「ひとかけらでも肉が欲しい」北朝鮮の高級レストラン周辺に物乞い急増──厳しい格差社会
2025年5月5日(月)5時2分 デイリーNKジャパン
厳しい食糧事情が続く北朝鮮だが、首都・平壌の中心部だけは別世界である。
平壌には富裕層を対象としたさまざまな高級レストランが存在し、地方では目にすることのない珍しい料理が提供されている。一方、地方では多くの人々が食うや食わずの生活を強いられており、農村部では端境期(ポリッコゲ)を迎え、状況は悲惨そのものである。
さらに厳しい暮らしを送っているのが、コチェビ(ストリート・チルドレン、ホームレス)や働けない高齢者たちである。
最近、平壌の高級レストラン周辺にコチェビや高齢者が現れ、物乞いをするケースが急増していると、デイリーNKの現地情報筋が伝えた。
平壌の高級レストランでは、これまで海外のテレビ番組でしか見ることができなかった多彩で新しいメニューを提供し、客を引き付けている。
平壌駅周辺や万景台(マンギョンデ)区域のレストランでは、「グリーンピースご飯に肉の醤油炒めを添えた弁当」が提供され、外貨レストランでは「魚のフライ」や「手羽先グリル」が富裕層の若者たちに人気を集めている。これらは「トレンド料理」と呼ばれているという。
一部の高級レストランでは「ココナッツミルク」や「フルーツシロップ」といった外国風のデザートも提供されており、口コミで富裕層の若者の間に広がっている。これによりレストランの売り上げは急増しているとのことだ。
かつて平壌にピザやハンバーガーを売る店が登場した際にも大きな話題となったが、若者たちは味噌汁やキムチチゲ、小皿料理といった伝統的な朝鮮料理よりも、目新しい料理を好むようになっている。
客の急増に伴い、レストラン周辺ではコチェビや貧困層の高齢者による物乞いも急増している。
「豪華さと豊かさを誇るレストラン周辺には富裕層の客が集まり、同時にコチェビの子どもや高齢者も集まって物乞いをしている」と情報筋は語った。
コチェビや高齢者たちは、高級レストランに入っていく客にこう懇願するという。
「ひとかけらでもいいから肉が欲しい」
「空腹で死にそうだ。食べ残しでも構わないから、捨てずに出るとき紙に包んで持ってきてほしい」
平壌市安全部(警察署)や糾察隊(取り締まり班)が随時取り締まってはいるものの、完全に追い払うことはできていない。
平壌の一般市民は、高級料理に舌鼓を打つ幹部やトンジュ(金主、新興富裕層)とその家族、そして彼らから食べ物を恵んでもらおうとするコチェビや高齢者の姿を見て、「思想だけが政治なのではなく、食事もまた政治だ」と皮肉を込めて語っているという。
また、市民たちは競うように新しいメニューを提供するレストラン、それを食べたと誇示する富裕層、そして物乞いで生き延びているコチェビや高齢者の姿を目にし、「思想ばかり押し付けるな。人間にとって本当に必要なのは食べ物だ。まず食べ物を与えてから思想を語れ」と、食糧政策や弱者救済を軽視し、思想教育とプロパガンダにばかり力を入れる当局を厳しく批判している。