理研など、80年以上未確認だった魚類の嗅覚警報物質を発見
マイナビニュース2024年3月4日(月)6時15分
理化学研究所(理研)と東京大学(東大)は2月29日、傷ついた魚の皮膚から放出され、周囲にいる仲間の魚に危険を知らせる「嗅覚警報物質」を発見したことを発表した。
同成果は、理研 脳神経科学研究センター システム分子行動学研究チームの増田美和テクニカルスタッフI(研究当時)、同・吉原良浩チームリーダー、東大大学院 農学生命科学研究科の伊原さよ子 助教、同・東原和成 教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、ヒトを含めた生物に関する全般を扱う学術誌「Current Biology」に掲載された。
外界や敵、仲間に関する情報を嗅覚で得ている生物は多い。魚類の場合は、傷ついた皮膚から水中に放出される何らかの物質が警報シグナルとして機能し、近くにいる仲間に危険を伝えて、忌避行動を取らせることが知られているが、その警報物質の精製・同定には至っていなかった。そこで研究チームは今回、モデル生物のゼブラフィッシュを用いて、嗅覚警報物質が忌避行動を引き起こす時に活性化される嗅覚受容体と嗅覚神経回路に着目し、警報物質の精製・同定に挑むことにしたという。
ゼブラフィッシュの嗅覚忌避行動を目的とした詳細解析として、皮膚抽出物を調製し、同魚の別固体が泳いでいる水槽に投与したところ、高速遊泳、フリーズ、水底での滞在など、特徴的な行動が観察されたという。また、鼻腔の奥にあり、匂い分子・フェロモン分子を感知する「嗅細胞」が並んでいる上皮組織である「嗅上皮」を除去すると、それらの行動は観察されなくなったともしており、ゼブラフィッシュは、皮膚抽出物中に含まれている何らかの警報物質を嗅覚系が感知することで、強い忌避行動が引き起こされることが示されたとする。
そこで、皮膚抽出物によって活性化される嗅覚神経回路の解析を実施。嗅細胞で受容された匂い情報は、嗅覚系の一次中枢である「嗅球」という脳領域内の特定の「糸球体」へと伝えられ、匂い分子の構造をもとにした「匂い地図」として嗅球上に表現されることを踏まえ、皮膚抽出物によって活性化される糸球体の同定が試みられたところ、「背側(はいそく)糸球体前方部」(dGa)、「外側(がいそく)糸球体4」(lG4)、「腹側(ふくそく)後方糸球体2」(vpG2)という3つの糸球体が活性化することが判明したという。
また、キンギョとメダカの皮膚抽出物をゼブラフィッシュの水槽に投与し、その行動の変化と糸球体の活性化を調べたところ、キンギョのものでは中程度の忌避行動が、メダカのものでは非常に弱い忌避行動が示されたという。さらに、キンギョのものはlG4とvpG2糸球体を、メダカのものはvpG2糸球体だけを活性化させることも判明。これらの結果から、強い忌避行動を引き起こすには、dGaとlG4糸球体両方の活性化が必要であることがわかったと研究チームは説明している。
これらの結果を踏まえ、ゼブラフィッシュの皮膚抽出物のdGaとlG4の両方を活性化させる物質の生化学的精製と構造決定が行われたところ、dGa活性化物質は新規の「硫酸化胆汁アルコール」、lG4活性化物質はこれまで機能不明だった「プテリン誘導体」であることが判明したという。
これを受け、さまざまな魚種で両化合物の存在調査が行われたところ、dGa活性化物質はゼブラフィッシュとパール・ダニオという魚種に特異的であったことから、「硫酸化ダニオール」と命名されたとするほか、lG4活性化物質はゼブラフィッシュのほか、キンギョ、コイ、ドジョウ、ナマズなど、淡水魚の約7割を構成する「骨鰾(こっぴょう)上目」共通で存在するプテリン誘導体であることを踏まえ「オスタリオプテリン」と命名されたとする。ただし「棘鰭(きょくき)上目」に属するメダカはどちらも持っておらず、dGaとlG4糸球体がメダカ皮膚抽出物によって活性化されなかった理由も判明したとしている。
このほか両化合物が有機合成され、それらのゼブラフィッシュの行動への影響を観察したところ、硫酸化ダニオール単独では、行動の変化はほぼないが、オスタリオプテリンは高濃度において、弱いながらも有意な忌避行動を引き起こしたとするほか、両化合物の混合物を水槽に投与すると、ゼブラフィッシュは強い忌避行動を示したことも確認されたとする。
これらの結果から研究チームでは、嗅覚警報反応を引き起こすには、傷ついた魚の硫酸化ダニオールとオスタリオプテリンがdGaとlG4の糸球体を同時に活性化することが重要であることが示されたとしている。また、硫酸化ダニオールは「仲間の存在を知らせるシグナル」、オスタリオプテリンは「危険を知らせるシグナル」であり、両者の情報が合わさることで、ゼブラフィッシュは仲間が危険な状況にあることを感知できるようになると考えられるとした。
なお、今回の研究成果は魚類のみならず、脊椎動物に共通な嗅覚忌避行動や社会コミュニケーションにおける嗅覚の役割の全体像解明につながることが期待されると研究チームでは説明している。また、硫酸化ダニオールとオスタリオプテリンが同時に存在する時だけ、ゼブラフィッシュは強い忌避行動を現すことが突き止められたことを踏まえ、このような警報物質と魚種特異的フェロモンを組み合わせて利用することで、特定の魚種の行動の制御が可能になるだろうともしており、例えば漁業や外来魚駆除などに応用できれば、自然環境と生態系の保護を目指した、さらなる研究への展開が期待されるとしている。
同成果は、理研 脳神経科学研究センター システム分子行動学研究チームの増田美和テクニカルスタッフI(研究当時)、同・吉原良浩チームリーダー、東大大学院 農学生命科学研究科の伊原さよ子 助教、同・東原和成 教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、ヒトを含めた生物に関する全般を扱う学術誌「Current Biology」に掲載された。
外界や敵、仲間に関する情報を嗅覚で得ている生物は多い。魚類の場合は、傷ついた皮膚から水中に放出される何らかの物質が警報シグナルとして機能し、近くにいる仲間に危険を伝えて、忌避行動を取らせることが知られているが、その警報物質の精製・同定には至っていなかった。そこで研究チームは今回、モデル生物のゼブラフィッシュを用いて、嗅覚警報物質が忌避行動を引き起こす時に活性化される嗅覚受容体と嗅覚神経回路に着目し、警報物質の精製・同定に挑むことにしたという。
ゼブラフィッシュの嗅覚忌避行動を目的とした詳細解析として、皮膚抽出物を調製し、同魚の別固体が泳いでいる水槽に投与したところ、高速遊泳、フリーズ、水底での滞在など、特徴的な行動が観察されたという。また、鼻腔の奥にあり、匂い分子・フェロモン分子を感知する「嗅細胞」が並んでいる上皮組織である「嗅上皮」を除去すると、それらの行動は観察されなくなったともしており、ゼブラフィッシュは、皮膚抽出物中に含まれている何らかの警報物質を嗅覚系が感知することで、強い忌避行動が引き起こされることが示されたとする。
そこで、皮膚抽出物によって活性化される嗅覚神経回路の解析を実施。嗅細胞で受容された匂い情報は、嗅覚系の一次中枢である「嗅球」という脳領域内の特定の「糸球体」へと伝えられ、匂い分子の構造をもとにした「匂い地図」として嗅球上に表現されることを踏まえ、皮膚抽出物によって活性化される糸球体の同定が試みられたところ、「背側(はいそく)糸球体前方部」(dGa)、「外側(がいそく)糸球体4」(lG4)、「腹側(ふくそく)後方糸球体2」(vpG2)という3つの糸球体が活性化することが判明したという。
また、キンギョとメダカの皮膚抽出物をゼブラフィッシュの水槽に投与し、その行動の変化と糸球体の活性化を調べたところ、キンギョのものでは中程度の忌避行動が、メダカのものでは非常に弱い忌避行動が示されたという。さらに、キンギョのものはlG4とvpG2糸球体を、メダカのものはvpG2糸球体だけを活性化させることも判明。これらの結果から、強い忌避行動を引き起こすには、dGaとlG4糸球体両方の活性化が必要であることがわかったと研究チームは説明している。
これらの結果を踏まえ、ゼブラフィッシュの皮膚抽出物のdGaとlG4の両方を活性化させる物質の生化学的精製と構造決定が行われたところ、dGa活性化物質は新規の「硫酸化胆汁アルコール」、lG4活性化物質はこれまで機能不明だった「プテリン誘導体」であることが判明したという。
これを受け、さまざまな魚種で両化合物の存在調査が行われたところ、dGa活性化物質はゼブラフィッシュとパール・ダニオという魚種に特異的であったことから、「硫酸化ダニオール」と命名されたとするほか、lG4活性化物質はゼブラフィッシュのほか、キンギョ、コイ、ドジョウ、ナマズなど、淡水魚の約7割を構成する「骨鰾(こっぴょう)上目」共通で存在するプテリン誘導体であることを踏まえ「オスタリオプテリン」と命名されたとする。ただし「棘鰭(きょくき)上目」に属するメダカはどちらも持っておらず、dGaとlG4糸球体がメダカ皮膚抽出物によって活性化されなかった理由も判明したとしている。
このほか両化合物が有機合成され、それらのゼブラフィッシュの行動への影響を観察したところ、硫酸化ダニオール単独では、行動の変化はほぼないが、オスタリオプテリンは高濃度において、弱いながらも有意な忌避行動を引き起こしたとするほか、両化合物の混合物を水槽に投与すると、ゼブラフィッシュは強い忌避行動を示したことも確認されたとする。
これらの結果から研究チームでは、嗅覚警報反応を引き起こすには、傷ついた魚の硫酸化ダニオールとオスタリオプテリンがdGaとlG4の糸球体を同時に活性化することが重要であることが示されたとしている。また、硫酸化ダニオールは「仲間の存在を知らせるシグナル」、オスタリオプテリンは「危険を知らせるシグナル」であり、両者の情報が合わさることで、ゼブラフィッシュは仲間が危険な状況にあることを感知できるようになると考えられるとした。
なお、今回の研究成果は魚類のみならず、脊椎動物に共通な嗅覚忌避行動や社会コミュニケーションにおける嗅覚の役割の全体像解明につながることが期待されると研究チームでは説明している。また、硫酸化ダニオールとオスタリオプテリンが同時に存在する時だけ、ゼブラフィッシュは強い忌避行動を現すことが突き止められたことを踏まえ、このような警報物質と魚種特異的フェロモンを組み合わせて利用することで、特定の魚種の行動の制御が可能になるだろうともしており、例えば漁業や外来魚駆除などに応用できれば、自然環境と生態系の保護を目指した、さらなる研究への展開が期待されるとしている。
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