「昭和天皇も飲んだ」北朝鮮が熱を上げるミネラルウォーター商売
2019年4月30日(火)7時16分 デイリーNKジャパン
国連人口基金(UNFPA)の2014年の調査によると、北朝鮮の人口の10.5%は井戸水、4.1%は湧き水、2%は共同水道を利用している。つまり、5人に1人が自宅に水道がないため、屋外に汲みに出る生活を強いられているということだ。
また、水道があっても断水が頻繁に起きるため、北朝鮮の家庭に水タンクは欠かせない。その原因は電力不足と施設の老朽化にある。
平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、道内の一部地域では最近、水道の供給が円滑に行われなくなっており、蛇口から水が出るのは1週間に1日程度だ。
道庁所在地の平城(ピョンソン)では、老朽化した水道管が破裂する事故が相次いで起きている。平城駅前の石炭鉱業大学、玉田洞(オクチョンドン)、杜茂洞(トゥムドン)、陽地洞(ヤンジドン)などでは、水道管の破裂で道路が冠水した。
改善の兆しがなく業を煮やした平城市民は、郊外を流れる大同江まで水を汲みに行っている。主に顔や体を洗うために使っているが、中には沸かして飲水に使う人もいる。
市内から大同江までは直線距離でも10キロ離れている。車が使える人ならまだしも、ほとんどの人が徒歩で往復しており、その苦労たるや筆舌に尽くし難いものだろう。
どんなことでも商売にしてしまう北朝鮮商人は早速、大同江の水を汲んで市民に売る「水屋」を始めた。一般の商人だけではなく、当局も「水商売」に熱を上げている。
金正恩党委員長は2016年に龍岳山(リョンアクサン)わき水(ミネラルウォーター)工場を、2017年には江西ミネラルウォーター工場を訪れている。また、全国に5ヶ所のミネラルウォーター工場が新設または増築された。
中には、日本の植民地時代に日本の昭和天皇が飲用したとの触れ込みで売られている天然水もある。平安南道の殷山(ウンサン)郡にある天聖(チョンソン)里で湧き出る水がそれだ。
ミネラルウォーターの値段だが、一般的な製品で500ミリリットル入りが1500北朝鮮ウォン(約20円)から2000北朝鮮ウォン(約26円)だ。これは、市場で売られている小碗のラーメンや中国製のインスタントラーメンと同等の価格だ。庶民の手が届かないわけではないが、普段使いするには負担になる値段だ。そのため、これを買った人はペットボトルを見せびらかして自慢するほどだという。
当局は、ミネラルウォーターの製造販売には力を入れるが、上水道施設の整備はほとんど行っていないようだ。
上水道の汚染は深刻で、国民の健康が脅かされているとの指摘もある。
韓国交通大学のイ・ホシク教授は3月21日に韓国・大邸で開催された水関連の見本市「2019ウォーターコリア」の講演で、「北朝鮮の深刻なエネルギー問題と浄水施設に必要な資材、部品の不足で、浄水場が円滑に稼働できていないと思われる」と指摘し、「飲用水の水源の23.5%が大腸菌に汚染され、適切な方法で浄水された水を飲んでいるのは全人口の16.5%に過ぎない」と説明した。
北朝鮮には、史上一度も上水道の恩恵を受けたことがない地域すら存在する。平壌から南東に80キロほど離れた、黄海北道(ファンヘブクト)の遂安(スアン)、新渓(シンゲ)、谷山(コクサン)には水道が存在しないため、住民は水汲みに毎日往復8キロの道を行き来する。
そんな苦労をして汲んできた水も汚染されており、地域では皮膚病にかかる人が後を絶たないという。