中国の新型ロケット「長征八号甲」打ち上げ成功、激化する中国の商業打ち上げ競争

2025年2月21日(金)7時0分 マイナビニュース


中国国営企業の中国運載火箭技術研究院(CALT)は2025年2月11日、新型ロケット「長征八号甲」の初打ち上げに成功した。
従来の「長征八号」を改良して打ち上げ能力を強化したこのロケットは、主に衛星コンステレーションの打ち上げに使用することが想定されている。長征八号甲の登場により、中国国内での商業打ち上げ市場の競争が激化する可能性がある。
長征八号甲
長征八号甲(CZ-8A)は、日本時間2月11日18時30分(現地時間17時30分)、海南島にある文昌宇宙発射場から打ち上げられた。
長征八号甲はCALTが製造、運用するロケットで、2020年に初飛行した「長征八号」の改良型である。
第1段と2本のブースターは長征八号と共通で、第1段には液体酸素とケロシンを推進薬とするYF-100エンジンを2基、ブースターにはそれぞれYF-100を1基装備する。
一方で、第2段とフェアリングは大幅に改良された。従来の第2段(直径3m)は、新たに開発された直径3.35mの第2段に変更され、推進薬の搭載量が増加した。ロケットエンジンには、性能を向上させたYF-75DAを採用した。
さらに、タンク構造を刷新し、電動式バルブなどの新技術を取り入れた。
また、直径5.2mの新型フェアリングを採用し、ロケットと衛星をつなぐ部分も設計を見直し、衛星分離リングやアダプター、計器類を統合することで質量が200kg削減され、打ち上げ能力が向上した。
これらの改良により、長征八号甲の打ち上げ能力は太陽同期軌道で7tとなり、従来の長征八号(5t)を上回る。また、フェアリングの容積が増えたことで、大型衛星や小型衛星の大量同時打ち上げにも対応可能となった。
なお、長征八号甲はあくまでバリエーションのひとつで、オリジナルの長征八号は今後も運用が継続される。また、2022年に初飛行したブースターを装着しない構成も引き続き運用される。ブースターなしの構成の太陽同期軌道への打ち上げ能力は3tであり、これにより、3t、5t、7tの打ち上げ能力をもつ3つの構成が揃ったことになる。
CALTでは、「長征八号は、3種類の構成によるシリーズ化が完成した。これにより、太陽同期軌道への柔軟な打ち上げができるようになった」とコメントしている。
さらに、長征八号甲は運用性も向上しており、推進薬を充填後に打ち上げを延期した場合でも、24時間以内に再打ち上げができるようになっている。これにより高頻度打ち上げにも対応できる。
また、長征八号は、今回打ち上げられた文昌宇宙発射場に加え、隣接する海南商業宇宙発射場からも打ち上げが可能であり、インフラ面でも高頻度打ち上げを可能にする体制ができている。
中国国内の商業打ち上げ市場への進出
こうした特徴を背景に、CALTでは「長征八号甲によって、より競争力のある商業打ち上げサービスを提供する」としている。
中国は米国の輸出規制の影響で、国際的な商業打ち上げ市場への参入が難しい。しかし、中国国内では衛星メーカーや事業者が増加し、大きな市場が形成されている。これにより、ロケットの商業打ち上げ市場が、国際市場への依存なしに独自に成立している。
とくに、衛星コンステレーションによるインターネットの分野では、中国衛星網絡集団の「国網」、上海垣信衛星科技の「千帆星座」、上海藍箭鴻擎科技の「鴻鵠」などが、それぞれ1万機以上の衛星を打ち上げる計画を立てている。さらに、低軌道コンステレーションによる測位衛星の構築を計画している企業もあり、それらの衛星の打ち上げ需要は右肩上がりである。
今回の長征八号甲の初飛行でも、国網の衛星9機が搭載された。国網は2035年までに1万2992機もの衛星を打ち上げることを計画しており、単純計算で1週間に約26機を打ち上げる必要がある。打ち上げには他のロケットも併用されるが、今後、長征八号の打ち上げ頻度は大幅に増加していくものと見られる。
一方、CALTと同じく中国航天科技集団(CASC)の傘下にある上海航天技術研究院 (SAST)は、「長征六号甲」や「長征十二号」といったロケットを運用しており、昨年から千帆星座の衛星を定期的に打ち上げている。上海藍箭鴻擎科技も、親会社の藍箭航天が運用する「朱雀」ロケットで打ち上げている。いずれも1万機超の衛星を打ち上げるために、打ち上げ頻度が増加する可能性がある。
これらは、長征八号とほぼ同等の性能をもつこともあり、今後、国内の商業打ち上げ市場で激しい競争が繰り広げられることが予想される。この競争は、各社のロケット技術や打ち上げサービスの多様化を促進し、効率的で低コストな打ち上げを実現させるとともに、技術革新をもたらし、最終的には中国の宇宙産業全体の成長を加速させることになるだろう。
○参考文献
・http://calt.spacechina.com/n689/c35834/content.html
・Weixing Hulianwang Digui 02A〜I - CZ-8A - Wenchang - 11 February 2025 (09:30 UTC)
鳥嶋真也 とりしましんや
著者プロフィール 宇宙開発評論家、宇宙開発史家。宇宙作家クラブ会員。 宇宙開発や天文学における最新ニュースから歴史まで、宇宙にまつわる様々な物事を対象に、取材や研究、記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。 この著者の記事一覧はこちら

マイナビニュース

「打ち上げ」をもっと詳しく

「打ち上げ」のニュース

「打ち上げ」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ