『トヨタ93C-V』新規定NA“二強”対決の裏で、“旧”トヨタターボCカーが残した功績【忘れがたき銘車たち】

2023年3月15日(水)10時12分 AUTOSPORT web

 モータースポーツの「歴史」に焦点を当てる老舗レース雑誌『Racing on』と、モータースポーツの「今」を切り取るオートスポーツwebがコラボしてお届けするweb版『Racing on』では、記憶に残る数々の名レーシングカー、ドライバーなどを紹介していきます。今回のテーマは、ル・マン24時間レースを戦った『トヨタ93C-V』です。


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 今から30年前の1993年。この年は前年の1992年いっぱいでスポーツカー世界選手権(SWC)が消滅するとともに、1982年から続いてきたグループCカーの時代もいよいよ終わりを迎える……そんな年だった。


 そのため、1992年のル・マンを含むSWCで繰り広げられてきたトヨタTS010対プジョー905の3.5リッターNA新規定Cカー対決も、1993年はル・マン1戦のみという状況だった。


 それだけに衆目は、トヨタとプジョーの総合優勝争いに集まったのだが、実は前年に引き続き、1993年はカテゴリー2(C2)クラスとして、旧規定のターボCカーの出走も認められていた(実際には大排気量NA車などの参戦も可だった)。


 このC2クラスにサード、トラストという当時のトヨタ系チームの手によって出走したのが、トヨタ93C-Vだった。車名こそ93C-Vと名付けられてはいたが、この93C-Vは基本的には91C-Vからの流れを汲み、前年車92C-Vより1993年のル・マンのレギュレーションに合わせてアップデートされた小規模改良版だった。


 搭載された3.6リッターV8ターボエンジンのR36Vについては、基本スペックこそ変わらなかったものの、この年、C2クラスに参戦する車両には、エアリストリクターの装着が義務付けられており、それに対応するためのチューニングがTRDによって行われていた。


 トラストに関しては、前年の全日本スポーツプロトタイプカー選手権(JSPC)向けに軽量化された車両がデリバリーされたため、24時間を走り切るための耐久力を持っていないことが判明。部品を1個単位にまで分解し、強度検討を行いながら、200点を超える点数の対策パーツを製作するという作業をフランス入りしてからも続け、ル・マン向けのモディファイを施していた。


 そして迎えたル・マン本戦。サードはローランド・ラッツェンバーガー、マウロ・マルティニ、長坂尚樹、トラストはジョージ・フーシェ、スティーブン・アンドスカー、エイエ・エルグというドライバーラインナップで、24時間先のチェッカーフラッグを目指した。


 決勝に先立ち行われた予選では、サードは総合10位/クラス4位、トラストが総合12位/クラス6位というグリッドを獲得。名門ヨースト・レーシングが走らせるポルシェ962Cが、規定で定められたリストリクター径が若干大きく有利だったため、予選でこそ上回られてしまったが、決勝ではサードが新規定NAマシンを凌ぐ速さで、早々にヨーストのポルシェを捉え、ポジションを上げる快進撃を見せる。


 そして6時間が経過するころには、トヨタTS010勢の後退などもあり、総合5番手にまで浮上。トラストもそれに続く総合6番手につけていた。


 その後、サードにドアが開いてしまうトラブルやバッテリーの過充電、オイルキャッチタンクの破損などの細かいトラブルが起きたものの、ほぼタイムロスのないかたちで修復を完了させ、総合5番手という順位を確固たるものにするペースでチェッカーを目指していった。


 一方のトラストも大きなトラブルに見舞われなかったのは同様で、一時ライバルのポルシェにかわされる場面もあったが、14時間を経過するころにはサードに続く総合6位につけ、周回を重ねた。


 そして最後までその順位が基本的に揺らぐことはなく、サードが総合5位、トラストが総合6位でフィニッシュ。C2クラスでは1-2というリザルトを残したのだった。


 ミッショントラブルに苦しみ、3台中2台完走だったTS010勢の1台を2台ともが上回っただけでなく、サードに至ってはTS010のなかでは最上位だった総合4位の36号車からわずか1周遅れという快走ぶりで、トヨタターボCカーの熟成度具合を見せつけた。


 1992年のル・マンではトラストが総合5位/クラス優勝、そして1993年にはサード、トラストで揃って総合5、6位でチェッカーを受けてクラス1-2。プジョーとトヨタの新規定NA車の対決ばかりに目がいっていたこの2年、トヨタのターボCカーはユーザーチームの力でしっかりと結果を残していた。


 1994年が総合優勝争いを繰り広げるドラマチックな展開だっただけに印象は薄いかもしれないが、トヨタ93C-Vが走った1993年を含む1992年からの2年間の活躍も、トヨタ車がル・マンで残した功績だと言えるだろう。

1993年のル・マン24時間レースで総合6位、クラス2位に入ったニッソー・トラスト・レーシングチームのトヨタ93C-V。ジョージ・フーシェ、スティーブン・アンドスカー、エイエ・エルグの3人がドライブした。

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