獲れたはずの4ポイントを手放したマイアミ/2026年導入の新規則は“救済措置”に懸念【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第5回】
2025年5月16日(金)12時0分 AUTOSPORT web

2025年シーズンで10年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄代表。第6戦マイアミGPでは今年2回目のスプリントレースが開催され、ハースは入賞圏内でレースを終えるもペナルティで降格。決勝レースでも獲れたはずのポイントを逃す、噛み合わない週末になった。またグランプリの前にはF1コミッションが行われ、2026年より導入される新しい技術規則について、懸念点が浮き彫りになったという。そんなマイアミGPを小松代表が振り返ります。
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■2025年F1第6戦マイアミGP
No.31 エステバン・オコン スプリント予選12番手/スプリント12位/予選9番手/決勝12位
No.87 オリバー・ベアマン スプリント予選20番手/スプリント14位/予選20番手/決勝DNF
F1第6戦マイアミGPは、毎日問題があって、ひと言で言えばチームとしてはレベルの低い週末になってしまいました。本当にこんなことをやっている場合じゃないなと痛感しています。
まずはFP1です。オリー(編注:オリバー・ベアマン)は走り出しからいい感覚だったのですが、クラッシュしてしまいました。もったいなかったですね。もうミスしたことを言っても仕方ないですし、本人も謝っていたので、彼をどう励ますかというよりは、とにかく気持ちを切り替えてスプリント予選に臨もうという感じでした。
そのスプリント予選のSQ1でオリーが20番手に終わったのは、チームのミスでした。最近はピットレーンにタイミングよく並ぶのも戦いで、今回はリスクを取り過ぎてしまい、SQ1の最後のアタックに1秒、間に合いませんでした。一方でエステバンは無事にSQ2進むことができたのですが、スプリントのレース自体は雨であんまりペースはよくなかったです。 反対にオリーは結構いいペースで、 最後尾から8番手まで追い上げて、すごくいいレースをしてくれましたね。
残念ながら、インターミディエイトタイヤからミディアムタイヤに変えた時のピットストップに対してアンセーフリリースの裁定が出て、タイムペナルティを受けて最終的な結果は14位となりました。他車のペナルティもあったから、きちんと安全にリリースしてれば6位で3ポイントを獲れたはずなので、すごくもったいなかったです。このタイトな中団での戦いにおいて、3ポイントを捨てていいわけないですし、こうして振り返って見るとすべてが後手に回った感じがあるので、見直して気持ちを切り替えないといけないです。
ただ、ストリートコースで雨が降るなかスプリントレースをするとこういう展開になるという意味では、見ている方々にとってはおもしろいレースだったのかなと思います。レース自体もそれほど長くなくて、ピットストップもあって1周のタイミングで大きく順位が変わったので、ショーとしてよかったのではないでしょうか。
■ピットストップのタイミングを見誤った決勝
土曜午後の予選のオリーですが、第4戦バーレーンGPの時とは反対に、僕はソフトタイヤを3セット使ったほうがいいのではないかと思っていたのですが、彼は2セットで大丈夫というので、2セットでいきました。その判断が間違っていてQ1敗退となってしまいました。エステバンがQ3まで進んだことはよかったですが、実は今回はそんなにクルマは速くなかったのです。中団ではウイリアムズがとても速かったですね。
とはいえ、ハースと同じパワーユニット(PU)を使っているフェラーリのタイムと比較すると、今回はルイス・ハミルトンがQ2で敗退しましたが、ハミルトンは何か特別大きなミスをしたわけではなかったようで、シャルル・ルクレールともコンマ1秒くらいの差でした。そのルクレールとエステバンがQ3でコンマ1秒ほどの差だったので、順位はよくなくても予選でのパフォーマンスは悪くなかったと評価しています。
決勝レースに関して反省すべき点は、エステバンのピットストップのタイミングを1周誤ったことです。23周目にピットストップをしたことでアイザック・ハジャー(レーシングブルズ)の後ろで詰まることになりました。19周目にガブリエル・ボルトレート(キック・ザウバー)がピットインし、彼をカバーすべくハジャーが動くのは明らかなので、そのハジャーの動向を見ていたのですが、うまくチーム内で連携が取れませんでした。
ハジャーは、ピットレーンの速度違反でタイムペナルティを受けた角田裕毅(レッドブル)を追っていましたけど、もしエステバンをハジャーの前に出すことができたら、あの時のハジャーのようにエステバンがフリーエアで走ることができていたでしょうね。そうできていれば角田との差を詰めて、彼のペナルティ後に10番手に上がれたはずです。
スプリントでペナルティを受けなければ獲れたはずの3ポイント、決勝レースでピットストップのタイミングを間違えなければ獲れたはずの1ポイント、合計4ポイントを手放してしまったので、今後こういうことがないようにしていかなければいけません。前戦サウジアラビアGPは速さが足りなかったのでどうしても入賞には届きませんでしたが、今回は獲れたはずのポイントをとりこぼしたので、リセットしてこれからのヨーロッパラウンドに臨みたいです。
また、オリーがリタイアしたのはPUトラブルのせいですが、このコラムを書いている現時点ではまだ原因はわかっていないです。完全に壊れてしまったので、もう使うことはできません。オリーは開幕戦でクラッシュした時にもひとつエンジンを壊しており、もうすでに2基失っている状況なので、この先どこかのグランプリで5基目を投入してペナルティを受けることになると思います。
■未だ決まらぬ『救済措置』
マイアミGPの前にはジュネーブでF1コミッションがありました。議題は主に今年と来年のレギュレーション(テクニカル・スポーティング・ファイナンシャル)でした。
そのなかでも問題なのは、2026年に新しくなる技術規則について、特にPUのエネルギーマネージメントの話です。それぞれのPUマニュファクチャラーがどれだけいい性能のPUを作ることができて、どれだけエネルギーを回生できるのか、発電できるのかというのはみんな気にしていると思いますが、捉え方は人それぞれで、以前から問題視している人もいれば、規則を受け入れて対応している人もいます。
PU開発がうまくいっていないマニュファクチャラーの人のなかには「これではF1にとってよくないから規則を変えてほしい」と言う人もいますが、そういう意見が今の段階で出てくるのは遅すぎます。決められた規則でそれぞれ開発しているので、今のところ何かが大きく変わることはなさそうですが、2026年のことを考えると、本当に懸念すべきことだと思います。
気になるのは“救済措置”です。というのも、2014年にハイブリッドのエンジンが導入された時はメルセデスの一強でしたよね。僕が当時所属していたロータスではルノー製PUを使っていましたが、全然戦えない状況でした。あの時のように、あるマニュファクチャラーのPUを持っていないと勝負にならないという状況が2026年にも起こる可能性があるわけで、そうなった場合にどうするのかというのがまだ確定していないんです。
救済の手段が決まっていないこともよくないですが、どうしてこれを早めに決めなければいけないのかというと、もし開発に成功して2026年に成績を残すことができたら、その人たちにとって救済措置は必要なくなるからです。自分たちが勝てていれば、他の人たちを助ける措置には関心を持たなくなりますよね。今は2026年の勢力図がどうなるかわからないから、全員が救済措置を設けることに協力的です。だから今のうちに決めておくことが重要ではあるのですが、それにしてももう5月ですからね……。シャシーやエアロの細かい点についてもまだ決まっていない部分がいろいろとあります。他のスポーツでは競技者がルールの決定にここまで関わることはないかもしれませんが、これもF1というスポーツにおいて複雑な技術を使い、大企業が関わっている難しさかもしれません。とにかく、2026年におもしろいレースをすることを一番の目的にF1全体で取り組まなければいけません。
