DH制導入なら...どうなる高校野球 健大高崎・青柳監督に聞いたメリット「一日でも早く導入して」

2025年4月25日(金)5時0分 スポーツニッポン

 高校野球は大改革期を迎えている。日本高野連は今年に入り、DH制導入についての検討を進めている。実施されれば、どのような影響があるのか。24年選抜で日本一、今春の選抜でも4強入りした健大高崎(群馬)の青柳博文監督(52)にDH制導入がもたらすメリットについて聞いた。 (取材・柳内 遼平)

 全国から逸材が集う健大高崎の監督だから、DH制導入を求めるのではない。教育の一環である高校野球界にもたらすメリットは多い。だからこそ、の思いがあふれた。

 【メリット(1)「守備難の選手の救済」】

 青柳監督は前橋商(群馬)時代は3年春に強打の一塁手として甲子園に出場したが「自分は守備が凄く下手だったので選手の時から“DH制やってほしい”と思っていたんです」と振り返る。4強入りした今春選抜の1回戦では明徳義塾(高知)と激突。ロースコア勝負は承知の上、守備が苦手なスラッガー・佐伯幸大(3年)を左翼でスタメンに抜てき。ただ、佐伯は終盤の守備力を考慮して途中交代した。「DHがあれば佐伯を使いやすかったし、打つだけの選手の生きる道になる」。

 【メリット(2)「故障選手の救済」】

 左肘手術明けで投げられない左腕・佐藤龍月(3年)は代打要員としてメンバー入りさせた。だが、慣れない代打で4打数無安打。仮にDH制があれば「佐藤は上位で使うプランもあった」という。昨春の選抜から低反発の金属バットが導入され、本塁打を含む長打は激減。「野球がつまらないですよね。もっと点が入らないと魅力がない。やっぱり点が入ることって楽しいし、面白い」。手術明けでもDHに専念した昨年の大谷(ドジャース)のように、短い高校野球生活の中でも輝けるチャンスが増える。

 【メリット(3)「投手の故障防止」】

 昔のようにエースが先発完投で勝ち上がる高校は減り、投手の分業化が進む。「ウチも投手は野手の30%ほどしか打撃練習の時間がない。バットを振りすぎてマメができたら投球に影響する」。打撃力がなければおのずとバントの機会が増えるが「バントは指に投球を当てて骨折する危険性がある」と警鐘を鳴らす。実際、名門校のエースがバントで指を骨折した事案が複数発生している。

 【メリット(4)「国際試合対策」】

 昨年のU18アジア選手権(台湾)で日本代表はスーパーラウンド以降、3試合で計2得点に終わった。不慣れなDHを担った選手は計6打数無安打だったが、スペシャリストを置けば話は変わる。スカウティングにたける健大高崎においても「一発勝負の高校野球で守備ができない選手は獲れない」と獲得を見送ってきたが、一転して打撃型選手に光明が差し込むことになる。

 新たなアイデアも浮かぶ。今春選抜で優勝した横浜(神奈川)の左腕・奥村頼人(3年)、山梨学院の怪物右腕・菰田陽生(2年)のような二刀流選手は、高校生に多い。そこで青柳監督は「打撃は投手以下だが守備だけはピカイチの選手もいる」と投手以外を指名打者にできるソフトボールの「DP制」(指名選手)を推奨した。実現すれば守備職人にもチャンスが広がることになる。

 7回制導入議論の一因になった暑さ対策の面においても、メリットがある。真夏の試合で投手が出塁し、長駆ホームインを果たした直後にマウンドに立てば、肩で息をしながら投げることになる。そんな危険な状況を回避できる。DH制導入の利点について弁が止まらない青柳監督。「一日でも早くDH制を導入してもらいたいですね」と締めた。

【東京六大学野球も来春DH制導入】

 創設100周年を迎えた東京六大学野球連盟は、来春のリーグ戦からDH制を採用する。現場からの要望や、卒業生の進路である社会人野球でもDH制が採用されており、改革に踏み切った。これで全国大学野球27連盟でDH制を採用していないのは関西学生野球連盟だけとなる。早大・小宮山悟監督は「投手が打席に立つ野球を諦めることは残念ですけど、やむを得ないのかな。ただ、これで“打つだけ番長”を獲れるというメリットが出てきた」と受け止めた。

【7イニング制も高野連議題】

 日本高野連は今年1月、大阪市内で「7イニング制等高校野球の諸課題検討会議」の初会合を開催した。障害や熱中症などに関する健康対策、教職員の働き方改革などの問題とともに、指名打者制やリプレー検証導入も検討課題の一つとなる。同会議は昨年設置した7イニング制に関するワーキンググループの報告を受けて発足。日本高野連の宝馨会長やU18日本代表の小倉全由監督ら15人のメンバーが継続的に議論し、年内に方針を決める。

≪一芸磨けば…公立校の選手にも希望与えられるはず≫

【取材後記】DH制導入は、全ポジションに逸材がひしめく健大高崎など強豪だけにメリットがある話ではない。たとえば、記者の母校・光陵(福岡)のような公立校の選手にもメリットはある。今回、青柳監督の話を聞いて、改めてそう思った。

 高校では外野手だった記者は、足だけは自信があった。練習試合を含めて盗塁失敗はゼロだったが、後逸、落球が当たり前の壊滅的外野守備でベンチを温めた。ただ、DH制があれば1番打者を張ったかもしれない…。チームメートにはイップス持ちだった遊撃手、打撃以外には興味がない選手もいた。

 一芸を磨けば俺だって試合に出場できるかも…。DH制導入は私のような選手たちにも希望を与えるはずだ。 (アマチュア野球担当キャップ・柳内 遼平)

スポーツニッポン

「高校野球」をもっと詳しく

「高校野球」のニュース

「高校野球」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ