「ハーバード」留学不可、欧州を米研究者の「受け皿」に…中国への頭脳流出を警戒

2025年5月26日(月)7時18分 読売新聞

5日、パリで、米研究者らに欧州への移住を呼びかけるフォンデアライエン欧州委員長=本人のSNSへの投稿動画から

 【ジュネーブ=船越翔】米国のトランプ政権による予算削減で、行き場を失う米研究者の受け皿を設ける動きが欧州で出始めた。優秀な人工知能(AI)などの研究者を確保し、先端技術の強化を図るのが狙いだ。トランプ政権はハーバード大に加え、意向に従わない他の大学でも留学生の受け入れを停止させる可能性を示唆しており、欧州各国は中国への頭脳流出を防ごうとしている。

「判断ミス」

 「欧州には科学の発展に必要なものが全てそろっている。研究者たちには欧州を選んでほしい」

 欧州連合(EU)の執行機関・欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は5日、パリで開かれた会合で域外の研究者に向けてこう呼びかけた。EUが研究費の助成などに5億ユーロ(約810億円)を投じる方針も明らかにした。

 EUが誘致を狙うのは、身分が不安定な米研究者だ。トランプ政権は「政府効率化省」の下で研究機関の予算を大幅に削減し、研究者の雇用を相次いで打ち切ってきた。フォンデアライエン氏は名指しは避けつつも、トランプ政権の対応を「著しい判断ミスだ」と批判した。

 トランプ政権は22日、ハーバード大の留学生受け入れ資格を取り消すと発表した。米連邦地裁は翌23日に政権の措置を一時差し止める決定を下したが、同大に在籍する留学生や外国籍の研究者は約1万人に上り、他の大学を含めて研究者らの間には不安が広がっている。

言葉の壁低く

 英ガーディアン紙によると、ノルウェーも4月23日、米研究者らの採用を目的とする1億ノルウェー・クローネ(約14億円)の基金を設けた。ベルギーのブリュッセル自由大なども米研究者の移住を支援する方針を打ち出している。英科学誌ネイチャーが3月末に公表した調査結果では、米研究者約1650人のうち75%が米国を離れることを検討し、移住先として欧州やカナダを挙げる人が多かった。言語や文化などの障壁が比較的低いことが理由とみられる。欧州の学界では、生成AIなどで世界トップレベルの米国の先端技術を欧州が手に入れる機会になるとの見方が出ている。

中国に警戒感

 一方、欧州が注視するのが中国の動向だ。日本の文部科学省によると、米国が2019〜21年に発表した国際共同論文のうち中国が関わる論文は28%を占め、国別で首位となっている。科学技術強国を目指す中国が、交流のある米研究者たちを囲い込むとの警戒感が欧州で強まっている。

 スイス・ジュネーブ郊外にある素粒子研究の国際拠点「欧州合同原子核研究機関(CERN)」の関係者は読売新聞の取材に「中国との間で米研究者の獲得合戦が激化するのは確実だ。西側陣営は予算を確保して米研究者を引き寄せるなど早急な対応が求められる」と警鐘を鳴らした。

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