大河原克行のNewsInsight 第357回 ソニーが熊本でオーケストラ、国内半導体の躍進に地域共生は不可欠

2025年3月25日(火)22時45分 マイナビニュース


ソニーセミコンダクタソリューションズとソニーセミコンダクタマニュファクチャリングは、2025年3月15日、熊本市の熊本県立劇場コンサートホールにおいて、ソニー・フィルハーモニック・オーケストラによる特別演奏会を開催した。
○ソニーと音楽、熊本と半導体
同オーケストラの今年創立30周年を記念した演奏会として開催。また、ソニーセミコンダクタソリューションズの製造子会社であるソニーセミコンダクタマニュファクチャリングは、イメージセンサーの基幹工場となる熊本テクノロジーセンター(熊本テック)を、熊本県内に2001年から操業しており、今回の演奏会は、地域社会への貢献や地域共生という狙いもある。
同社では、「特別演奏会では、音楽による活力と感動を通じて、地域社会へこれまでの感謝の気持ちを伝えるとともに、今後のさらなる共生と共存を願い、サステナビリティ活動の一環として実施した」としている。
特別演奏会の収益は、「熊本県世界チャレンジ支援金」に寄付。同支援金は、未来の地域とグローバル人材育成を目的としており、熊本県内の企業や芸術家、学生の海外進出を支援しているという。
ソニーセミコンダクタマニュファクチャリングの副社長兼熊本テック長である山下満氏は、「2001年から熊本で操業をはじめたが、熊本と我々が携わる半導体が世界から注目されるなかで、今回の特別公演を、地域と一緒に盛り上げられたことを光栄に思う。我々が事業活動を行うにあたり、地元の理解と支援がなければここまでこられなかった。音楽というソニーならではの交流の場を創れたことを喜ばしく思うとともに、今後もこのような活動を続けていきたい」としている。
午後3時から始まった特別演奏会は、1800枚のチケットが完売となり、満席の状態となったほか、熊本県の木村敬知事や自治体関係者、熊本近隣企業の経営幹部なども訪れた。
第一部では、「冒険と魔法が響き合う、ジョン・ウィリアムズの音楽の旅」と題し、ジョン・ウィリアムズのオリンピックファンファーレとテーマのほか、「ハリーポッターと賢者の石」、「インディ・ジョーンズ」、「E.T.」などの映画音楽を演奏。第二部は、「アントニン・ドヴォルザーク 交響曲9番 ホ短調 作品95『新世界より』」として第2楽章および第4楽章を演奏し、第三部では、「スター・ウォーズ音楽抄〜宇宙を駆ける、音楽の旅〜」として、ジョン・ウィリアムズの「スター・ウォーズ」の楽曲を演奏した。指揮は、新通英洋氏。
特別演奏会に参加したソニーセミコンダクタマニュファクチャリングで半導体の開発に携わっている社員は、「なかなか経験することのない機会だったので良かった。子どもたちも親しみやすい曲目で楽しめたと思う」と感想を述べ、その家族(9歳、小学3年生)は、「知っている曲があったのと、初めて見る楽器があり、勉強になって楽しかった。今日の演奏をきっかけに、音楽の授業で弾いてみたい楽器が増えた」と語っていた。
演奏を行ったソニー・フィルハーモニック・オーケストラは、ソニーグループ社員やOB、OG、その家族で構成される約110人のアマチュアオーケストラで、1995年夏に社員有志によって結成した。1996年の第1回演奏会以降、約8カ月ごとに演奏会を行い、これまでに40回を超える演奏会を開催してきた実績がある。
1999年には、音楽家としても知られるソニー会長(当時)の大賀典雄の指揮によるベートーヴェン交響曲第9番を演奏。また、ソニー・フィルハーモニック合唱団との共演も重ねている。2008年10月には、ニューヨークのカーネギーホールにおいて、ダニエル・ハーディング氏の指揮による特別演奏会を実施し、チェリストのヨーヨー・マ氏の協演も実現した。
2023年からソニー・フィルハーモニック・オーケストラの特別顧問を務めているソニーグループの十時裕樹社長 COO兼CFOは、「特別顧問の就任時に、半導体事業で活性化している熊本で演奏会を開催できれば有意義なものになるのではないかと話したことを覚えている」とし、「ソニー・フィルは、ソニーの事業の多様化と足並みを揃えるように、多様なメンバーで構成されている。祖業であるエンタテインメント・テクノロジー&サービス事業のみならず、音楽や金融事業の社員、そのOBやOG、家族を含め、境界を超えて、人々がつながるコミュニティとなっている。ソニーグループのパーパスの実践の場でもある」と述べており、「熊本の地で、どのような創造性を発揮するのか、楽しみにしてほしい」と語っていた。
○熊本半導体のこれまでとこれから
ソニーセミコンダクタソリューションズは、熊本県菊陽町において、半導体の生産拠点である熊本テクノロジーセンター(熊本テック)を、2001年から操業。同社グループ全体でのイメージセンサーの累計出荷本数は、2024年12月に200億本を達成した。ソニーグループでは、1980年代からイメージセンサーの事業を開始しており、2019年5月に100億本達成していたが、それからわずか5年強で200億本に到達しており、需要が急増していることがわかる。
2022年12月には、米アップルのティム・クックCEOが、熊本テックを訪問し、ソニーグループの吉田憲一郎会長とともに、イメージセンサーの生産設備などを視察した。ソニーは、日本におけるアップルの最大のサプライヤーであり、2011年以降、iPhone用のイメージセンサーを製造、供給している。
また、熊本県合志市でも、新工場を2024年4月から着工している。ここでは、先行して建屋を建設し、今後の需要動向を慎重に見極めながら、製造装置の設置などの投資判断を段階的に行っていくことになる。
さらに、ソニーセミコンダクタソリューションズが少数株主として参加するJASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)では、熊本県内で第1工場が稼働しており、第2工場の建設が進められている。
半導体工場の運営においては、地域経済に及ぼす影響が大きい。
日本の半導体拠点の集積地のひとつとなる熊本でも、経済的な観点から地域の活性が期待される一方で、大量の水や電力を使用すること、工場の稼働に伴い、通勤時間帯に周辺に大規模な渋滞が発生したり、就労人口の増加によって地価が高騰したりといった課題も生まれている。
ソニーセミコンダクタソリューションズは、2001年以降、熊本における「地域共生」を第一に、地元とのコミュニケーションを重ね、信頼関係の構築に努めてきた経緯がある。
たとえば、同社では、熊本県での地下水の保全に取り組む水涵養事業を2003年から実施しているほか、2016年の熊本地震で被災した熊本テックの復興や、地域の復興支援においても、自治体や関連団体などと緊密に連携してきた経緯がある。
だが、昨今の半導体需要の高まりによって、これまで以上の緊密な連携が必要になっているのも事実だ。
ソニーセミコンダクタソリューションズでは、「九州半導体・デジタルイノベーション協議会(SIIQ)」に会長会社として参画し、オープンイノベーションやモノづくり深化事業、コトづくり関連事業のほか、人材育成関連事業をスタートし、半導体産業の成長に伴う不安の解消に取り組んでいるほか、2025年2月に発足した「くまもと半導体グリーンイノベーション協議会」にも参画。半導体技術の進化によって、熊本から持続可能な産業の発展と、安心安全で豊かな社会の実現に貢献することを目的として活動を行うことになる。さらに、半導体産業における人材育成においては、地元大学研究室との共同研究や大学での講義、高専での出前授業、高校生向けの工場見学など、さまざまな取り組みを行っている。
今回の特別演奏会も、地域新興と地域貢献の一環として行われたものであり、熊本に根を下して、事業活動を推進するソニーセミコンダクタソリューションズにとって、重要な取り組みのひとつといえるものになる。

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