バーチャルでも日本最速へ。宮田莉朋のシミュレーターライフが思わぬオファーに繋がる
2021年、スーパーGT GT500クラスではTGR TEAM WedsSport BANDOHから、全日本スーパーフォーミュラ選手権ではKuo VANTELIN TEAM TOM’Sから参戦する宮田莉朋。両カテゴリーで活躍をみせ、いまや日本のトップドライバーのひとりに成長した宮田だが、実はバーチャルの世界でも日本のトップ、そして世界で戦う存在となりつつある。リアルとバーチャルの興味深い関係について宮田に聞いた。
宮田は1999年神奈川県逗子市出身。全日本カートで華々しい成績を残し、2015年に四輪にステップアップ。2016年〜17年は史上初のFIA-F4連覇を飾り、2017年から参戦していた全日本F3選手権/スーパーフォーミュラ・ライツでは、2020年に悲願のチャンピオンを獲得。いまやトップドライバーのひとりとして、日本の最高峰カテゴリーで活躍している。
そんな宮田だが、2020年からサーキットで会うたびに「ヤバいんですよ」と立ち話で語っていた。何がヤバいかと言えば、ドライビングシミュレーターにどっぷりハマり、夜まで止められない……というもの。何がそれほどまでに宮田をかき立てるのか。そのシミュレーターバカぶり(褒め言葉)を聞いてみた。
幼少期からレーシングカートを戦っていた宮田は、小さい頃から両親に購入してもらったプレイステーション1を所有していたのだという。『グランツーリスモ』も初代から楽しみ、小学3年生で初めてハンドルコントローラーを買ってもらった。「もうメチャクチャ楽しくて。変な話ですが、カートの頃から応援してくださる企業さんもいらっしゃったのですが、挨拶も行きたくなくなるくらいでした(苦笑)」とのめりこんでいく。
プレイステーション3でオンライン対戦ができるようになり、リアルでレーシングカートを戦っている仲間たちとオンラインで対戦。グランツーリスモ内にもカートが入り、こちらもエンジョイ。グランツーリスモSPORTまでずっと楽しんできたという。
そんな宮田が、いわゆる家庭用ゲーム機ではない『ドライビングシミュレーター』を初めて体験したのは、中学3年生のとき。砂子塾長が東京都内で運営する『東京バーチャルサーキット』でトライしたが、「何かイメージと違った」としばらくはシミュレーターからは遠ざかった。しかしFIA-F4に参戦するにあたり、「実車に乗れないなら練習しなきゃ」と思っていたところ、「阪口晴南の家にはもうシミュレーターあるらしいよ」と現在もライバル関係にある阪口が“先行”していることを聞く。
そこで、ドライビングシミュレーターショップ『130R YOKOHAMA』を運営する織戸学がシミュレーターを販売しているという話を人づてに聞き、「一度やってみて、気に入ったら買おう」と織戸のもとに出向き、見積もりを依頼した。それが15歳のころ。最終的に購入に至り、父の会社の事務所にシミュレーターを置き通うようになったが、「F4が入っていなかったので、サーキットに慣れるだけになってしまいました」となる。
宮田がFIA-F4にフル参戦しはじめた2016年、ZAP SPEEDのシミュレーターにF4のモデルとサーキットが入っており、そこに高校の放課後に通い詰めはじめた。「当時はまだレーシングカートも参戦していたので、カートと四輪をうまく乗りこなすために、空いている時間にシミュレーターで乗るようにしました」と宮田。
当時、壁には「誰がこのサーキットでトップだったか」を示すタイムが貼られていた。各サーキットのトップは、FIA-F4の初代チャンピオンで、宮田にとって先輩にあたる坪井翔の記録。「これは負けていられないな」と宮田は1日で坪井の富士の記録を更新。「レースでも活かせるし、極めてやろう」と他のサーキットでも更新しようとやっていくうちに、「シミュレーターバカになりました(苦笑)」とハマっていった。
■コロナ禍でiRacingにハマる。「健康的な一日を過ごせてます」
ここまで宮田が使っていたドライビングシミュレーターのソフトは『rFactor』。しかし、現在宮田がハマっているのは『iRacing』だ。2019年に全日本F3でチャンピオンを争ったサッシャ・フェネストラズがiRacingをやっているのを聞き入会したのがはじめだが、「最初は入れるだけ入れてみるか」とゲーム用のPCにインストールしたものの、それほど試したわけではなかったという。
そんななか、2020年に新型コロナウイルスの感染拡大により、春先のレースが相次いで延期されてしまう。自宅で過ごす日々が続くが、2019年にAudi Team HitotsuyamaでともにWTCRに参戦した富田竜一郎から「やろうよ」と声をかけられた。そこでコロナ禍で品薄だったものの、シミュレーター用の筐体など機材もそろえ本格的にスタートさせた。
「グランツーリスモはレースができるので、レース感覚を鈍らせないようにやってきたんです。ただリアルなサーキットが少ないのと、挙動の面で実車に活かせるところが少し足りませんでした。シミュレーターはF3やGTになると、MOD(改良データ)がないんですよね。作れる人に頼んで自分がテストしなければならない。でもその時間はなかったんです」と宮田。
「コロナ禍のなかでiRacingをはじめましたが、実車に似ている。日本のコースが全部あるわけではないですが、自分の役に立つと思いました。そこからずーっとやっている感じですね」
現在、宮田の自宅にはグランツーリスモ用のシートとiRacing用のシートが用意されている。グランツーリスモ用はプレイシートF1とスラストマスターT-GTを使用する。シミュレーター用には、長谷川工業の『ドラポジ』を購入。モーターやペダルなどはファナテック製を使用。ステアリングは「変にこだわって」イタリアのキューブコントロール社のものを購入した。「全部で50〜60万円くらいかかりました」という。
コロナ禍のなか、「ずっと富田さん、菅波(冬悟)さんは固定で、プラスアルファで野尻(智紀)さんが加わったり。富田さん主催で部屋を立てたら(福住)仁嶺が来たりします」と日本のドライバー内で切磋琢磨しながら、「レースは1時間に一度くらいしかないんですが、朝8時くらいから始めて、22時くらいまでやっていました」とシミュレーター漬けの日々が続く。
「2020年で言うと、F3のレースしか出ていなかったのですが、8時15分から始まって9時前に終わるんです。次のレースは10時15分で、偶数時間にレースがあるんです。最初のレースで勝ったり結果が良ければ何もせず、ご飯を作ったり洗濯したりしますが、何か気に食わないことがあったら、次のレースまでにセットアップしたりしていました。1日10レースするかな……という感じで、その度に富田さんを誘ってました(笑)」
2021年になってからは、「時間としては短くなっています」という。現在はGT3のレースを中心に出場しているが、セットアップ変更可、変更不可のレースを連続して戦うなど、時間は短くなってもレース数はそこまで変わらず。いろいろな意味で少々心配になるレベルだが、「健康的な一日を僕は過ごせていると思うんです」と宮田は断固(?)主張する。
「朝9時からやろうと思うと、8時20分に起きるんです。まずは愛犬の世話をして、ゴミ出しをして、顔洗って歯を磨いて準備運動をして、一度レースしている間に洗濯機をまわして、次のレースまでの間に洗濯物を干して……という感じです」
「あとは、実際のレースでのミーティングも希望の時間を出していて、例えば15時からリモートでミーティングがあるとすると、ヨーロッパ時間までの間にうまく使えるんです。シミュレーターバカですけど(笑)、一日のプランは前の何もない時に比べると快適に過ごせています。自分のためになっている一日が過ごせているんです」
■趣味が極まり日本一へ。さらに思わぬところからのオファーが
2021年、スーパーフォーミュラ第3戦SUGOから、スーパーGT第4戦ツインリンクもてぎまで少しインターバルがあった。その間に宮田には「世界ランキングで100位以内に入ってやろうと思ったんです」という野望が芽生えた。
iRacingでは、レースに出場し結果を収めればレートがつく。出場しているコース、また集まるドライバーのレベルによってもらえるレートが異なるのだが、2週間の間でどう取り組めばレートが上がるかのプランを立て、「その頃はさすがに自分もヤバかったのですが、朝9時から夜21時までやってました」と“レベル上げ”に励んでいった。難しいのは時差で、日本時間の日中は欧米のトップランカーが集まらず、うまくレートが稼げない。
とはいえ、なんとか世界ランクも77位と100位以内を達成。さらに日本でも1位に輝いた(その後もてぎ後に日本では2位に。この取材をした7月28日時点は世界83位)。ちなみに、有名どころではマックス・フェルスタッペンが33位、インディカーで活躍するアレックス・パロウは63位だ。「日本はモータースポーツが盛んですが、その割に平均的にランキングが低いですね。僕のレートでも、イギリスなどヨーロッパ圏では20位に入れるかというくらいハイレベルです」と宮田。
こうしてiRacingのレベル上げにハマっていた宮田だが、これが思わぬ効果を生んだ。なんと、ドイツのeスポーツチームである『BSプラス・コンペティション』というチームのオーナーから、プロとしてオファーが舞い込んだのだ。
このチームのオーナーはBMWモータースポーツの広報も運営しており、2019年のスーパーGT×DTM特別交流戦も観に来たのだという。iRacingのランキングを見たオーナーから「速い日本人がいる」と、日本人メディアを通じて宮田にオファーをしたのだ。チームには、ブルーノ・シュペングラーやアウグスト・ファーフス、フィリップ・エングなど、リアルドライバーも所属している。レースでは必然的にBMWを使用しなければならないが、もともとiRacingには日本車がない。
さらにチームには、TOYOTA GAZOO Racingヨーロッパでエンジニアを務めている人物がおり、ボイスチャットで頻繁に交流しているのだという。
「海外でレースを戦うには英語が必要になりますが、今はコロナ禍で英会話も少し行きづらいですよね。だからオンライン英会話をやっているのですが、このiRacingだとタダで、しかもレースで使う英会話を学べるんです。さらに、セットアップもヨーロッパの最先端のものが学べるんです。すごく実になっています」と宮田は言う。
「リアルな若手ドライバーも多くいますし、例えばスーパーフォーミュラ・ライツは予算がいくらあればできるのか? なんて会話もしています。今のところ、僕にとっては役に立つことしかないですね。またチームオーナーがもともとプロモーションの会社なので、シミュレーターのレースも主催者側になっているときもあるんです。企画も上手だと思います」
ヨーロッパではeスポーツも盛んで、フェルスタッペンを擁するチームレッドライン、ウイリアムズeスポーツチーム、ロマン・グロージャン率いるR8G Eスポーツなど強豪が存在し、iRacingで速いドライバーの“引き抜き”も盛んなのだとか。今回宮田が所属するBSプラス・コンペティションも強豪のひとつだ。ひょっとすると、リアルよりバーチャルの世界で先に“RITOMO MIYATA”の名がヨーロッパで有名になるかもしれない。
まだまだチーム内のポジションは高くはないが、「これは自己満足かもしれませんが、夜中にボイスチャットに入って、ブルーノ・シュペングラーとレースをして、名前を覚えられてメッセージを送り合っている今がいちばん嬉しいです(笑)」と宮田。「たぶん向こうもスーパーGTに出ているトヨタのドライバー……くらいしか認識していないと思いますけどね」というが、世界トップレベルと渡り合っている状況だ。
「シミュレーターをやりながら、ヨーロッパのトップのエンジニアリングやGT3のクルマづくりなど、活きるものをお互い共有できているんです。すごく役に立っています。リアルでも、例えばすぐにヨーロッパに行っても走れると思います」と宮田。
いまや「趣味ではなくなってきていますね」と宮田は言う。すでにBSプラス・コンペティションの一員としてレースにも出場した。リアルでもバーチャルも、活躍から目が離せなさそうだ。
●宮田が出場したBMW SIM GT Cupのイモラ戦。91号車の後半パートを担当した。
https://www.twitch.tv/videos/1104810019
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