「暗い現実を隠している」北朝鮮制作の”楽園ドラマ”に国民から批判

2025年5月3日(土)8時47分 デイリーNKジャパン

「田園日記」は、1980年から2002年まで韓国MBCで放送された長寿ドラマで、農村社会を舞台に、時代の変化とともに揺れる人々の暮らしや家族の葛藤をリアルに描いた作品である。


一方、「ナツメの木に恋がひっかかった」は、KBSで1990年から2002年にかけて放送された農村を部隊にした長寿ドラマだ。家族や隣人たちが織りなす日常の小さな喜びや葛藤を描いたものだった。


両作とも農村を舞台としながらも、前者は「都会に出た農村出身者が心のなかに持ち続けるイメージ」をテーマとし、後者は「都市近郊のリアルな農村の日常」という違いがあった。いずれも、韓ドラが世界的に人気を博すようになる前の作品だ。


北朝鮮でも最近、農村を舞台としたドラマ「白鶴原の新春」が制作されたが、「農村の現実」や「イメージの中の農村」のどちらでもないパラレルワールドみたいになってしまい、視聴者から酷評されている。米政府系メディアのラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。


両江道(リャンガンド)の情報筋によれば、今月20日に恵山(ヘサン)映画館で「白鶴原の新春」第16話を見たという。全20話構成で、1話あたり1時間10分と比較的長めのドラマである。


このドラマは4月1日から恵山映画館で上映が始まり、午前10時と午後3時の2回にわたって、1日に1話ずつ上映されている。2日に1話のペースで進行しており、20日時点でようやく16話に到達したことになる。


「白鶴原の新春」は、かつて北朝鮮で人気を博した千世鳳(チョン・セボン)作の小説「石渓の新春」を原作としたドラマに似た構成で、農村を舞台に制作された。視聴者の期待は高かったが、内容はそれを裏切るものだった。


このドラマは、農村の初級党委員会書記が金正恩総書記の指示に従い、「分組管理制」を忠実に実施する様子を描いたものである。「分組管理制」とは、農地の一部を農民に任せ、農作業の効率を高めようとする制度だ。


ドラマでは、農民たちが収穫物の一部を受け取り、自力で住宅を建設し、社会主義農村を地上の楽園に変えるというストーリーが展開される。しかし、情報筋はこれを「荒唐無稽だ」と厳しく批判し、農村の現実とはかけ離れた描写に憤りを露わにした。


情報筋は、「農村の暗い現実や『分組管理制』の不公平な実態はすべて隠され、ただ党と首領の指示に従うことだけが強調されている。わが国で党と首領(金正恩氏)の指示に従わずに存在できるものなど、どこにあるのか」と痛烈に語った。


北朝鮮の農村では、農民が肥料などの営農資材を買う資金がなく、ヤミ金業者から高利でカネを借りて返済に苦しんでいる。汗水垂らして働いても、まともに収穫の分配が得られない。現実があまりに悲惨なため、リアルに描いてしまうとプロパガンダにはならないのだ。


参考記事:穀物1キロで売られる娘たち…金正恩式「恐怖政治」の農村破壊


別の現地情報筋も、「このドラマは金正恩氏が掲げる『自力更生』と『分組管理制』の優位性を宣伝するものだが、『分組管理制』は2012年に導入されたものの、今日に至るまで成果を上げられず、農民たちからも支持を得られていない」と指摘している。


現実とのあまりの乖離から、このドラマはテレビ放送が不可能となり、映画館限定での上映にとどまっている。さらに、1話につき1回のみの上映、入場料も1500北朝鮮ウォン(約11円)という破格の安さである。住民からの批判が広がる前に、「上映した」という実績だけを作りたかったのではないかと推測される。


ちなみに、昨年上映された戦争映画「72時間」は一時大ヒットし、チケット代が3万北朝鮮ウォン(約220円)にまで高騰したが、上映開始から1カ月半で中止された。この作品は、朝鮮戦争勃発からソウル占領までの72時間を描いたものだった。しかし内容がリアルすぎて、朝鮮戦争は「米国の侵略により始まった」とするプロパガンダとは逆に、「侵略したのはわが国だったのか」という疑問を視聴者に抱かせてしまったためである。


また、今年初めに公開された芸術映画「対決の昼と夜」は、チケット代2万北朝鮮ウォン(約155円)で販売されたものの、冬の深刻な電力不足のため、わずか3日間で上映を終了している。この作品以降、恵山映画館は事実上、閉鎖状態にある。


かつては恵山映画館で故金日成主席や故金正日総書記の記録映画が上映されていたが、現在では地方党委員会や市党委員会の会議室で小規模に上映されるにとどまっている。映画館そのものが機能していないため、現地情報筋は「映画館はもはや名ばかりの存在になってしまった」と嘆いた。


さらに、平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によれば、最近始まった文化会館や映画館での上映作品も、依然として「社会主義リアリズム」の枠組みから脱却できない陳腐な内容ばかりだという。テレビドラマを映画館で上映するという方式自体が、テレビ普及前の1970年代的発想であり、時代遅れであるとの批判も強まっている。

デイリーNKジャパン

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