現役の情シスが考える、KDDIのビジネスPC向け“月額費用なし”データ使い放題サービス「ConnectIN」の強み
2025年2月4日(火)12時40分 ITmedia PC USER
KDDIが提供を始めた「ConnectIN」(コネクティン)
普段、情報システム部門で働く筆者は企業内におけるデバイス管理やモバイル回線の活用、管理に気をもんでいたが、ConnectINの登場によって情シスが抱える1つの大きな課題を解決できるのではないかと感じている。
ConnectINの登場によって、情シスの負担はどう減りそうか、情シスだけでなく、企業全体にどのようなメリットが得られるのか、具体的な例を挙げて検討してみよう。
なお、今回はConnectINに対応したビジネスノートPCを社内端末として調達することを想定して執筆しているため、今後の展開が予想されるConnectIN対応のIoT製品には触れない。
●そもそもConnectINとは何か
ConnectINで現在展開されている事例は、PCとKDDIのモバイル回線をセットにし、一定期間の通信量を組み込んで販売できるサービスだ。
従来であれば、モバイル通信機能(WWAN)を搭載したノートPCやタブレットとモバイル回線契約は別々で調達する必要があり、通信費用をPC本体の費用とは別に、月額で支払うのが一般的だった。
しかし、ConnectINを利用すれば、ビジネスPCの本体費用に4〜5年分の通信費用も含まれているため、初期のイニシャルコストだけでPC本体と通信回線を調達できる。以降も、端末リプレースのタイミングにまとめて費用を支払うだけで済むことになる。
●ConnectIN対応PCを導入することで得られるメリットは
新しいサービスを利用する上で、情シスだけがメリットを得られるサービスや製品の導入は、社内の稟議(りんぎ)を通しにくいと感じている人もいるだろう。
しかし、ConnectINは情シスのみならず、全社的に大きなメリットを得られるサービスかもしれない。そこで、筆者が思い浮かべるメリットを経営層、情シス、従業員という3つの目線を列挙した上で、それぞれ少し掘り下げてみよう。
・経営層から見たメリット
・調達コストの削減
・予算管理の簡略化
・従業員の生産性向上
・情シスから見たメリット
・資産管理負荷の低減
・モバイル回線管理負荷の低減
・リモート管理の確実性向上
・セキュリティの向上
・従業員から見たメリット
・利便性の向上
経営層から見たメリット
ConnectIN自体は1月21日から提供開始されたものの、実は2023年11月からKDDIと日本HPが先行で協業しており、データ通信5年間無制限で利用できるeSIMをPC本体とセットで販売する「HP eSIM Connect」というサービスを提供している。
日本HPによると、「HP ProBook 445 G11(4G LTE)」を例に取り、PC本体と5年間の通信費をそれぞれ別で支払った場合と、HP eSIM Connect対応モデルを購入した場合とで、5年間に掛かる1台あたりの費用を試算している。
試算結果を見てみると、PC本体と5年間の通信費をそれぞれ別で支払った場合、合計で約60万円の費用が発生するのに対し、HP eSIM Connect対応モデルの場合、なんと本体購入費の19万円の費用しか発生せず、費用を約1/3に圧縮できる効果があると示されている。
さらに、モバイル回線の費用が本体代金に含まれていることから、年度の通信費の予算化が不要となるため、予算管理の大幅な簡略化を見込める。
加えて、従業員が場所にとらわれず、安定したネット接続環境を得られるため、従業員全体の生産性向上が見込めるという点も非常に大きい。
情シスから見たメリット
続いて、情シスから見たConnectINのメリットを深掘りしてみよう。従来であれば、PC本体とモバイルルーター、あるいはPC本体と物理的なSIMカードをそれぞれ分けて管理する必要があった。
そのため、例えばPC本体の管理とは別にSIMカードの管理が必要となる。SIMカードのサイズ自体が小さく、個別で管理番号を記載する事も難しい。かといってICCIDで管理するとなると、桁数が非常に多いことから現実的でない。
しかし、ConnectINであればPC本体にeSIMとしてモバイル回線がひも付けられているため、従業員へのSIMカード配布や紛失対応にかかるモバイル回線の管理負荷、管理すべき資産の数が減るといったことから、負荷の低減を図れる。
業務用のビジネスPCを管理する場合、MDM製品などのPC管理ソリューションを導入している企業がほとんどだが、インターネットにアクセスできない環境では、リアルタイムにPCを管理できないという課題が発生する。
そんな課題も、ConnectINを使えば外出先でもインターネットにアクセスさせることで解決できる。例えば、Microsoft IntuneやChrome Enterprise UpgradeとGoogle Workspaceを組み合わせたChromebookの管理など、モダンなMDMソリューションを利用していれば、PC側に何か特別なポリシーを適用せずとも、常にリモートから業務用PCを管理できる。
もし、社内ネットワークとの疎通が必要な場合でも、VPNを常に利用するポリシーを反映しておけば、モダンなMDMソリューションでなくとも業務用PCのリモート管理の確実性向上が図れる。
あわせて、従業員が外出先で公衆無線LANなど脆弱(ぜいじゃく)なネットワークに接続して業務を行う必要も無くなり、場所に限らずセキュアな環境で業務に取り組めるようになる、というセキュリティ向上のメリットも得られる。
従業員から見たメリット
最後に従業員から見たConnectINのメリットを見てみよう。経営層や情シスから見たメリットと比べると、得られるメリットの数は少ないが、飛躍的な業務効率の向上を見込める。
それは、移動時や取引先など場所にとらわれずにビジネスPCを開くだけで、インターネットや社内ネットワークに接続できるという点だ。
業務用のビジネスPCを持って外出する場合、これまではモバイルルーターを一緒に持って出るか、業務用スマホのテザリング機能を使わねばインターネットに接続できず、だからといって公衆無線LANを利用すると、情シスから怒られる事もあり非常に面倒だった。
しかし、ConnectINを利用すれば、面倒な事をせずともビジネスPCを1台を持っていくだけで、どこでもインターネットや社内のシステムにVPNでアクセスできるようになる。
このように、ConnectINの導入は情シスだけでなく、経営層やそのユーザーである従業員の三方良しなサービスと言えよう。
●ConnectINに期待したいこと
ConnectINの発表を見る限り、数千台規模の業務用PCを管理、運用している筆者としては、現在抱えている課題を解決し、業務効率が格段に向上するのではと感じる。
ただ、その一方で日本HPの先行協業事例をもとに、ConnectINに対して期待したいこと、注文したいことが1つある。
それは、Microsoft Intuneとの連携だ。Microsoft IntuneはクライアントPCを社内ネットワークやVPNに接続せずともリモートでの管理やキッティングの自動化が可能となるMDMソリューションだ。
Microsoft Intuneには、Windows PCに対してeSIM携帯ネットワークプロファイルを、管理下のPCに展開できる機能が備わっている。
ConnectINがMicrosoft Intuneと連携できるのであれば、eSIMプロファイルの展開も自動化できるため、ユーザーが操作しなくともセットアップができる、ゼロタッチキッティングの仕組みに組み込めるのではと考えられる。
先行協業の日本HPを始め、ダイワボウ情報システム、Dynabook、レノボ・ジャパン、パナソニック コネクト、VAIOがConnectINの採用を決定している。
先ほど挙げたConnectINを採用する企業の中には、メーカー出荷時に自社のMicrosoft Intune環境に事前プロビジョニングできる「Windows Autopilotプログラム」に参画するメーカーもあることから、ConnectINの登場で業務用のビジネスPC運用をもう1つ上のステージに進められるのではないかと考える。
仮にMicrosoft Intuneに対応しなかったとしても、業務用PCにかかるさまざまなコストを削減しつつ、場所に限らず安定してインターネットに接続を用意できるConnectINには大きな期待を寄せられそうだ。