ヴィジュアル系“レジェンド”として、LUNA SEAがバンドマンから愛される理由
(冬将軍:音楽ライター)
90年代から現在までの、
ヴィジュアル系ロックの代名詞
スピード感のあるアップテンポの楽曲。激しめのギターリフのイントロで始まるが、歌に入ればどこか淡々としたクールなボーカルライン。そこからサビに向かって盛り上がっていき、泣きメロのサビへ。昂揚した盛り上がりはそのままに、ドラマチックなギターソロへと突入していく——。
文字にすると一見情報過多のように思えるが、想像してみれば実にヴィジュアル系っぽい曲に思えないだろうか。
“侘び寂び”の概念をより顕著に表し、雑食性と多様性をオリジナリティとして昇華していく日本ならでは業というべきもの。海外で生まれたロックは日本において独自の発展を遂げた、それがヴィジュアル系の音楽なのである。そんな現代にも続いている、音楽としてのヴィジュアル系の象徴にもなった楽曲がある。LUNA SEA「ROSIER」(1994年)だ。
私は著書『知られざるヴィジュアル系バンドの世界』(星海社新書)において、“ヴィジュアル系っぽい音楽要素“を5つ挙げ、その代表曲のひとつとして「ROSIER」を選んだ。BOØWYとBUCK-TICKが確立した、退廃美の世界観と刹那的な歌詞が織りなすビートロック要素に加え、“緩急のついたドラマティックな楽曲展開”で魅了したのだ。
同書では、以下のように書き記している。
クールな平歌から一気に駆け上がるサビ、セリフ混じりの間奏から炸裂するギターソロ、ハーフダウンっぽくひと息ついたかと思えばそのまま2番へ。ラストはこれでもかというほど捲し立てていくサビ……。刹那的な詞、退廃美の世界観、慟哭性のあるマイナーメロディに加え、ロックバンドとしてのアンサンブルのカッコよさがこれでもかというほど注ぎ込まれた、一切隙のない楽曲だ。速弾きや変則的な超絶技巧のような個人プレイを用いらず、バンドが一体となるスリリングなアレンジによって、キャッチーさを生み出すという手法だ。
声量豊かで、ニヒルな低音から伸びやかな高音まで突き抜けていくRYUICHIの歌はもちろん、咽び泣くようなロングトーンのSUGIZOのギターソロ、“WAKE UP! MOTHER FUCKER”なパンキッシュで男臭いJのベース。間奏の英詩セリフまでカラオケで歌う男性ファンは数えきれない。重心を低めに取りながらも緻密なリズムを刻んでいく真矢のドラム、寡黙にアンサンブルの平衡を取っていくINORAN……5人それぞれの見せ場があり、各々の魅力がよくわかる、そんな楽曲が「ROSIER」である。LUNA SEAの代表曲になったと同時に、同曲が持つ緩急を持ったドラマティック性が、ヴィジュアル系ロックの代名詞となっていった。
LUNA SEAというバンドは不思議だ。ステージから放たれるモノは、音だけではない。密度の高いエネルギー、圧倒的な存在感を放つオーラというべきだろうか。目に見えぬ塊のようなものを身体に感じるのである。そして、綿密に練り上げられたアレンジの構築美に呑み込まれていく。
しかしながら、高度なテクニックというわけではなく、
SUGIZOとINORANという新しいツインギター
「初めて手にしたギターはINORANモデルだった」「初めて手にしたベースはJモデルだった」という人は多い。90年代に最も売れたギターとベースは、フェンダーでもギブソンでもなく、ESP(エドワーズ、グラスルーツといった廉価ブランド含む)のLUNA SEAシグネチャーモデルだったと言われたほどである。
SUGIZOは華麗なギターソロをとってみれば、ハードロック&メタル影響下を感じるが、コードワークやサウンドメイクはニューウェイヴな香りもするし、バイオリンだって弾く。坂本龍一、マイルス・デイヴィス、フランク・ザッパ……敬愛するアーティストの幅の広さを含めて、今まで見たことのない新しいギターヒーローだった。方やINORANはクリーントーンのアルペジオを武器に、LUNA SEAの退廃的でもあり神秘性を深めていく存在だ。そんな2人が織りなすツインギターは、従来のロックバンドとは異なるスタイルだった。
ツインギターといえば、リードとリズムという役割が一般的だった。通常のツインギターを1人のギターでリアレンジするのは可能だが、LUNA SEAのコピーバンドをやるとなったら、絶対にギタリストが2人いないと再現不可能なのである。BOØWYの布袋寅泰はギター1本でさまざまなサウンドを奏で、最小限編成ロックバンドの硬派なギタリストの存在を掲げたが、LUNA SEAはツインギターでしか成し得ない音楽と世界観を示したのである。
ギターソロは基本SUGIZOが弾くことが多いが、SUGIZOがリードで、INORANがリズムかといえばそういうわけでもない。2人のプレイスタイルもサウンドもまったく違うために、その役割を明確に分けること自体が不可能、いや、不要なのである。
ヴィジュアル系ロックバンドにツインギターが多く、リードとリズムといった概念も存在していないことが多いのは、LUNA SEAの影響が大きいからであろう。
バラバラの5人によるせめぎ合い
LUNA SEAの音楽性を説明するのは難しい。1991年、1stアルバム『LUNA SEA』はX JAPANのYOSHIKIの主宰するエクスタシーレコードからリリースされた。Xの1stアルバム『VANISING VISION』(1988年)の3倍もの宣伝費が掛けられたというのだから、エクスタシーがLUNA SEAにどれほどの力を入れていたのかがわかる。
そうした出自ゆえにLUNA SEAは「Xの弟分」と称されたこともあった。しかし、ハードながらもメタルとは異なるソリッドさを持ったサウンドと、鬼気迫る精神性は師弟関係にあったAIONに、耽美的なリリシズムはDEAD ENDに近いものだった。
アルバム『LUNA SEA』の奇抜な髪型と妖艶なメイクを施したアーティスト写真を用いたジャケットと、メタルでもロックンロールでもビートロックでもない、従来のロックバンドの枠に収まりきらない音楽は、当時のレコードショップがどの棚に陳列すればよいのか迷ったという逸話もあったくらいだ。“インディーズ”というものはまだ一般的ではなく、J-POPがまだ“歌謡曲/ニューミュージック”と呼ばれていた時代である。
1992年にメジャーデビューを果たしたアルバム『IMAGE』はオリコン初登場9位、メジャーにおける快進撃が始まった。セルフプロデュースを貫き、タイアップ至上によるヒットソング隆盛の時代に、シングル「TRUE BLUE」はノンタイアップでオリコン1位を獲得する。当時の日本の音楽シーンで完成されつつあった「Aメロ⇒Bメロ⇒サビ」という明確な楽曲構成、J-POPセオリーを用いない楽曲からもLUNA SEAの美学を感じることができる。
LUNA SEAの音楽はメンバー5人のせめぎ合い、その危うさにある。「個性ある5人」といった単純なものではない。お互いを探るかのように張り巡らされた緊迫感から生まれるものだ。1997年からのバンド充電休止期間に展開された各ソロ活動は音楽嗜好も方向性もバラバラで、むしろ共通項を見つけることすら困難であり、5人が同じバンドにいることが不思議なくらいだった。
そして、RYUICHIの“河村隆一”としての活躍は、そのポップさゆえに古くからのファンからの反発もあったことも事実。しかしながら、河村隆一としてのソロアルバム『Love』(1997年)は男性ソロアーティストのアルバム売上歴代1位という快挙を成し遂げている(2023年現在もこの記録は破られていない)。その成功がLUNA SEAの存在をさらに大きいものにしたことは言うまでもないだろう。
ヴィジュアル系の“レジェンド”として
90年代後半は「ヴィジュアル系」がお茶の間まで広く浸透し、ブームとなった。それを牽引していたのは紛れもなくLUNA SEAだった。そんな彼らであったが、2000年12月東京ドーム公演『LUNA SEA THE FINAL ACT TOKYO DOME』を以て終幕。以降、ヴィジュアル系ブームは沈静化し、氷河期と言われる時代に突入した。もちろんブームが終息した原因はひとつではないが、LUNA SEAの終幕がシーンに大きな影響を与えたことは間違いないだろう。
“ヴィジュアル系氷河期”とも呼ばれた2000年代は「昔、ヴィジュアル系を聴いていた」ことを公言することがどこか恥ずかしいとされていた時代だった。ただこの頃の新進気鋭のバンドの多くはジャンルを問わず、LUNA SEAがロックの初期衝動であり、LUNA SEAのシグネチャーモデルでギター&ベースを始めた者が世代的にも多かった。しかし、それを表立って口にすることはなく、ただの楽屋話になっていたのである。
そういった風潮を打破したのは、LUNA SEA自らであった。2007年12月24日、東京ドーム『GOD BLESS YOU 〜One Night Déjàvu〜』にて、一夜限りの復活を果たしたのだ。
この奇跡の復活は、ファンのみならず多くのアーティスト、バンドマンを歓喜させ、「昔、LUNA SEAを聴いていた」ことをカミングアウトする非ヴィジュアル系バンドマンが多くいた。それ以降、堰を切ったように多くの音楽ファンがLUNA SEA好きを公言するようになった。このことは、ヴィジュアル系シーン全体の再評価に繋がっていくことになる。
2010年「REBOOT」、活動再開を宣言。海外を含めた精力的な活動は、ヴィジュアル系のレジェンドとしての地位を知らしめた。
さらに、自らその影響力を証明するフェスを開催。2015年、2018年に行われたフェス『LUANTIC FEST.』だ。ビジネス的な忖度一切なし、お互いがリスペクトし合うメンツで固められたアクトだった。X JAPAN、AIONといった先輩をはじめ、MUCCにlynch.といったシーンの後輩、そして、9mm Parabellum BulletにTHE ORAL CIGARETTES、Fear, and Loathing in Las Vegas……といった世代とジャンルを超えた面々が、LUNA SEAの影響力の大きさをありありと証明したのだった。
同フェスでは、初期グループ名義の“LUNACY”として、オープニングアクトを務めた。インディーズ時代、東京・町田のライブハウス、PLAY HOUSEでやっていた『黒服限定GIG』を復活させたりもした。現メンバーで初ステージに立った結成記念日5月29日には、インディーズ時代以来約32年ぶりとなった目黒鹿鳴館でライブを行うなど、初心を忘れることのない活動を展開している。
今年2023年10月からは、全国アリーナツアー『LUNA SEA DUAL ARENA TOUR 2023』の開催が決定した。同ツアーは、「ROSIER」「TRUE BLUE」が収録された4thアルバム『MOTHER』(1994年)と5thアルバム『STYLE』(1995年)の再現ライブだ。世間的にはLUNA SEAといえば「ROSIER」「TRUE BLUE」なのかもしれないが、少々マニアライクな視点からみれば、『MOTHER』の1曲目を飾る「LOVELESS」ではないだろうか。フレットレスギター、12弦ギターを巧みに操るロックバンドなど、LUNA SEAの他にはいない。またあのトリプルネックギターを抱えたSUGIZOの勇姿が見られるかと思うと、楽しみで仕方ない。
筆者:冬将軍
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