「朝のウォームアップは自信を失いパニックだった」と佐藤琢磨。ハイブリッドシステムを駆使しトップ12に進出/第109回インディ500予選1日目
2025年5月18日(日)11時37分 AUTOSPORT web

5月17日、いよいよ第109回インディアナポリス500マイルの予選1日目が始まった。
前日のファストフライデーの後に、サンダーストームに見舞われたインディアナポリス・モータースピードウェイだったが、幸い大きな影響もなく快晴の朝を迎えた。
佐藤琢磨が前日に予告していたように、朝のプラクティスにほとんどのドライバーが参加したが、ふたつのグループに分けられたセッションでグループ1でメイヤー・シャンク・レーシングのマーカス・アームストロングがターン1で大クラッシュを演じてしまった。
コンディションは決して悪くはなかったが、各車ともに予選に向けてギリギリまでダウンフォースを削っていることは容易に想像できた。
グループ2に出走した琢磨も、レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングのエンジニアたちとじっくりとミーティングを重ねて予選の仕様を決めて来た。
4周ずつ2度のアテンプトをして、ベストスピードは232.678mphをマーク、7番手に付けた。プラクティス初日から雨やトラブルに足を引っ張られ、時間を失って来たが、予選日当日の朝にようやくトップ10圏内まで戻ってきた。
当然、琢磨の表情も明るいかと思いきや、マシンを降りてから何か思案している様子でエンジニアのエディ・ジョーンズとのディスカッションも、いつも以上に長かった。
2時間後に始まる予選までに最後のマシンの仕様を決めねばならず、気温や風向きをすべての要素を勘案して決断を下さなくてはならない。スピードこそ戻ったが、それが本物で予選で発揮されるものなのか、琢磨を悩ませていた。
11時から17時50分まで行われる予選。全34台が最低1回のアテンプトが保証されており、金曜日に行われたドロー(くじ引き)で出走順が決まっている。
琢磨は21番目のアテンプトとなっていた。11時に予選が予選が始まっても、琢磨が出走する時間までに気温や路面温度が上がっていたら、状況は悪くなってしまうが、今年は比較的涼しく安定したコンディションだったのは、運が味方していたのかもしれない。
だが、運に見放されたドライバーもおり、15番目に出走していたコルトン・ハータは、今年の鬼門となっているターン1でスピンしながらウォールに激突、マシンは逆さになりながらウォール沿いに滑っていった。ハータが怪我もなくマシンから降りて来たのは、今のインディカーが安全な証でもあるし、さらに今日の最後にはバックアップのマシンでアテンプトに戻って来たのは大きな驚きでもあった。
琢磨の前の20台ではマクラーレンのパト・オワード、チップガナッシのスコット・ディクソン、プレマのルーキー、ロベルト・シュワルツマンが上位を占めていた。
彼らは4周平均のスピードが232mphを越えていた。朝のウォームアップのタイムから見れば、琢磨にも届きそうな数字だったが、どこまでスピードを見せることができるか、場内は琢磨の75号車に注目した。
ウォームアップを219mphで走った後に計測が始まり、1周目232.437mph、2周目232.163mph、3周目232.050mph、4周目232.025mphときれいに232mph台で揃え、4周平均232.169mphをマークして、この時点で6番手につけた。順当に考えれば翌日のトップ12に進出できる可能性は高いポジションだった。
琢磨のアテンプトの後にはチップ・ガナッシのアレックス・パロウ、ペンスキーのスコット・マクラフラン、ジョゼフ・ニューガーデンらが平均233mphの驚速スピードを叩き出し、アクシデントのマシンを除いたマシンが1度目のアテンプトを終えた段階で琢磨は9番手のタイムになった。
トップ12の進出の可能性は高かったが、気温が下がって来た場合は、好タイムが出る可能性もあり、トップ12進出を目指すドライバーやバンプアウトされたくないドライバーは、タイムを出しに行くべくアテンプトの準備を始めた。
琢磨がもう一度ピットに現れ、タイムを捨てずにアテンプト出来るレーン2に並んだのは16時前だった。すでに10台弱のマシンが並んでおり、また自分のタイムを捨てて再挑戦するレーン1にもマシンが並んでいる。
17時前に琢磨がようやくコースイン。気温も安定していたのだが、大きくタイムを伸ばすドライバーは少なかった。
琢磨はGOサインと共にコースに出ると、1周目232.890mph、2周目232.839mph、3周目231.710mph、4周目232.226mph、平均232.415mphと自らのタイムをわずかに上回って見せた。
ライバルがタイムアップに苦戦する中では、上出来の結果。ポジションも8番手にひとつ上げた。その後、AJフォイトのデイビット・マルーカスにタイムを上回れ、また9番手に戻ってしまったが、トップ12入りは揺るぐことなく、琢磨は無事に予選2日目に進むことになった。
「昨日までのセッティングを見直して朝のウォームアップで試したのですが、4周のラップを完璧に終えていなくて、ちょっと自信がなくなるというか、パニックしてました。けど、エンジニアのエディとみんなと相談して、1回目のアテンプトに臨みました」
「そこで良いタイムが出て自信が戻ったし、2度目のアテンプトにも臨むことが出来ました。この予選がうまくいったのは、ハイブリットのディプロイとリージョンをうまく使うことが出来たからで、それがうまくいってなかったら、このタイムは出てなかったでしょう」
「エンジニアのみんなも喜んでくれました。明日はトップ12ですけど、このライバルの中でトップ6に残るのは大変だと思いますけど、なんとか残ってフロントロウ目指して頑張りたいですね」
自信を失いかけていたというのは、予想外のコメントだったが、思い返せば大クラッシュの後に、マシンのトラブルもあり、十分に走れていないのだから、タイムが出るまで自信が取り戻せなかったのは当然かもしれない。
しかし、ベテランの経験と新しいハイブリッドの攻略がトップ12への進出を可能にした。明日のトップ6でも何か起こすのではないかと期待してしまうのは、インディ500を2度制覇したチャンピオンへの敬意だと思って欲しい。