「感謝する理由ない」北朝鮮の児童が金正恩称賛に反発…教師も両親も驚愕

2025年5月12日(月)5時2分 デイリーNKジャパン

毎年のように深刻な自然災害に襲われる北朝鮮では、昨年7月、中国との国境を流れる鴨緑江が大雨で氾濫した。この氾濫により、北朝鮮の公式発表でも死者は1500人、家を失った者は1万5000人に達した。実際の死者や被災者の数はこれをはるかに上回ると見られている。


鴨緑江から遠く離れた平安南道(ピョンアンナムド)安州(アンジュ)では被害の有無は不明であるが、市内の小学校では、災害復興に尽力した金正恩総書記の「偉大さ」を讃える教育が行われている。しかし、子どもたちの反応は意外なものであった。現地のデイリーNK内部情報筋がこれを伝えた。


安州市内のある初級学校(小学校)で先月末に起きた出来事である。この学校では毎朝、朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を読む「読報時間」を設けている。この日、担任教師は4月25日付の『労働新聞』に掲載された「父なる金正恩元帥が平安北道と慈江道、両江道の水害地域の新設学校に楽器を贈る」という記事を取り上げた。以下、朝鮮中央通信の報道から一部抜粋する。


父なる金正恩元帥は、平安北道と慈江道、両江道の水害地域に新しく建てられた学校にピアノとアコーディオン、ギター、御恩琴、伽倻琴、ハーモニカなどの楽器を贈った。


(中略)金正恩元帥は、すっかり様変わりした故郷の村に誇るに足る素晴らしい学校を建てるようにし、近代的な教具・校具と教育設備、スポーツ器具を贈ったのに続いて、再び数多くの楽器も贈る大いなる恩情を施した。


このような記事を読み、その内容について討論を行う「偉大性教養」は、金正恩氏を神格化する教育の一環である。


通常、読報時間はクラスの思想副委員長(朝鮮少年団の幹部)が司会を務める場合が多いが、この日は担任教師が担当した。教師は記事を読み上げ、次のように子どもたちに説いた。


「元帥様(金委員長)の愛は限りない」
「このような愛のおかげで私たちは世界に羨むもののない幸福を享受している」


しかし、子どもたちの反応は教師の意図とはまったく異なるものであった。


このクラスの数人の児童が「私たちが楽器をもらったわけでもないのに、感謝する理由があるのか」と発言し、他の多くの児童もこれに同調したのである。


北朝鮮において、このような発言は「マルパンドン」(言葉の反動、反政府的言動)とされ、大人であれば管理所(政治犯収容所)送りとなる可能性がある。さらに、家族や学校関係者も連座制により処罰される。


子どもたちの反応に驚愕した担任教師であったが、上部への報告や叱責は行わなかった。代わりに保護者を呼び、子どもたちの言動について厳しく指導するよう要請したという。


このような発言が公になれば、児童と担任教師だけでなく、学校全体の責任が問われかねない。そのため、事態を穏便に収めようとしたのである。


状況を聞かされた保護者たちは胸を撫で下ろしつつ、「言葉ひとつ誤っただけで、家族みんなが誰にも気づかれず消されてしまう」として、子どもたちに厳しく口止めしたと伝えられている。


情報筋は次のように語った。


「首領(金正恩氏)への恩と愛を前面に出して絶対的な忠誠を強要する偉大性教養が、今どきの子どもたちには通用しなくなっていることを示す事例である」
「このような変化は当然であり、内心歓迎すべきことでもあるが、無邪気な子どもたちの率直な反応が一家の不幸につながらないか心配でもある」



なお、今より食糧事情がよかった2017年には、平壌市内の小学校で金正恩氏の名前で配られたお菓子セットに含まれていたカンジョン(日本のおこしに近い伝統菓子)が不味かったため、子どもたちがぶつけ合った出来事が「大事件」に発展したこともあった。


情報筋は最後に、「子どもたちの自然な発言や反応ですら政治的逸脱と見なされ、処罰される可能性があるため、保護者の緊張感と不安も高まっている」と述べた。

デイリーNKジャパン

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