欧州で監督を務める可能性のある日本人指導者5選。第1号は誰?

2025年4月24日(木)18時0分 FOOTBALL TRIBE

長谷部誠コーチ(左)森保一監督(中)中村俊輔コーチ(右)写真:Getty Images

日本サッカー協会(JFA)の影山雅永技術委員長が4月7日、アジアサッカー連盟(AFC)と欧州サッカー連盟(UEFA)の指導者プロライセンスの互換化が進んでいることを明かした。UEFAとのライセンス互換が認められる国はAFC内の一部加盟国に限られるが、「日本はその中に入っている」とのこと。早ければ6月にも調印に至るという。


これまで日本人指導者が欧州で監督を務めるには、現地で研修を積み、UEFA Proライセンス取得を目指すしかなかった。しかし今回の互換化が実現すれば、日本でJFA Proライセンスを取得した日本人指導者が欧州で監督を務める可能性が広がる。


その一方、UEFAからはプロライセンスの保持に加え、トップリーグや代表での監督経験が求められているといい、「ライセンスを持っているだけでは十分ではない」ようだ。今後、UEFAとAFCの間で認定基準が話し合われるという。影山委員長はライセンスの互換化について「我々にとっての悲願」と力説。「欧州で指導する日本人指導者の道を作るという取り組みが進んでいるのは非常に好ましい」と前向きに語った。


このニュースは、日本人指導者の欧州挑戦を加速させる画期的な前進だ。この互換により、日本人監督が欧州トップリーグやクラブで指導することが可能となるのだ。以下では、この状況を踏まえ、欧州で監督を務める可能性のある日本人指導者の候補を、経歴、実績、適性に基づいて考察してみたい。




森保一監督 写真:Getty Images

森保一(現日本代表監督)


指導歴:日本代表(2018-)、U-24日本代表(2017-2021)、サンフレッチェ広島(2012-2017)


森保一監督は、おそらくは現時点で最も有名な日本人監督だろう。2022年のFIFAワールドカップ(W杯)カタール大会では、グループリーグでドイツ代表とスペイン代表を破り1位突破。仮にこれが外国人監督によるものだったら、欧州クラブや強豪国の代表チーム監督就任オファーが殺到していただろう。


就任当初は自身のスタイルが確立できずにサポーターからの批判に晒されていたが、自らの型に選手を当てはめる手法を捨て、欧州クラブで活躍する選手の個人能力を生かす方向にシフト。かつ、強固な守備を築いたことで結果を出した。加えて、サンフレッチェ広島でJ1リーグ3度の優勝(2012、2013、2015)の実績も見逃せない。


2026年のW杯北中米大会までの契約を全うし、同大会でも決勝トーナメント進出を果たせば、アジアはもちろん、欧州からオファーが届く可能性もある。


広島監督時代の看板戦術だった3バックをあっさり手放す柔軟性も持ち、ピッチ外でもコミュニケーションを欠かさないモチベーターの側面もある。代表戦の際に流れる「君が代」に涙したかと思えば、試合が始まると冷静沈着にメモを取る姿には、つかみどころのなさも感じる。相手からしてみれば不気味この上ないのではないだろうか。


問題があるとすれば、約2億円と言われている高額年俸と語学力だが、ビッグクラブともなれば10億円を超える年俸を受け取っている監督もザラにいる中、この数字は“格安”といえよう。となれば、残された問題は語学力のみ。森保監督の語学力がどの程度なのかは不明だが、実際に采配を振るうとなれば、サッカーを理解した通訳の雇用は必須となるだろう。




長谷部誠コーチ 写真:Getty Images

長谷部誠(現アイントラハト・フランクフルトU-15コーチ兼日本代表コーチングスタッフ)


指導歴:アイントラハト・フランクフルトU-15コーチ(2023-)、日本代表コーチングスタッフ(2023-)


選手として活躍したドイツ、ブンデスリーガのアイントラハト・フランクフルト(2014-2024)で引退後、UEFA Bライセンスを取得し、フランクフルトのジュニアユースチームを指揮すると同時にUEFA Proライセンス取得を目指している長谷部誠氏。


日本代表MFとして長く主将を務めた上、浦和レッズ時代にJ1優勝(2006)、ACL優勝(2007)のみならず、渡独後にはヴォルフスブルクでブンデスリーガ優勝(2008/09)、フランクフルトでもDFBポカール優勝(2017/18)、UEFAヨーロッパリーグ(EL)優勝(2021/22)という輝かしい戦績を誇っている。


JFA Proライセンスよりも先にUEFA Proライセンスを取得する可能性が高い長谷部氏。当然、フランクフルトのフロントも、将来的に監督を務めてもらいたいという思いでクラブに残留させたことは明らかで、ライセンス取得のタイミングとチーム状態次第では、意外と早期に欧州での監督デビューを果たすのではないだろうか。


浦和時代はトップ下として攻撃陣を引っ張り、ドイツ移籍後にはボランチにコンバート。そしてフランクフルトでは3バック中央のリベロのポジションを任される(交代枠を使い切った後にGKが退場し、“即席GK”も経験した)など、様々な役割とキャプテンシーを併せ持った人格者とあって、名監督となる資質を感じさせる。


シント=トロイデンのユニフォーム 写真:Getty Images

高野剛(現シント=トロイデンVV U-21監督兼マネージメントディレクター)


指導歴:シアトル・サウンダーズFCリザーブ(1999)、FCアライアンス(2000)、ワシントン州U-14選抜(2001)、ギラヴァンツ北九州U-18(2016)など


名前を聞いて「誰?」と思うのも無理からぬことだ。高野剛氏は、福岡県の強豪、東海大五高校(現東海大福岡高校)を卒業したものの、米国の大学に語学留学。高校で引退したつもりで草サッカーに興じていたところ、留学先のセントラル・ワシントン大学のサッカー部監督から声が掛かり、そこで大学リーグとセミプロのヤキマ・レッズFCでプレーし、再びプロを目指すことになる。


1999年に、メジャーリーグサッカー(MLS)の下部リーグとしての位置付けにある独立リーグのユナイテッドサッカーリーグ(USL)所属のシアトル・サウンダーズでプレー。選手引退後にはスタッフに。2005年に帰国し、サンフレッチェ広島に育成部門のコーチとして入団。2009年にはトップ昇格、スカウティング担当となる。トップチームでの選手経験のない人物の大抜擢はクラブ初のケースだった。


2010年にはイギリスに渡り、当時EFLリーグ1(3部)のハダースフィールド・タウンの育成部門のコーチとして入団。日本人2人目となるイングランドサッカー協会公認・欧州サッカー協会公認A級指導者ライセンスを取得する。


2012年1月には、当時EFLチャンピオンシップ(2部)のサウサンプトンに移籍したFW李忠成(2023年引退)の通訳として入団。プレミアリーグ昇格に貢献し、翌シーズンから李の通訳と並行してテクニカルアシスタントコーチに昇格。日本人として初めてプレミアリーグ所属クラブのコーチとなった。


2018年には、日本人初かつアジア人初となるイングランドサッカー協会(FA)と、UEFA Proライセンスを取得。時を同じくしてJリーグから声が掛かり、フットボール本部育成部に配属されると、育成改革プロジェクト「Project DNA」の立ち上げに関わる。2021年、日本の大手IT企業DMM.comが買収したベルギーのシント=トロイデンVVのコーチングスタッフに加わった。


プロ選手および監督としてトップリーグでの経験はないが、日本人初のUEFA Proライセンスを取得した人物だ。現在、シント=トロイデンは2部降格の危機に瀕している。ワウター・ヴランケン氏を新監督に迎えたばかりだが、日本人選手7人を擁しているとあって、まさかの降格となれば次期監督として高野氏の名前が挙がる可能性もあるだろう。




モラス雅輝TD 写真:Getty Images

モラス雅輝(現SKNザンクト・ペルテンテクニカルディレクター)


指導歴:インスブルッカーAC(オーストリア)女子セカンドチーム・U-12・U-13・U-15監督(1999-2004)、ヴァッカー・インスブルック(オーストリア)セカンドチーム監督(2021-2022)、同トップチーム監督(2021-2022)など


Jリーグファン、特に浦和レッズのサポーターにとっては、2008シーズンにゲルト・エンゲルス監督の下でコーチ兼通訳としてベンチ入りし、そのサーファーのような見た目のインパクトでモラス雅輝氏を記憶している人も多いだろう。


ちなみに2019シーズン、ヴィッセル神戸の新監督に就任したトルステン・フィンクが監督のアシスタントコーチとして、再び“J上陸”を果たしている。


生まれも育ちも東京で生粋の日本人だが、中学卒業後に単身海を渡り、同じくプロ選手経験がないままブンデスリーガの名将となったクリストフ・ダウム氏(2024年死去)との出会いがきっかけで、1997年に18歳で選手を引退し指導者に転身したモラス氏。


オーストリア女子1部、ドイツ女子3部、オーストリア男子2部のクラブで監督やコーチを務め、6度のリーグ優勝、5度のリーグ昇格経験を持ち、オーストリアサッカー協会コーチングライセンスを所持している。


難関と言われているオーストリアブンデスリーガ・スポーツマネジメント・アカデミーの卒業生でもあり、レッドブル・ザルツブルクでは、元日本代表DF宮本恒靖と元日本代表MF三都主アレサンドロの通訳とスカウティングスタッフを兼務。育成や裏方、フロントの仕事も経験したことで、指導者としてのみならず、戦術分析やコミュニケーション能力に一日の長があり、オーストリアのクラブであればすぐにでも監督就任が可能だろう。




中村俊輔コーチ 写真:Getty Images

中村俊輔(現横浜FCコーチ)


指導歴:横浜FCコーチ(2023-)


今年2月、加藤知弘静岡産業大ヘッドコーチと、元東京大学ア式蹴球部監督(2021-2023)で人気解説者の林陵平氏とともに、満を持してJFA Proライセンスを取得した元日本代表のレジェンド、中村俊輔氏。


現状コーチとしての経験しかなく、欧州で監督を務める認定基準に達していないが、現役時代に所属したスコティッシュ・プレミアリーグのセルティック(2005-2009)では今でも彼はアイドルだ。スコットランド代表監督(2013-2017)も率いたスコットランドサッカー界の大物、ゴードン・ストラカン氏と師弟関係にあったことで、“特例措置”としてセルティック・パークに監督として戻ってくる可能性もゼロではないだろう。


今2024/25シーズン、現在リーグ戦首位を独走し、4連覇が濃厚となっているセルティック。昨2023/24シーズンから2度目の指揮を執るブレンダン・ロジャーズ監督は前回も成績不振によって辞任したわけではない(プレミアリーグのレスター・シティからの引き抜き)。何事もなければ長期政権を築き上げそうだが、いつまたイングランドのクラブから引き抜きに遭うかも分からないところが、スコットランドのクラブの宿命だ。


そんな時のためにセルティックは“次期監督リスト”を常に備えているはずだ。条件さえ整えば、そのリストに「シュンスケ・ナカムラ」の名が記される未来もそう遠くないだろう。




現時点で、JFAとUEFAのライセンス互換が実現したとしても、欧州クラブは実績や語学力、ネットワークを重視するため、実際に就任するには時間が掛かるだろう。


元日本代表FW岡崎慎司氏(現ドイツ6部バサラ・マインツ監督)のように、欧州で活躍した元選手がそのまま帰国せずに、UEFA Proライセンス取得を目指すケースもある。欧州で監督を務めたいならば、その方が近道だからだ。


JFAとUEFAのライセンス互換は、日本人指導者の欧州挑戦を大きく後押しする大きな第一歩となり、指導者育成の面で日本サッカーのグローバル化が加速する可能性を秘めるものだ。ただし、成功するには言語や文化の壁を乗り越える努力と、欧州での戦術の進化をいち早く吸収していく向上心が不可欠だ。この改革が、Jリーグ、および日本代表の競争力向上にどう繋がるかが注目される。

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