3割が生きて出られない…北朝鮮コロナ隔離施設の劣悪な実態

2020年11月20日(金)6時10分 デイリーNKジャパン

北朝鮮は、未だに国内における新型コロナウイルスの感染者はいないという立場を崩していない。一方で、各地でロックダウン(都市封鎖)が相次いでいる。


7月下旬から8月中旬にかけて開城(ケソン)、8月下旬から9月中旬にかけて両江道(リャンガンド)の三池淵(サムジヨン)、恵山(ヘサン)、慈江道(チャガンド)、10月下旬から慈江道の満浦(マンポ)、今月2日からは恵山が封鎖された。


また、隔離される人も続出し、WHO平壌所長のエドウィン・サルバドール氏は北朝鮮保健省の統計として、先月29日の時点で897人が隔離され、累積では3万1800人に達していると明らかにした。一方で、デイリーNKの内部情報筋は、今月1日の時点で少なくとも8万1000人が隔離されていると証言した。


隔離施設は咸鏡北道(ハムギョンブクト)、咸鏡南道(ハムギョンナムド)、両江道(リャンガンド)など全国に9ヶ所ある。首都・平壌でも感染が疑われる患者が続出しているが、金正恩党委員長のいる革命の首都に感染病施設を設置するわけにはいかないとの朝鮮労働党の方針で、市外の施設に収容される。


隔離施設の状態は極めて劣悪だとの証言が今までもあったが、隔離者の増加、経済難の深刻化が影響しているのか、状況がさらに悪化している模様だ。デイリーNKの内部情報筋が、その実態について証言した。


隔離施設には基本的な医薬品すらなく、医師がいても非常に数が少ないため、患者一人ひとりのケアを行えるような状態ではない。重症になってようやく解熱剤、鎮痛剤が処方され、ほとんどの人は症状があっても薬すら与えられない。


「処方」とは言っても、医師から必要な薬の名前を提示されるだけで、実際に薬は与えられない。家族が市場などで購入し、差し入れることを求められる。それも、経済的余裕がある人だけが可能だ。以前は結核治療薬、解熱剤、総合感冒薬などが与えられたというが、財政難の悪化でそれすらできなくなったのだろう。


患者をさらに苦しめるのは空腹と寒さだ。施設では1日3回食事が提供されるが、トウモロコシ飯に塩のスープだけで、栄養失調になる人が相次いでいる。症状が発熱だけだったのに、収容されたことで逆に健康を害して死んでしまう悲劇も少なからず起きている。


別の情報筋は原因は明らかにしていないが、今年6月の数字として、隔離者の35%が死亡したと述べている。


生きるために入った隔離施設だが、カネとコネがある人は、禁止されている家族との連絡も維持し、精のつく食べ物を差し入れてもらい、施設管理者にワイロを掴ませ、点滴を受けるなどして生きながらえている。それができない人は、運を天に任せるしかない。


ベッドが不足し、7割は冷たい床で寝ている。暖房がなく寒さに震え、温水が出ないため頻繁にシャワーも浴びられず、施設内の衛生状態は劣悪だ。


栄養、衛生状態が極めて悪く、家族からの差し入れ、ワイロがなければ生き残れないという点で、教化所(刑務所)と何ら変わりないのだ。



一方で、当局は情報統制に躍起だ。


家族との面会は禁止だ。感染防止のためだが、施設の劣悪な実態が外部に知らせることを防ぐためでもある。施設の書類も外部に持ち出せず、家族との手紙のやり取りもできず、口頭でメッセージを伝えることだけが可能だ。もちろん、ワイロを使えばその限りではないが。


そればかりか、施設内では「コロナ」「感染症」という言葉すら口にすることを許されない。感染症の所見を確認した医師も、症状を訴える患者も、「感染症」だと心のなかで思うことしかできない。


亡くなった人の扱いもぞんざいだ。施設で亡くなった場合、遺体は遺族の意思とは関係なく火葬され、何の説明もないまま袋に詰めた遺骨が渡されるだけだ。


「本当に自分の家族の遺骨なのかすら確認のしようがない」(情報筋)


中には、家族との連絡が途絶え行方不明になった人もいる。施設内で亡くなった可能性がある。引き取り手のない遺骨は、どこに葬られたのかすらわからない。この点でも、教化所と変わらない。


国内の医療体制があまりにも貧弱で、感染が拡大したら対処できないからだ。ほぼ唯一の対処法は、感染症対策としては古典的と言われる隔離だ。


2015年に西アフリカでエボラ出血熱が大流行したときも、北朝鮮は国境を封鎖し、最高幹部といえども無条件で隔離する措置を取っている。過剰とも言える対策は、「蔓延すれば体制が崩壊しかねない」という当局の恐怖心の現れだろう。

デイリーNKジャパン

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