販売わずか1台!? ホンダやニッサンが繰り出した“裏技ホモロゲ”史【スーパーGT驚愕メカ大全】

2020年5月19日(火)7時0分 AUTOSPORT web

 1994年に始まった全日本GT選手権(JGTC。現スーパーGT)では、幾多のテクノロジーが投入され、磨かれてきた。ライバルに打ち勝つため、ときには血の滲むような努力で新技術をものにし、またあるときには規定の裏をかきながら、さまざまな工夫を凝らしてきた歴史は、日本のGTレースにおけるひとつの醍醐味でもある。


 そんな創意工夫の数々を、ライター大串信氏の選定により不定期連載という形で振り返っていく。第3回となる今回は「レース車両開発“以前”から始まっている戦い」についてである。


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 2009年の車両規則改定までは、スーパーGT(JGTC)の車両規則は、参加できる車両について「FIAが定めるグループN、A、B及びJAF量産ツーリングカー(N1)または特殊ツーリングカー(N2)として公認された車両」と定めていた。


 具体的にはN1の場合は連続する12か月間に2500台、N2の場合は500台が生産販売されなければ、公認は得られなかった。これがいわゆるホモロゲーションという制度である。このように、量産車改造クラスであるGTには元々、「少数しか存在しない特殊な車両を認めない」という理念があった。


 だが、競技車両を開発する技術者たちは「ハイそうですか」と引き下がるほど素直な人々ではない。定められた競技規則の中に、何か抜け道を探し出してライバルを出し抜こうと知恵をしぼる。その結果生み出される、あえていうなら「裏技」は、レーシングテクノロジーを楽しむファンの好奇心をこれでもかと刺激するものだ。


 ホモロゲーションについてもこれまでいくつかのアイデアがひねりだされた。まずホモロゲ技を繰り出したのが1997年に登場したホンダNSXだった。


 NSXは、車体底面に空気を流してダウンフォースを生み出す空力マシンで、空気の流れを乱さないよう、底面に露出した燃料タンクをパネルで覆い、底面を1つの平面に成形していた。ホモロゲーションを受けた量産モデルには装備されていないパネルを追加すれば車両規則違反になるが、開発陣は車両規則に「量産メーカーの純正オプションならば追加してよい」とする追加条項に着目、パネルを純正オプションの「タンクガード」として設定して車両規則の壁をすり抜けた。


 エンジン吸気にラム圧をかけるためのルーフインテーク(02年には大型化して、いわゆる“ちょんまげ”に進化する)も純正オプションパーツとして追加され、競技車両に装備された。


 開発陣は「もともと存在した純正オプションを流用しただけ」と、それを証明するための正式なカタログを示したものだったが、実際にはあくまでもレースのために作られ、ついでに一般販売された“ホモロゲパーツ”であった。


 もう少し大掛かりなホモロゲ技は、04年のニッサンが繰り出した。


 ニッサンはGT-Rの生産中止に伴い新たなベース車両をフェアレディZにしたが、02年7月に発売されたオリジナルZはベース車両として大きな課題を抱えていた。発売されたZは、前後オーバーハングを切りつめたコンパクトな未来型スタイルが特徴だったが、フロントノーズが短いため車体下面でダウンフォースを生み出すことが難しかったのだ。


 そこで04年、ニッサンはレースのためにメーカー公認パーツを準備し、ベース車両の形状を変えてしまうという荒業に踏み切り、公認パーツを装備した特別仕様限定車であるタイプEを発売した。

前年(03年)にR34型GT-Rでタイトルを獲得していたニッサン陣営。タイプE登録という”裏技”も効き、Zへベース車両を変更したこの年もザナヴィニスモ Zがシリーズを制する。


■NSXも、さらなる大技を披露へ


 NSXにしてもZにしても、こうした発想は前回も指摘したように技術競争を抑制する目的で定められた車両規則を充たすため、かえってコストや手間をかけることになった例である。


 この手のレース用メーカーオプションの設定は、コストや流通を考えればレースが本業ではない本社としては手がけたくない仕事であり、よほどのことがなければ実現はしないものだが、これだけ大掛かりなホモロゲパーツ設定が許されたのは、当時のニッサンレース部隊がよほど追い詰められていたからだったのだろう。


 ZタイプEに続けとばかり、翌年にはホンダが突っ走った。


 当時、ターボ過給エンジンを無理やりNSXに詰め込んで戦っていたが、開発陣はオリジナルのNSXのボディでは高性能化に限界があると考えていた。


 そこでGTレースのため前後オーバーハングを稼ぐための特別なバンパーを含むパーツを組み込んだ市販モデル、事実上のホモロゲーションモデルを本社に「作らせて」しまった。これが05年に発売されたNSXタイプR GTである。


 車両規則は公認量産車両のサイズを基本に改造範囲を定めているので、その分改造範囲は大幅に広がる。タイプR GTの場合は、オーバーハングが前後合わせて180mm伸びたことで空力性能が向上しただけではなかった。横へ張り出す形のサイドインテークを追加することで全幅も90mm広がっていたので、この公認全幅を受けて競技車両はエンジンルームを広げ、詰め込まれていたターボ過給エンジンの補器類配置に余裕を持たせて熱害を防止するなど各種の対策を講じたのである。


 タイプR GTの生産台数はわずか5台、価格は5000万円。基本的にはノーマルNSXにバンパー、サイドインテークなどを追加しただけのモデルであることを考えるとあまりにも高価で、ホンダがこのモデルを積極的に売る気がなかったのは明らかだ。それでも1台は売れたというから驚くが。


 そんなことも含めて、ホモロゲ技は本当に面白い。

02年よりルーフ上のエアインテーク(通称”ちょんまげ”)がついたホンダNSX。05年からはベース車両をNSXタイプR GTとすることで、空力開発やレイアウトの自由度が増すことに。


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