京大、テラヘルツ波の照射で超伝導体の臨界電流を制御できることを実証

2024年5月28日(火)18時44分 マイナビニュース

京都大学(京大)は5月27日、直流電流の流れている超伝導体にテラヘルツ波(周波数0.1〜3THz帯の電磁波)を照射することにより、「臨界電流」(これを超えると超伝導が保持できなくなる)を制御できることを実証したと発表した。
同成果は、京大 化学研究所の関口文哉 特定助教(現・東京大学特任助教)、同・金光義彦教授(現・特任教授)、同・廣理英基准教授、同・小野輝男教授、同・成田秀樹特定助教らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
超伝導の特徴といえば、「ピン留め効果」と合わせて磁石を空中に浮かせられるとして科学実験などでもよく披露される「マイスナー効果」が有名である。そのほかにも複数の特徴があるが、中でも最大の特徴は、抵抗がゼロの状態で電流を流せることだろう(超伝導電流)。仮にヒトが暮らすような温度の中で超伝導電流を実現できれば、現状のような大規模な冷却装置は必要がなくなる。その結果として、送電網での電力ロスをなくせたり、電気・電子機器などの電力消費を大幅に抑えられたりするなど、エネルギーの革命を起こせる。しかし残念ながら、超伝導は今のところ、通常の大気圧の条件下では、室温では実現されていない(高圧条件下では実現されている)。
さまざまな物質で超伝導が実現されているが、どの超伝導体にも臨界電流が存在し、その値を超えると材料は超伝導状態を保持できず、有限の抵抗が現れてしまう。つまり、直流電流下での超伝導状態が破壊されるメカニズムを理解することは、超伝導マグネットのケーブルや粒子加速器の超伝導マイクロ波共振器、可視光・赤外線・テラヘルツ光に対する高い感度を持つ光子検出器など、科学実験のための各種機器を開発する上でも大変重要とされる。
また最近では、人工超格子構造によって対称性が破れた超伝導体は、臨界電流が電流の正負に応じて異なるという超伝導ダイオード特性が京大 化学研究所で発見されており、電流誘起の超伝導状態の破壊に関する理解が基礎的な観点からも大変重要な課題と考えられている。しかし、これまでダイオード効果を発現する超伝導体の電流誘起破壊の実験は直流電流が用いられて行われており、高速な電流応答、特に超伝導ギャップと同じエネルギースケールであるテラヘルツ周波数帯における振る舞いは未知の領域だったとする。そこで研究チームは今回、人工超伝導超格子に直流電流印加とテラヘルツ波励起を同時に行い、その相互作用に関する実験的研究を行うことにしたという。
今回の超伝導体を高強度のテラヘルツ波によって駆動する実験を行うため、まず低温・磁場・電流印加下でテラヘルツ分光を行う測定系が構築された。そして実験が実施され、その結果、直流電流の流れている超伝導体にテラヘルツ波が照射されると、臨界電流が大きく変化する様子が観測されたとする。特に、超伝導ギャップよりも低いエネルギーのテラヘルツ波が照射された場合、テラヘルツ電場の向きに敏感な臨界電流の減少が生じ、テラヘルツ波のような低エネルギーフォトンの偏光状態を検出できることが示されたとした。
さらに、テラヘルツ波照射下で超伝導体の電流-電圧特性の詳細な調査が行われた。すると、一度破壊された超伝導が臨界電流より大きな電流下で再び出現するという特異な振る舞いが観測されたという。この直流電流に対し、この非単調な超伝導の破壊現象を説明するためのシミュレーションが行われた。その結果、テラヘルツ電流によって駆動される超伝導体内の磁気渦糸(超伝導電流が渦のように流れている状態)のダイナミクスによって、理解できることが突き止められたとした。
今回の研究により、人工超伝導超格子にテラヘルツ波を照射すると、その臨界電流がテラヘルツ波の偏光や波長、強度に対して劇的に変化することが解明された。直流電流とテラヘルツ波照射によって流れる電流の相互作用によって現れる非単調な超伝導/常伝導状態のスイッチング動作は、赤外光やマイクロ波、テラヘルツ光など、低エネルギー光子を検出するための新しい光検出器や、超伝導量子ビットの操作といった、新たな超伝導量子エレクトロニクス技術をもたらすことが期待されるとしている。

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