で考えたことなかった。
中野 高嶋さんはテレビにたくさん出ていらっしゃる人気者。SNSなどで、突然予期しないコメントを受け取ることもあるでしょう。そういう時はどうしていますか?
高嶋 沈黙して、事態が収まるのをひたすら待つ。
中野 スルーするのが一番いいんですよね。でも私、面白そうだったら受けて立っちゃうことがあるんです。
高嶋 すごい。どんな時に?
中野 私のツイッターに、「コメンテーターの立場であんなに着飾って。迷走しているのでは」とコメントしてきた人がいました。余計なお世話だと思って、「あなたの人生にとってどうでもよいはずの、こんなささいなことをわざわざ寿命の一部である貴重な時間を割いて、私のアカウントを探し当ててまでコメントするなんて、あなたも迷走しているのでは」と返信して。
高嶋 あはは。中野さんも意外と大人じゃないんですね、安心した。
上手なキレ方で抵抗する
中野 その後もコメントを返して、相手が「なぜこんなこと書いてしまったんだ、恥ずかしい」と感じるまで、私が静かにキレていることを淡々と伝え続けました。説得に成功すれば、相手が勝手にコメントを消してくれるから。
高嶋 私は親しい人に向かって間接的にキレることで、発散しているのかなあ。SNSで私が炎上したら、その画面を「どうよ、これ」と友達に見せる。それでさんざん愚痴ったり怒ったりして。
中野 ただ、SNS上ではないリアルでは正面から立ち向かうと危険な時もありますよね。相手が反撃してこないと見ると、実際に手が出る人もいますし。
高嶋 いるよね。
中野 理不尽な相手に傷つけられたり、利用されたりしないためには、上手なキレ方で抵抗しないといけません。
高嶋 すごくわかる。私も、ここで自分が怒ったら相手がどういう反応をするか──いつも頭の中で一通りシミュレーションしてから言葉を発するように心がけています。
中野 そのやり方は、すごくいいと思います。あと、上手に怒るために、「怒りの表現方法」を集めておくのもお勧め。私はバラエティ番組で芸人さんのキレ芸を観察したりします。有吉弘行さんやマツコ・デラックスさんは、キレることでその場を和ませたり、笑いに変えたりしている。上級テクニックなので、そこまでできなくても、「小声で淡々と話す」とか「黙る」でもいい。ふだんの自分のキャラクターとはがらりと違う面をあえて見せて、相手が自然と怒りを感じ取って怖気づくのを利用するんです。
今こそ怒り方の教育を!
高嶋 息子たちはまだ反抗期前なんですが、いざ突入したらどんなキレ方を見せてくるのか。それが今から心配です。
中野 高嶋さんの息子さんたちは怒りとの向き合い方をよく知っていると思いますよ。でも突然キレて大事件を起こす子どもが出てきてしまうのは、怒り方、怒られ方を知らないからじゃないでしょうか。学校で「ケンカはいけない」と教えられるけど、本当は怒りのうまい発散のさせ方や、ケンカを吹っかけられた時に器用に立ち回る話法を教えたほうがいい。
高嶋 人と人が真剣に向き合うとはどういうことなのかを学べますよね。
中野 自分の意思を主張できるようになるし、身を守る手段をより多く獲得することにもなります。将来社会に出て、パワハラやセクハラを受けた時にも、うまく回避したりはね返したりする力がつく。
高嶋 思えば私は、ずっと一人でその訓練をしてきたのかも。理不尽な目に遭うたび、「見返してやる」と頑張りました。家族に対しても、兄に勝ちたい、母に認められたい、父に「よくやった」と言わせたい。なにより、ダウン症の姉を傷つけるヤツは許せない──。根底には怒りがあって、それだけでここまで来たような気がしているんです。
中野 私も、野心を持って「なにくそ!」と勉強や仕事をしてきたので、すごくわかります。「いつも穏やかでいなければいけない」なんてムリに考えなくていいと思いますよ。
高嶋 まだまだ上に行くために、お互い、怒り続けましょう。(笑)
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