“J2の番人”水戸ホーリーホックがJ1昇格圏!躍進の裏にある育成戦略とは

2025年5月22日(木)14時0分 FOOTBALL TRIBE

水戸ホーリーホック 写真:Getty Images

2025明治安田J2リーグは5月18日までに第16節を終え、ジェフユナイテッド千葉が勝ち点36で首位を走っている。トップの千葉から6位のジュビロ磐田までは勝ち点9差。そんななか、4連勝と好調を維持しているのが現在3位の水戸ホーリーホックだ。


2000年にJ2参入後、これまで1度も昇降格を経験することなく20年以上同カテゴリーで戦い続けており“J2の番人”とも呼ばれているが、水戸での活躍を機にJ1や海外クラブへステップアップした選手も多く、育成面では定評がある。ここでは、水戸の今季ここまでの戦いと育成型クラブとしての魅力について伝えていく。




水戸ホーリーホック サポーター 写真:Getty Images

リーグ戦4連勝でJ1昇格圏に


2025シーズンの水戸は、2月15日に行われた磐田との開幕戦で黒星を喫したものの、その後は好調を維持しており、現在リーグ戦では8試合負け無しの4連勝で3位に浮上するなど大きな躍進を見せている。さらに第15節のブラウブリッツ秋田戦、第16節のロアッソ熊本戦では2試合連続で後半アディショナルタイムに勝ち越しゴールを挙げるなど勝負強さも見せている。


J2での水戸はこれまで特に目立つ成績はなく、最高成績は2019年の「7位」とJ1昇格とは縁遠い歴史を歩んで来た。その水戸がここに来てJ1自動昇格も狙える3位に位置してるのはなぜなのだろう。その理由のひとつには「育成の水戸」とも呼ばれる独自の理念と戦略がある。




水戸ホーリーホック 写真:Getty Images

「育てながら勝つ」独自理念と戦略


水戸はビジョンのひとつとして「人が育ち、クラブが育ち、街が育つ」を掲げている。この理念は、単に若手選手を育成するだけでなく、彼らをチームの中核として活躍させながら同時にチーム全体の競争力を高めるという挑戦的なアプローチだ。


現在のJ2リーグを見ると、RB大宮アルディージャやジェフユナイテッド千葉、ベガルタ仙台などかつてJ1に在籍していたチームも多数所属しており、これらのクラブと比べ水戸には経済的な課題がある。レベルの高いJ2リーグで勝ち抜くには、競争力のある選手を揃えるための資金力が必要だが、水戸のような地方クラブは経済面での不利が明白だ。


Jリーグが公表したJ2の2023年度クラブ別人件費を見ると、水戸のトップチーム人件費は3億4,600万円。これに対し、この年J1に昇格した清水エスパルスは22億4,600万円と約7倍の差がある。多額の費用をかけて選手を獲得することのできない水戸のようなクラブにとって、成長を期待される若手選手の活躍が勝利へと直結する体制構築は戦略として非常に効果的で、その実現こそ現在水戸が好調な要因のひとつと言えるだろう。


水戸ホーリーホック サポーター 写真:Getty Images

なぜ水戸に若手選手が集まるのか?


ところで、いくら選手の育成に力を入れているとはいえ優秀な若手選手がチームに集まらなければ意味がない。ではなぜ水戸に多くの若手選手が集まるのか。その答えはクラブの育成システムと明確な哲学、そして育成型期限付き移籍による出場機会の確保にある。


水戸は2018年より『Make Value Project』と題した独自の選手教育プログラムを導入している。このプログラムではメンタルや栄養面などの専門家や企業のビジネスマンなどによる研修が行われ、社会で活躍するための多様な知識とスキルを習得することができる。ビジネスノウハウや人的ネットワークを活用することで、選手たちは現役時代だけでなくセカンドキャリアに向けた基礎力を身につけることができ、「総合的な人間力」の育成にも繋がっている。


競技スキルを磨くだけでなく人間性の成長にも重点を置いたこの取り組みは、水戸が掲げる「人が育ち、クラブが育ち、街が育つ」を具現化したものと言えるだろう。クラブの明確なビジョンとそれを実現するための取り組みこそ若手選手が水戸を選ぶ理由のひとつになっているのではないだろうか。


また、近年では育成型期限付き移籍を積極的に活用することにより、他クラブで出場機会に恵まれない選手を受け入れている。比較的早い段階から出場のチャンスが与えられることで、選手たちは実戦を通じて実力を磨き自身のポテンシャルを引き出すことができる。この「人間力の育成」と「出場機会の確保」はプロの世界で活躍を目指す若き選手にとっては大きな魅力と言えるだろう。




前田大然 写真:Getty Images

水戸からステップアップした選手たち


水戸での活躍を機にステップアップした代表的な選手として、現在日本代表としても活躍するFW前田大然(セルティック/スコットランド)が挙げられる。


2017年に松本山雅から期限付き移籍にて水戸に加入した前田は、3月4日のJ2第2節ツエーゲン金沢戦でJリーグ初ゴールを記録。2017年はシーズン通算で13得点を挙げている。2018年、松本山雅に復帰した前田は2019年にCSマリティモ(ポルトガル1部)、2020年に横浜F・マリノス、2022年にセルティックへ加入。その後の活躍は言うまでもないだろう。


また、オランダ1部のNECナイメヘンに所属するFW小川航基も2019年7月に当時所属していた磐田から育成型期限付き移籍で加入し水戸に約6か月間在籍していた。その後は磐田に戻り、横浜FCを経て2023年にナイメヘンへ。日本代表としてこれまで9試合で9得点を挙げる活躍を見せている。


他にも2024年に日本代表に選出されたMF伊藤涼太郎(シント・トロイデンVV/ベルギー1部)やU23アジアカップに出場したFW藤尾翔太(町田ゼルビア)などの選手が水戸への育成型期限付き移籍を経験後、海外クラブや日本代表など活躍の場を広げている。




Jリーグ 写真:Getty Images

J1に向け、水戸の次なる挑戦


連勝記録を伸ばし好調を維持している水戸。しかし、J2リーグはまだ約4割を消化したに過ぎない。現時点でJ1昇格を語るのはやや早すぎるかもしれないが、クラブは「育成型」という理念を元に今後はJ1でも通用するクラブへ進化を遂げていくことだろう。


サッカーは必ずしも資金力のあるクラブが勝つとは限らない。経済面では不利な水戸だが「育てながら勝つ」という理念を貫き、残りのシーズンも上位争いを演じられるか注目したい。

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