【決算深読み】過去最高を連発するソニー、好調なQ3決算と次期CEOのビジョン
2025年2月18日(火)17時18分 マイナビニュース
ソニーグループは、2024年度第3四半期連結業績を発表。2025年4月1日付で、取締役 代表執行役 社長 CEOに就任する十時裕樹社長兼COO、CFOと、取締役代表執行役会長となる吉田憲一郎会長 CEOが登壇した。
十時次期社長兼CEOは、「一層身の引き締まる思いである。経営の最高責任者としての重みを受けとめ、平井(平井一夫氏)、吉田(吉田憲一郎氏)が価値を高めてきたソニーを受け継ぎ、『Creative Entertainment Vision』の実現に挑戦したい。最大のドライバーは人材と事業の多様性であり、これを融合することで新しいものが生まれる。ソニーの進化およびさらなる成長に向けて、価値創出に取り組む」と抱負を述べた。
次期CEOの十時氏は「課題がない事業はない」と引き締め
Creative Entertainment Visionは10年後のありたい姿を表現したソニーグループの長期ビジョンであり、「創造性の解放」、「境界を超えたつながり」、「あらゆる場に広がる体験」の3つのフェーズで構成。ソニーがクリエイティブエンタテインメントカンパニーとして、世界を新たな感動で満たしていく企業を目指すための指針となっている。
十時次期社長兼CEOは、「課題がない事業はない。ソニーはグローバルで勝負する企業であるが、グローバルトップの企業と比べると規模や収益性でも欠けている部分がある。日本から本社を移すことはしないが、経営層には日本人が多く、グローバルに通用する組織になっているのかという点で足りないところがある」とコメント。「新たな組織では、レイヤーを減らし、トランスペアレントで、オープンで、効率的で、リーンな本社を作っていく。また、海外のビジネスの比率が高いため、役職のタイトルを、チーフオフィサーというグローバルで通用する名称に変えた。新設するビジネスCEOは、ビジネスセグメントに対するリスペクトと、本社としてのサポートのあり方を示したものである」と説明。その一方で、「ポートフォリオ戦略は、テコ入れが必要な事業については、迷わずに対策を取る。ポートフォリオは静的なものではなく、動的なものであり、私たちがそのまま持っていた方が成長するのか、違う人がやった方がもっとうまく行くのではないかといったことが判断基準になる。自分たちで決めて、先手を打って行動できる企業を目指す」と語り、「経営として、かゆいところに手が届く、サポートのあり方を考え、うまくいっているときには、割って入るようなことはしない」などと、十時次期社長兼CEOが考える経営と事業との距離感についても触れた。
その上で、「今後は、インターネットネイティブの世代が中心になってくる。スピード感や、新たなものを見つける力、テクノロジーに対する抵抗のなさが、新たなものを生み出すことにつながる。AIをいち早く使いこなすのは次の世代である。商品やサービスだけでなく、働き方や経営スタイルも変わってくる。こうした若い世代をサポートしていきたい」と語った。
また、吉田憲一郎会長兼CEOは、「これまでの実績、今後の長期的な成長の観点から、次のCEOとして最もふさわしい人物だと確信しており、取締役会とも意見が一致している。新たな経営チームに期待している」と、十時次期社長兼CEOを評価し、期待を寄せた。
吉田会長兼CEOは、これまでの経験を振り返り、「ソニーに貢献したいという思いがあり、2013年12月に、十時とともに、ソネットからソニーに復帰し、CFOを4年、CEOを7年務めた。当時、PCからの撤退とテレビの分社化を提案した。CFO時代には、インターナルネゴシエーションから、エクスターナルアカウンタビリティへと、社内に言っていた。これは『説明できるか』ということであり、経営の打ち手の有効性を検証するためのものでもあった」と述べ、「CEO時代の出来事をひとつあげるとすれば、初年度に行ったパーパスの制定が重要だった。パーパスは、平井さんから受け継いだ『感動』をキーワードとしたものであり、社員一人ひとりとの約束事(プロミス)であると思っている。そこには、『あなたが感動の原動力である』という思いが込められている。グループ社員たちは、吉田さんがやったということではなく、やってきたのは自分たちであり、これからやっていくのも自分たちだと思ってくれているはずだ。パーパスをプロフィットにつなげていくためにも内発的な力が大切だと考えている。今後も、社員とともに、『感動』の原動力となり、新たな経営チームを支えていきたい。まだやらなくてはならないことは多い」と語った。
平井氏が「感動」という姿勢を打ち出し、吉田氏がクリエイションシフトを推進し、コアゲーマーやアニメにフォーカスしてきた。こうした動きを体現するのは、十時氏が2024年5月に打ち出したCreative Entertainment Visionであると位置づけている。平井氏から吉田氏、そして、十時氏へと、スムーズにCEOのバトンが渡ることを強調した。
吉田会長兼CEOは、「プレイステーションは、ソニーの20世紀と21世紀をつないだ事業である。20世紀のパッケージメディアから、21世紀のネットワークメディアに自己変革できた。今後は、コンピューティングとセンシングが重要になるだろう」とコメント。「ソネットの社長を務めていたときに、21世紀は、エンタテインメントの時代であり、その担い手はネットワークであると考えた。2021年にソニーグループを発足し、グループシナジーの促進とポートフォリオマネジメントの推進に取り組んだ。印象に残っているのは、2018年のEMIミュージックパブリッシングの買収である。音楽は、ソニーの事業の源流といえるものであり、それに関わる買収である。同時に、ソニーが、クリエイションシフトしたり、エンタテインメントにフォーカスしたりするための腹決めになった」と振り返った。
Q3決算は売上と営業利益が過去最高、ゲームと音楽がけん引
一方、ソニーグループが発表した2024年度第3四半期累計(2024年4月〜12月)は、売上高および金融ビジネス収入が前年同期比8.2%増の10兆3268億円、営業利益は同22.9%増の1兆2035億円、調整後OIBDAは同18.8%増の1兆7222億円、調整後EBITDAは同19.5%増の1兆7175億円、税引前利益が同27.1%増の1兆2611億円、当期純利益が同20.8%増の9438億円となった。
また、金融分野を除く連結業績は、売上高は前年同期比9.3%増の9兆2365億円、営業利益は同27.6%増の1兆614億円となった。
十時社長兼COO、CFOは、「2024年度は、第5次中期計画の初年度であり、第3四半期を終えた時点で、グループ経営数値目標の達成に向けて順調に進捗している。利益成長を牽引するゲーム&ネットワークサービス、イメージング&センシング・ソリューションが、前年度から大きく利益を伸ばしており、その動きはポジティブに捉えている」と総括した。
2024年度通期(2024年4月〜2025年3月)業績見通しの上方修正を行い、売上高および金融ビジネス収入は、前回公表値から4900億円増加の前年比1.4%増の13兆2000億円と増収予想へと増収計画に転換。営業利益は200億円増額の同10.4%増の1兆3350億円、調整後OIBDAは250億円増加の同10.6%増の2兆200億円、調整後EBITDAは150億円増加の同10.6%増の2兆100億円、税引前利益は500億円増加の同9.2%増の1兆3850億円、当期純利益は1000億円増加の同11.3%増の1兆800億円とし、すべての項目で上方修正した。また、金融分野を除く連結業績見通しは、売上高は1000億円増額の前年比5.6%増の11兆9000億円、営業利益は250億円増額の同15.0%増の1兆1900億円とした。
なお、米国の関税政策については、「現時点で実行および検討が発表されている米国追加輸入関税による業績への影響は軽微とみている。引き続き、状況変化に柔軟かつ機動的に対応し、準備を進めている。追加施策を最適なタイミングで実施していくことで、事業と収益への影響を最小化できるように努めていく」(ソニーグループ 執行役員 財務IR担当の早川禎彦氏)と語った。
2024年度第3四半期(2024年10月〜12月)のセグメント別業績と、2024年度の通期見通しについても説明した。
ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)分野の売上高は前年同期比16%増の1兆6823億円、営業利益は37%増の1181億円、調整後OIBDAは31%増の1480億円となった。
前年同期の「Marvel's Spider-Man 2」の大ヒットの反動はあったものの、ネットワークサービスやサードパーティーソフトウェアの増収、ハードウェアの損益改善などにより、営業利益は第3四半期としては過去最高の実績となった。
ソニーグループ 執行役員 経営企画管理担当の松岡直美氏は、「プレイステーション5の台数あたりのプロモーション費用は前年同期から2割程度減少し、市場環境を踏まえた最適な販売プログラムを実行できた。在庫水準も適切にコントロールできている」と述べた。
2024年12月におけるプレイステーション全体の月間アクティブユーザー(MAU)数は、前年同月比5%増の1億2900万アカウントとなり過去最高を記録。総プレイ時間は2%増加して、8四半期連続で前年同期実績を上回っている。
「PS5を購入したユーザーのうち4割強が新規ユーザーである。また、PS4のアクティブユーザー数の減少ペースが緩やかであり、これがMAUの増加に大きく貢献している。PS5の発売から12月末までの累計販売台数は、PS4累計販売台数とほぼ同水準となっている。さらに、発売後同期間時点でのMAUは約1.4倍に増加。PS5の後方互換性や、各種ユーザーエンゲージメント施策により、PSプラットフォームのユーザーベースはPS4世代から大きく拡大している」と述べた。
PS5の第3四半期の出荷台数は950万台(前年度同期は820万台)となり、第3四半期累計で1570万台(同1640万台)を出荷した。
また、プレイステーションプラスは、上位サービスへのシフトや価格改定の影響などにより、ARPUの上昇が進展。ドルベースでは前年同期比20%の増収となっている。
2024年11月20日にβ版をリリースした、PlayStation Portal リモートプレイヤーを通じたクラウドストリーミング機能により、PSプラスプレミアムの加入者が、PS5本体を経由することなく、サーバーから直接ストリーミングされる120以上のPS5ゲームタイトルを、PSポータルでプレイできるようにしている。「いつでも、どこでも、より手軽に、プレイステーションのゲーム体験を楽しんでもらえるようになる。βテストからの学びを活かし、ストリーミングゲームのユーザーエクスペリエンスをさらに改善する」と述べた。
G&NS分野の2024年度通期見通しは、売上高は2024年11月公表値から1200億円増加し、前年比8%増の4兆6100億円としたほか、営業利益は350億円増加し、同31%増の3800億円、調整後OIBDAは250億円増加の同23%増の5000億円と上方修正した。営業利益は過去最高益を更新する見通しだ。
2025度には、大型タイトルの「Ghost of Yotei」や、人気タイトルの「Death Stranding」の続編などの発売を予定しており、「ファーストパーティーソフトウェアのさらなる収益拡大に期待している」とした。
音楽分野の売上高は前年同期比14%増の4817億円、営業利益は28%増の974億円、調整後OIBDAは23%増の1214億円となった。Tyler,やThe Creator、ATEEZなどの新作アルバムがヒットしたことが貢献した。また、ストリーミングの普及により、ローカルアーティストの楽曲が、世界的なヒットとなる機会が増加。「Sony Music Groupでは、新興市場の各拠点におけるアーティストやソングライターの発掘および育成、The OrchardやAWALでは、各地域のインディーズレーベルやアーティストとの関係構築および強化を通じて、ローカルレパートリーの拡充を進めている。急成長している南米やインドでは、各地域の有力レーベルや音楽カタログへの戦略投資を進め、リーディングポジションをより強固にしている」とした。
さらに、中期的な成長が見込まれるギリシャやチェコでは現地有力レーベルを買収、タイでは、Sony Music Publishingの拠点設立などを実施したという。
音楽分野の2024年度通期見通しは、売上高は500億円増額の前年比11%増の1兆7900億円、営業利益は100億円増額の前年比13%増の3400億円、調整後OIBDAは100億円増額の前年比17%増の4300億円とした。1月5日にリリースしたBad Bunnyの新作アルバムが、Billboard 200で1位を獲得する大ヒットとなり、Spotifyでの再生回数も、男性アーティストとしては最速で10億回に到達したという。
映画分野の売上高は前年同期比9%増の3982億円、営業利益は18%減の340億円。調整後OIBDAは14%減の471億円となった。「Venom: The Last Dance」などの劇場公開作品が売上げに貢献したが、劇場公開に係るマーケティング費用の増加により減収になった。
「ストライキによる影響は一部継続し、『Spider-Man』や『Jumanji』の次回作の劇場公開が2026年度に延期されているが、映画制作の活動については回復しており、テレビ番組の新規作品はおおむね正常化している」とした。また、Crunchyrollにおいては、Aniplex制作のアニメ「俺だけレベルアップな件」のシリーズ第2弾の配信が2025年1月から開始。多くの国と地域で大ヒットとなっていることを報告した。今後、北米においては、有料会員向け電子コミックサービス「Crunchyroll Manga」の提供を開始する予定であることを示し、「世界中のアニメファンとのエンゲージメントをさらに強化する」と語った。
映画事業の2024年度通期見通しは据え置き、売上高は前年比1%増の1兆5100億円、営業利益は同2%減の1150億円、調整後OIBDAは同1%減の1700億円とした。なお、米ロサンゼルスにおける山火事の業績影響は、現時点では軽微とみている。
ここでは、KADOKAWAとの戦略的な協業について説明。「エンタテインメント3事業を横断して取り組むことになる。両社のトップが、より強く協業推進にコミットし、さまざまなエンタテインメント領域で、KADOKAWAのオリジナルIP創出力と、ソニーグループのテクノロジーやグローバルでの展開力を掛け合わせ、新たな価値創造を進めていく」と述べた。
エンタテインメント・テクノロジー&サービス(ET&S)分野の売上高は前年同期比4%減の7045億円、営業利益は前年並みの771億円、調整後OIBDAは微減の1025億円となった。2024年度通期見通しは据え置き、売上高は前年比1%減の2兆4200億円、営業利益は同1%増の1900億円。調整後OIBDAは前年並の2900億円とした。
年末商戦期は、規模を追わずに高付加価値商品に注力しているテレビとスマホが減収。デジカメも若干の減収減益となったが、前年同期にα7C IIなどの新製品発売の反動とみている。それ以外のカテゴリーは、ほぼ前年並みの売上高となった。、第4四半期には、もう一段の固定費削減施策を推進する考えを示した。
ソニーグループ 執行役員 財務IR担当の早川禎彦氏は、「レンズ交換式デジタルカメラ市場全体では、ピークであった2012年に迫る水準にまで回復している。当社は、イメージセンサーや5G通信技術などを有しており、クリエイターのニーズに応える商品で、高い市場シェアと収益性の獲得が期待できる。カメラ本体に加えて、クリエイターの表現を拡張する多様なレンズ群の投入、ソフトウェアの価値を加えたソリューションやサービスなどにより、新たな市場の創出と、継続的な収入を期待できるビジネスが着実に広がっている」と語った。
イメージング&センシング・ソリューション(I&SS)分野の売上高は前年同期比1%減の5009億円、営業利益は2%増の975億円。調整後OIBDAは1%減の1655億円となった。2024年度通期見通しは、売上高は前回公表値から200億円増額の前年比12%増の1兆7900億円、営業利益は据え置き、同29%増の2500億円、調整後OIBDAも据え置き、同19%増の5250億円としている。「モバイルセンサーは大判化と高付加価値化による単価上昇により順調に成長する見通しである。また、車載向けセンサーは、欧米を中心にEV市場の成長鈍化の影響がみられる一方で、中国EVメーカーの旺盛な需要やセンサーの高画素化によって事業が拡大している」という。
金融分野の金融ビジネス収入は前年同期比130増の7185億円、営業利益は40%減の309億円、調整後OIBDAは37%減の311億円となった。2024年度通期見通しは、金融ビジネス収入は3900億円増額し、前年比27%減の1兆3000億円、営業利益は公表値を据え置き、同16%減の1450億円、調整後OIBDAも据え置き、同6%減の1700億円としている。
ソニーフィナンシャルグループ 執行役CFOの山田和宏氏は、「ソニー生命では、バランスシート上、保険負債に対し、保有する債券等の資産が超過し、オーバーヘッジの状況となっている。金利上昇により純資産額が減少する構造にあるため、2024年度においては、この軽減に努めている」と説明した。なお、2025年10月には、ソニーフィナンシャルグループのパーシャルスピンオフと上場を予定。2025年5月下旬に、事業方針や上場スキームなどについて説明するという。