【内田雅也の追球】時間かけた「しのぎ」
2025年5月24日(土)8時0分 スポーツニッポン
◇セ・リーグ 阪神3—0中日(2025年5月23日 バンテリンD)
阪神は4時間近い試合のほとんどの時間を守っていた。0—0の展開だったが、5回以降はピンチの連続だった。加えて、阪神の投手たちが焦らず、あわてず、時間(間合い)を使って、しのいでいた。
均衡を破った延長11回表の3点は投手陣の辛抱が報われた形だった。
先発・村上頌樹は5回無死一、三塁をしのいだ。二塁手・遊撃手は二塁併殺を狙う位置で1点やむなしの隊形だった。
村上はここから時間をかけて粘った。けん制球は投げないのだが、一塁へのけん制偽投で間合いを取ったのである。
迎えた宇佐見真吾への投球を書きだしてみる。○はストライク、●はボール、Fはファウル、◎は打球、そして「ギ」は偽投である。
●F●ギ●ギ◎遊飛
ボール先行でカウントを悪くしても偽投を入れて投げ急いでいない。これで遊飛にとった。
1死一、三塁で山本泰寛。一塁手がベースについているため、一塁側へのセーフティースクイズは要警戒だった。
初球の前にまた偽投。そして外角高めにボール球速球を投げると山本はバントの構えからバットを引いた。飛びだした三塁走者オルランド・カリステを坂本誠志郎の送球で刺したのだった。
山本への投球は、
ギ●●ギ◎二飛
と、2死一塁となっても偽投で一呼吸入れて、あわてていなかった。
6回裏1死三塁。今度は捕手のサインに3、4度首を振るなど時間をかけ、三振、申告敬遠、中飛でしのいだ。7回裏1死一、二塁も同様。2死二、三塁で代打ブライト健太にフルカウントになると坂本がタイムを取り、マウンドに駆け寄った。最後はこの夜最速の150キロ速球で一ゴロに切ったのだった。
9回裏は石井大智が無死二塁をしのいだ。途中、投手チーフコーチ・安藤優也がマウンドに歩んだ。球審にボール交換を要求した。
野村克也は「ピンチの時は球数と時間を使え」と説いた。阪神の投手たちは打者に投げずとも時間をかけていた。
「詩人は野球の投手のごとし」と米国の詩人、ロバート・フロストの詩にある。「詩人も投手も、それぞれの間(ま)を持つ。この間こそが手ごわい相手なのだ」
原文では先の間は「モーメント」、後の間は「インターバル」。瞬間と間合い、双方の間を支配していた。 =敬称略=
(編集委員)